お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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人間の孤児院 その5

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 医務室へ入ると異様な光景だった。
 ディーテはベットのヘットボードに背中を貼り付けるようにして、対面にいるカイリを凝視している。カイリはディーテから離れた位置で、子供たちを庇うように、抱きしめていた。
 
「起きてから、こんな状態なんだよ、君が連れてきたんだから、責任とって」
「はぅわっ」
 
 私が入口で、硬直していると、背後からルカがやってきて、私を通り過ぎて医務室へ入る。それから、ルカの定位置なのか、奥にある事務をする用のテーブルに腰掛けて、バインダーを片手に、カイリに抱き締められている子供たちに視線を送る。
 
「君たちはこっちに戻ってきて、続きをやるから」
 
 すると子供たちは、ルカの呼びかけに素直に応じて、トコトコと移動する。懐かれているという感じではなさそうだけど、子供たちは、慣れているようで、ルカの前で一列に並ぶ。
 
 何をするのか、見ていたい気持ちは強かったが、ディーテを放置することは出来ない。私は、驚かさないように、ゆっくりと彼に近づいた。
 
「……ディーテ。おはよう」
 
 ディーテは、きょろっと視線だけ私の方へと向けて、ぱちぱちと瞬きをして、それから、ググッと何かを堪えるような表情をする。
 
 あ、ディーテが泣いちゃう。
 この子泣き虫だよな。
 
「目が覚めて良かった。急に倒れるから驚きました」
 
 私は警戒されていないようだったので、とりあえず近づくと、そのまま、うるうると瞳を涙でいっぱいにして、心から安心したみたいに、狸の姿になった。
 私がベットそばにある丸椅子に座ると巨大なもふもふは小さく蹲り、こらえきれずに泣き出した。
 
「あははっ、また、泣いちゃった」
「ヴ」
 
 狸の鳴き声って面白いよね。
 よーし、よーしとディーテの頭を撫で回し、力いっぱい全力で慰める。
 
「泣かないでディーテ、怖くないよ」
 
 ぎゅっとハグすると、子供みたいな慰め方に反論があったのか「ヴォル」と犬のような鳴き方をした。
 頬の部分をわしゃわしゃと大型犬を可愛がるように撫でると、泣きながらも心地よさそうに、目を細める。
 
 か、かわいい!首輪をつけて飼いたい。言葉にしたら獣人には、軽蔑されそうな思考だが、思うだけなら無罪である。

 犬でもなく、猫でもなく、狸ということろがまた絶妙だ、人に懐かないので、田舎に住んでいても見ることは少なかったし、何を考えているのか分からないつぶらな瞳が少し不気味だと思っていた。けど見てよ!今のこのディーテを!
 
 デレデレしてる狸ってこんなに可愛いの?!
 
 はっダメだ。今は、そんなことを考えている場合じゃない。
 
「ディーテ、どうする?今日はこのまま帰ろうか?無理することないよ」
「ゥ゛」
「言葉で言って、私には分からない」
 
 獣人同士だと会話ができるのだろうが、仕方ない、私は人間だ。頬を包み込むように触れて目を合わせると、少し固まってから、パッと人間の姿に戻る。
 
「……ロイネ様、ごめんなさい。僕、迷惑かけてばかりで」
「ううん、全然」
 
 人に戻るとディーテはただの美少年だ、撫でくりまわすことは出来ない。彼はハラハラと涙を落として、肩をふるわせる。
 
 仕方ない、今日は帰ろう。これ程、感情が乱れていては、冷静にカイリと話すことも出来ないだろうから。
 一度、気持ちを落ち着けてどうしたいか確認をしない事には、何も出来ないしね。正直、私は今回、突っ走ってしまった感が否めないのだ。
 
「でも……平気です」
 
 私が心の中で反省会を開いていると、ディーテは、少し落ち着いた表情で、私を見た。
 パチリと目が合って、意思の強い瞳に、私は少し驚く。
 
「ここまで、してもらったんです。それなのに帰るほど、情けない僕になりたくっない、です」
「……ほ、本当に、大丈夫?」
「はいっ、……ありがとうございます。ロイネ様」
 
 彼は困ったように笑って、ずっと見ないようにしていたカイリの方へと、視線を向ける。ディーテが息を呑んだのが側にいてわかった。頑張ると決めても、怖いのは変わらないのだろう。
 
 ……克服しようとしているんだ。
 
 すごいな、ディーテは。私だったらどうだろうか。
 幼い頃から怖かったものと向き合う事ができるだろうか。
 
 ふと考えてみて、そもそも、怖いものが思いつかなかったが、ディーテのように尋常ではない反応をしてしまうものならある。
 
 ……ほんの一瞬だけ、屋敷からの手紙を思い浮かべて、思考をかき消す。
 
 どちらにせよ!私は、彼を応援することしか出来ない。
 彼の震える手に手を重ねて、声をかける。
 
「大丈夫だよ、ディーテ」
「っ、はい。カ、イリ……側へ、来て欲しい」
 
 カイリは、戸惑っている様だったが、恐る恐る、ディーテが怖いのか、それとも刺激しないようにしてくれているのか、ゆっくりと歩いてきて、私の隣に来て、両膝をついた。
 
 低い姿勢で、ディーテを見上げるように、目を合わせる。
 
「……ぼ、僕の事、覚えて、いる?」
「はい……忘れた日など一度もございません」
 
 カイリの反応を不思議に思う、少し、責めるような空気が感じられた。静かに怒っているような、先程までの、気弱な彼とは、少し違った。
 
 もしかして、恨んでいるなんて事ないだろうか。頭の中で最悪の展開が思い浮かんで、今すぐ、ディーテの耳を塞ごうかと本気で考える。
 



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