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ルカの部屋 その3

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「万全に体調が戻った君の反応が見たくて、少し待っていたけど、まぁいいか。君の方からわざわざ俺に会いに来たんだしね、いつも通りにするよ」
「な、なに、急に」
「何、今更脅えてるの?俺が君を救ったから、自分に好意を持ってるって、タカをくくって来たんだろうけど生憎、俺は、人間に情なんてないんだけど」
 
 箱からは手紙が沢山出てくる。意味がわからず、眺めていると、それを宙に放って、ルカがすっと手を振ると端から火がついて、床にパラパラと落ちながら燃えていく。
 
「内容は一度、俺が確認しておいたから、聞きたいなら、人間らしく地べたに這いつくばって、お願いしてみてよ」
 
 内容……手紙?
 
 ハッと気がついて、立ち上がって駆け出す。まだ燃えているそれに手を伸ばして、かき集める。
 
 手紙っ、手紙だ!
 私の手紙。
 
 ずっと誰からも来なかった私宛の手紙だ!
 確かにマナンルークの紋章が刻まれている。
 どうやったら火が消えるのかわからなかったので、胸に押し当てるようにして抱え込む。
 服に火がつく事は無かったが、肌が氷水をかけられた時のように感覚が無くなって、視界いっぱいに、金色の炎が広がった。
 
「っつ!!」
 
 消えて!っ消えて。
 お願いだ。
 魔法が使えたら、水をかけられたのに!どうして消えてくれないの!
 
 手をゴシゴシと擦り付けて、馬鹿みたいに熱い手紙をぐしゃぐしゃになるほど抱きしめた。
 
「る、ルカ!!ルカ!消して!っ、ぐっぅ」
 
 どうにもならずに、目の前にいるルカにそのまますり寄った。炎の隙間から見えたルカの表情は、驚きに染っていて、私が強く睨むと、舌打ちをして、また、手を軽く振る。
 
「っ……はあっ、あ、あぁ、ううぅ」
 
 もう半分も残っていない燃えカスを、焼け爛れた手で抱きしめる。
 
 良かった。来ていたんだ。

 あれほど待ち望んでいた手紙がこんなに沢山。もう、あの屋敷に戻れないのだとしても、二度と会えないんだとしても、一等、大事だということに、なんの変わりもない。
 
 何にも変え難いものだ。
 ハラハラと涙が落ちてくる。大丈夫だ、ちゃんと、私は……こんな私でも、ちゃんと思われていた、こんなに価値のない人間でも、存在意義がある。
 
「は……はっ……ぅ……」
 
 あー、ネガティブになってしまうのは良くない。こんな感情は、しまっておかないといけない。ちゃんとしまって、しっかり鍵をかけて、鈍感な自分にならなければ。
 
「…………ねぇ」
 
 ルカが低い声で私を呼ぶ。視線だけ見上げると、どんと突き飛ばされて、床に、転がる。
 
「あぐっ、なっに」
「っ……はぁー…………取り返しが、つかなくなる」
 
 焦る様な声音で、私の胸元に手を置いた。ルカの手は、やっぱりいつも暖かい。こんな、もはや自傷行為と変わらない傷でも焦って治してくれるらしい。
 されるがままに転がって、天井を眺める。火傷のせいで顔面が異常なほど熱くて、唇が酷く痛い。
 ルカが手を滑らせて、じりじりとした骨まで響くような痛みが、緩く和らいでいく。
 
「くだらない。……っ、こ、こんなものに、これ程痛みを伴う事をする、価値なんか、ない」
「……は、……っ……」
「意味が分からない、君は……度を超えてる」
 
 その手は震えていて、本当に驚いているのだと、体を伝って実感した。
 
「え、へへ、はっ、……はぁ、いたい」
 
 ただの嫌がらせのつもりだったはずが、相手が重症を食らったら、そりゃ、震えもするだろう。ルカの言葉に、その通りだと思うと笑えてきた。
 
 うわ言のように、いたいと言う言葉を繰り返す私に、ルカは、眉をひそめて、傷を全て治し、ついでに足の捻挫まで治した。
 
 



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