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人間の孤児院 その4
しおりを挟むあまり大きくない施設という印象だったが、応接室は、しっかりと完備されており、私は、ソファーに座って、レーナと向かい合っていた。アンジュとクルスは私の両サイドに座っている。
「カイリの代理のレーナと申します。貴族様方には、大変ご迷惑をおかけ致しました。どうかご容赦くださいませ」
レーナが深々と頭を下げる。それほど謝られるような事があっただろうか。連絡をしてあったとはいえ、私達のような身分の者が突然、視察に来たのだから、迷惑をかけたのは、私達の方だと思うのだけれど。
「この孤児院に、いらっしゃる貴族様は、大抵が既に存じ上げている方ばかりでして、それ以外の方は、紹介をした方とご同行されることが多いのです」
「……はい」
「ですから、教会の方からいらっしゃるとは、想定しておらず、このようなお手間をかけることになってしまいました。大変、申し訳ございません」
頭を上げずに、レーナは震える声で謝罪をする。
こちらこそ、孤児院側の事情も知らずに、とんだ迷惑をかけてしまった。
「いえ、頭をあげてください。その、孤児院へは、どこから入ればいいのですか?」
「はい、教会へは入らずに、塀沿いに裏手に周っていただければ、お迎え致します」
「そうでしたか……」
そうなると孤児院の入口は、ずいぶん奥まった場所になる。
孤児院の訪問の申請は、お義父さまにした。普段は紹介する貴族がいなければ、その申請は通らなかっただろう。
当たり前に許可されたので、なんとも思っていなかったが、そりゃ確かに人間の、それも礼儀の分からない子供がいる場所に、ホイホイと獣人貴族が来たら何が起こるか分からない。
そもそもタリスビアは、子供が少なければ孤児も少ない、国全体が少子化問題を抱えているので、通常の獣人の孤児院でも手厚く保護されている。先日、孤児院に行くということで勉強した知識だ。
ただでさえ子供を大切にする風潮であり、さらに人間の子供ということで、獣人の出入りには慎重になっているのだろう。
「……本日は、視察と聞いております。けれど、まさか、姫殿下がいらっしゃるとは……思いもよりませんでした」
「ロイネで構いません、こちらでは正式に王室入りしていませんので」
「かしこまりました。ロイネ様、改めまして、人間の姫殿下に謁見賜る日が来ようとは、思いもよりませんでした。この上ない光栄でございます」
……私こそ、こちらで、久しぶりに人間が見られて、とても、なんというか、懐かしい気持ちだ。
レーナは、金髪の美しい女性だ。所作が綺麗で、上品な雰囲気がある。自分と同じ丸い耳がついている事にも、牙が無いことにも、当たり前の事のはずなのに親近感が湧いてしまう。
「私こそ……タリスビアにも、人間が住んでいるのだと知って、少し安心できました。今日は、同伴者が不調なので長居は出来ませんが、ここで暮らしている経緯や子供たちの話を聞きたいのです」
「はい……はい、っ」
思った事をそのまま口にすると、レーナは、何故か眩しそうに目を細める。瞳はキラキラと光を反射して、涙を堪えているのだと分かった。
……どうしたのだろう、会っただけで泣かれるとは、身に覚えがない。なんと声をかけるべきかわからずに手を伸ばすと、応接室の扉が開いた。
ルカが顔をのぞかせて、私と目を合わせる。
「人間、ディーテが目を覚ましたよ」
「っ……、わかった」
私は、泣き出しそうなレーナを振り返って、タイミングを恨む。
まぁ、仕方がない、とにかくディーテの様子を確認しないことには、今後の予定を決められない。私は、クルスとアンジュに「行ってくる」と声をかけて、早足で医務室に戻った。
どうしよう、私が居なくなった後の応接室の雰囲気が心配だ!まぁ、ルカが何とかしてくれるだろう!多分ね!!
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