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ロイネの話 その1
しおりを挟む目が疲れてきて、思わず眉間を抑える。
文章を追っているだけで、どうにも本の内容が頭に入ってこない。
……ちょっと疲れてるのかな。
テーブルに置いてある、ホットミルクに手を伸ばして、一口飲む。
あったまるー。もうすこし予習をしたら、ルカの部屋にお邪魔する予定だが、その前に眠気がやってきてしまいそうだ。
孤児院では、運動の時間が終わったあと、ディーテはカイリの事で手続きや色々と準備する事があるし、アンジュは、すっかり凹んでしまって、視察は後日という流れになった。
結局、私が知りたかった、人間のこの国での暮らしや、孤児院のルーツは聞けずじまいだ。
けれど、実りはあった。アンジュとは次回会う約束もしたし、ディーテの問題は解決したと言っていいだろう。この後の展開も気になるところだが、今日の所はこんなものだろう。
まぁ、しかし、なんだかんだ言って、色々な事が出来た今日は、充実していたと思う。行って良かった。
次こそは、子供たちや、孤児院の人と話をちゃんとしたいね。
……次か。
次は、と自然に自分が考えられていることに、何となく違和感があった。考え事をすると起こる謎の目眩も、今日は頻繁に起こっていたし、自分の中で色々と変化が起きているような気がする。
でもそんなの当たり前だよね……異国に来たのだから、価値観が変わるのは自然なことだろう。
そう分かっていてこんな感覚初めてで、少し怖いような、それでもドキドキするような。
「妙な……感じ?」
独り言をつぶやく。今はメイドは二人とも部屋にいるので、聞こえたと思うけれど、反応はされない。
二人に相談でもしてみようか。しかし、なんて?なんか妙な感じなんだよ、と言っても伝わらないだろう。
ふと振り返り彼女たちのほうを見る、するとベットを整えていたリノも同じようなタイミングで私に振り向き、それから、パッと耳だけ扉の方に向けた。私も、扉の方を見ればコンコンと控えめなノックがする。
私が椅子から降りるよりも早く、マティが扉を開ける。誰だろうな、とボケっと考えていると、入ってきたのは、ルカだった。
「…………もう少ししたら、行こうと思っていたんだけど、こっちに来てくれたの?」
「違うけど、行くよ」
「どこに?」
私は立ち上がって、彼のそばに寄る、マティが何か聞いているかなと思い視線を向けると、少し戸惑っているようで、そうでは無いと分かる。
「浴室、使用の許可は取ってあるから」
「お風呂?」
「……月光浴」
そっちか、咄嗟に言われると、まどろっこしい言葉なので勘違いしてしまった。
私が納得していると、メイドの二人は、すぐに動いて、リノは、羽織をマティは、ブランケットを持ってきてくれる。
羽織をかけてもらって、マティからブランケットを受け取ろうとすると、ルカが勝手にマティの手からブランケットを取って、ついでに私の手も取った。
「深夜には部屋に戻すから、ほら、行くよ」
「わかりました」
「姫さん、行ってらっしゃい」
ルカは、二人にそう言って私の手を引き廊下に出る。クルスと月光浴した時には、深夜すぎだったけれど、ルカはこの時間らしい、わたし的には、次の日の用事もあるので、ありがたい。
「行ってきます」
二人に手を振ると、リノは振り返してくれて、マティはぺこりと頭を下げた。突然のことだったけれど、さほど驚いてはいないらしい。
そういえば、この二人って、ルカの行動に口を出したりしないし、私の部屋に来た時も常に下がってる事が多い気がする。
元々何か関係があるとは思っているが、教えてはくれないのだろう。
ルカに手を引かれて暗い廊下を歩く。
暖かい手だ……それに、初めて月光浴にお呼ばれした時にも、導いてくれた手だ。
「こんなに暗いのに、よく見えるね」
「……」
無視されてしまったが、さほど気にせず、適当に話す。
「迎えに来てくれて、ありがとう。浴室に呼び出されてたら、また廊下で蹲るところだったよ」
「……」
目が暗闇に慣れておらず、ルカの影すら見えていない私は、今どの辺を歩いているのかも分からない。
見るものが無いので暇だ、それから、暗い廊下はやっぱり少し怖い。
ルカの手を少し強めに握る。
言葉は返ってこないけれど、握り返すように、しっかりと手を繋ぎ直された。
無愛想なんだか、優しいんだかわかんないや。
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