お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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ルカの部屋 その4

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「君は何?もしかして、気が触れている?俺、心理学は詳しくないから、母国に帰ることを進めるけど」
「ふ、触れてない、正常だよ」
「そうは思えないけど、頭おかしいよ、君、自覚がないの?」
 
 私は、怪我をした勢いで覚醒状態になった。もう眠気など微塵も残っていないが、何故かプルプルと腕が震える。
 その事はあまり気にせずに、燃え残った手紙を床に並べていく。
 
 ルカは、魔力を使いすぎたのか、私とともに床に座り込んでいた。
 彼のしっぽは未だに、毛が逆だっていて、落ち着きを取り戻していない事が伺える。
 
「あ、クリスティナ様だ……」
「君、怖いよ、頭の中どうなってるんだ」
「婆やも……心配かけちゃって申し訳ないな」
 
 手紙の内容は分からないけれど、文字で誰だか判別がつく。
 内容も知りたいと思うけれど、充分だ、手紙が来ていた、それだけで私の気持ちは随分楽になる。
 
「ルカ、この手紙は、なんでルカが持ってるの?」
「……君は一応、異国の姫でしょ、内容を改める必要があるのは、分かるだろ」
「それでか。燃やすなんて酷いことするね」
「別に……それほどじゃないと思うよ、外国へ嫁いだんだ、むしろ当たり前なんでしょ。特に、人間は」
 
 言われてみればその通りだ。国内の貴族同士でも派閥の違う家に嫁いだ女性に諜報活動をさせるなんてことは、ざらにある、その手段は手紙が多い。なので暗号が隠されていないか、妙な情報を漏らしていないか、そういった事を確認するために中身を検分する必要がある。そして、その検分された手紙が本人に渡されない事も、ままあると聞いている。
 
「そうね。あぁ、でも、良かった。……本当に」
「何が良かったか、まったく分からない。下手すれば死ぬよ。死にたいの?君は、自殺願望があるの」
 
 いつになく饒舌なルカが少し面白い。
 
「そういうのはね、病気なんだ、心を病むのは、君が弱いからじゃない。病気にかかっているからで、それを理解していないと、さらに悪化させる可能性がある」
 
 何を言っているんだ彼は、というか喋り方がいつもの余裕あるルカじゃない。まるで可哀想な子供でも見るように、真剣な表情で、私を覗き込む。
 
「俺は、別に君を殺したいと思っていないからね。人間なら罪を償って生きるべきだって言っているだけで、命を奪う行為には、軽蔑を覚えるし」
「……」
「命より大事にすべきものは、この世には存在しないんだよ、馬鹿みたいに戦争ばかりしている人間には分からないんだろうけど、それほど手紙が大切なら、自分から書いて、また送ってもらえばいい、俺の行動をエグバート様に告発して、次からは手紙が手元に届くようにするべきでしょ、なぁ、わかる?」
 
 よく喋るな、この人。
 
 ……命より大事な物はないか……それでも手紙は私にとって命に変え難いほど、大丈夫なものなのだ。この手紙が、と言うより、みんなの言葉や思いが。
 
 ルカには、分からないだろうよ。
 
「私の事は、ルカには分からないでしょ」
「分かるよ」
「何が」
「マナンルークの王族の暗号式。君ら人間は、俺達を知能のない獣だと扱うのが大好きでしょ。何年も同じもの使って書いてるから、分からないわけが無い」
 
 …………?
 それが、なんだと言うのだろう。
 
「君の保護者は、君を取り戻すつもりだってさ」
「……ルカ……もしかして、それは」
「クリスティナ女王は、君と関係があるんでしょ」
「っ……ち、ちがう」
「関係は、同母の姉妹かな」
「やめてっ!!」
 
 自分でも驚くほど、大きな声が出てしまった。
 
 それは、言ってはいけない事だ!絶対に、思っても、言ってもいけない事。私だって、否定し続けている。

 本当の事は、誰にも分からないのだ。私の母親も、本来の地位も。
 
「君が俺には分からないって言ったから、教えているんでしょ。俺は、君がテラスト公爵屋敷でどんな扱いだったかも、想像つくよ」
「やめてよ!!言わないで……わかったから、私は、頭がおかしいそれでいいから、やめて……ねぇ、ルカ」
「大切にしているふりして、わりと、邪魔者扱いされていたんじゃない?」
 
 ……っ、……。
 
 そ、そんな事は、……無い。
 
 無いよ。無かったでしょ?
 手紙だって送って貰えたのだ、私は、あの屋敷にいて良かったんだ。
 
 誰にも言われたことが無い、秘密を次々に言葉にされる。いや、秘密なんかじゃない、こんなのは事実無根だ。嘘だ、そんな事を思った事が無いから混乱しているだけだ。
 
 自分で自分を抱きしめるように、ぎゅっと肩を抱いた。
 
「ちがう……」
 
 声が震えて、鼻の奥がつんとする。
 私は、大切な、テラスト公爵家の養女だと、ちゃんとそう言われて、しっかりと教育も受けて、両親は居なくとも、満たされて育った。そのはず。
 
 暴かないで、はっきりさせなくてもいい事をわざわざ言わないで、過去のことなんて、どうでもいいじゃないか。
 
「……でも良かったね、もう少しすれば、迎えがくるだろう?帰れば良いよ。帰って……君が幸せかどうか、俺には分からないけど」
「ちゃんと、私はっ……幸せだよ」
「そんな顔で言う言葉じゃないと思うけどね」
「うっさい」
 
 再度、手紙をかき集めた。そうだ、知っている。
 この手紙に書かれている、綺麗事しかない上辺だけの言葉たちの意味を私は知っている。前知識のないルカが読んでわかるのだから、あからさまなのだろう。
 
 でも帰らなければ、迎えに来るというのなら、それ以外の選択肢などない。私はそのために、生かされている。クリスティナ様の心の安寧のために、私が居なければならないと。 
 
 迎えが来るのなら……。
 
 迎えが来るならば、帰らなければならないのか……帰りたいと、ほんの少し前までは、望んでいたはずなのに。
 
 いや、だから、それでも……クリスティナ様が、女王陛下がそう望んで居るということは、ここに来たこと自体が、もしかすると何かの手違いだった可能性が大きい。

 あの人は、過保護だ、望んで私をタリスビアへ、送るのは違和感があった。戻れば、また、あの屋敷から、私は自由に出ることも、何かを選ぶことも……出来なくなる。
 
 出来なくなるって、何よ。それが彼女の愛情だろう。何を考えているんだ私は、できなくて当たり前でしょうが。
 選択肢など、初めから……無かった。
 



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