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ロイネの話 その2
しおりを挟むしばらく彼の後をついて行けば、あっという間に浴室に到着する。中に入ると、あの時とは違い、テーブルに、ランプが一つだけ置いてあった。
相変わらず、青白く光る大理石に見とれてしまう。ルカは手を離して、ソファに座る。月光浴は、基本的に獣の姿になるものだと思っていたが、話をすることが前提だからか、彼は人の姿のままだ。
私も隣に座ると、ブランケットを渡された。
もしかすると、暗闇で私が、ブランケットに足を引っ掛けないように、持ってくれたのかもなと考えるが、真意は分からない。
テーブルの上のランプを何気なく見つめる。
一つ明かりがあるだけで、随分と安心するものだ。
これなら人の顔も見える。この間はお義父さまの顔もはっきりとは見えていなかったので、笑っているのか、怒っているのか判別が難しかったが、今回はそんなことは無い。
隣にいるルカを見る。
考え事をしているような物憂げな表情で、目を伏せて、しっぽだけゆっくりと動かしている。
彼は陶器のようなキメの細かい肌をしていて、ホワイトゴールドの髪はランプの光によって、控えめに輝く。
……改めて見ると、造形の整った人だな。
ルカを見ていると、私には馴染みの無いはずの耳やしっぽまで、揃ってピタリとハマったパズルのように完成されているように見える。
……まるでクリスティナ様みたい。
外見が似ているということではなく、完璧に綺麗な人という意味で似ていると思った。私の中でクリスティナ様はそういう存在だ。けれど……ルカはその綺麗な外見の内側にちぐはぐな心情がぐるぐると渦巻いている。……ような気がする。まぁ、そういう感じなのだ、彼の印象は。
完全に良い人でもないし、どちらかと言えば悪い人の方だがそれでも、白黒はっきり付けられない、よく分からない人。
「……君の事、話してみて」
静かな声でそう言って、私に視線を向ける。
話がしたいと言ったが、まさか本当にルカの方から、話題を振ってくれるとは思っていなかったので、少し驚く。
気まぐれだろうか……それでも、聞いてくれると言うのなら話したいというのが本音だ。
「うん」
何から話そうか。
私は、少し昔の記憶を思い出す。
薄らぼんやりとしていて、靄がかかっているような、記憶を辿る。
昔のこと……自分の存在に疑問を持ったのは、何歳の時だっただろうか。はっきりさせようとすると、靄が広がって難しい。せっかくルカと居るのだ、彼と話しながら、思い出してみよう。
「ルカは、私の事どれぐらいしってる?」
「タリスビアへ来る時の基本情報、家名、年齢、名前。それから、君を選んでから、調べたり、手紙から得た情報。女王との関係性、養子縁組の事、それに伴って、養父の反応や君自身の反応から、推察した君のトラスト公爵家での立ち位置」
「……なんか色々、しってるのね」
「タリスビアへ呼ぶ時点で、選別はしているけれど、諜報活動をするような人間かどうかぐらいは自分で調べる」
「それは……そうか」
「君の奇行に、関連性がありそうなのは、君の屋敷への執着と、女王との関係……だと見てるけど」
奇行って何だろうか。あぁ、先日の手紙で火傷した件かな。奇行と言われると、なんか釈然としないな。
こんなことを考えつつ思いつつ、屋敷への執着の方の原因を考える。
原因っていうか、なんというか、それは、だって、産まれた時から面倒を見てくれていて、ずっとそこに住んでいたのだから、当たり前なのだと思うのだけど。
「屋敷の事は執着というか、単純に帰りたいと思っているだけ……なんだけど」
「じゃあ何故、帰りたい?」
「それは、私の帰る場所だから?」
「なにをもって帰る場所をきめたの」
「……決めたというか、決まっていたというか、そういうものじゃないのかな、物心ついた時にはそこにいて、それ以外、知らないし」
「ここで長年過ごせば、どこでも君の帰る場所になるという事でいい」
「どうだろう……多分ならない」
「それなら、違うでしょ。他に、帰る場所が屋敷だという理由は」
……む、難しい、こういうのは、そういうもんだで、片付けられるものじゃないのか?でも、はっきりさせようと聞いてくれているのだし、真剣に考えないと……。
あ、そうだ、私は、屋敷に居るべきだと、ここが居場所なのだとそう言われてきた……それは、皆が私を大切だと思ってくれているからである……はずで。
「た、大切に、育ててくれた、から」
「例えば、どんな風に」
「……え」
「簡単に思いつくことでいい。……両親のいない君を養父は別邸に一人にしていた、間違っていないね」
「うん」
「そんな、君をどんな風に大事にしてくれたの?母親替わりになってくれる、使用人がいた?それとも、父のように君を見守ってくれる、護衛がいた?」
そんな物は居ないが。
いや、だって、そもそも、皆仕事で、屋敷へ来ているのだから当たり前だろう。
その人達に、家族のように接することを望むだなんて、横暴もいいところだ。関係的には、使用人は学校の先生と言う感じだ。付かず離れず教育をしてくれる。
「そ、そんなに、近い関係の人は居ないよ。でも、ご飯を用意してくれたし、勉強も教えてくれたんだ」
「なら、その屋敷でなくてもいいね、執着の理由にはならない」
……?……??ならないの?ならないのかな?
混乱しているとルカは少し考えるように、視線を外して、そのまま、言葉を続ける。
「あぁ、でも、君がその生活を送っていて、どう感じていたかという事も加味する必要があるね」
「どうって……なに?」
「それでも楽しい生活だったとか、もしくは、抜け出したかったとか、そういう事。不便のない生活だったとは想像はつくから、屋敷の使用人以外に、君の執着にあたいする、何かしらの交流や関係があった可能性もある」
貴族との交流会は、何度か経験しているが、決められた話題以外は、話をする事はなかったし、それ以外で、自由に会話ができる相手はクリスティナ様以外はいなかった。
ただ、年に数える程しか会えないのでこれも、ルカの言う執着の理由にはならないだろう。
それに、不便だらけだった、と、ふと思った。
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