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クルスの優しさ その2

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 ……クルスの心情は複雑なのだろうな。

 クルスからしてみれば、私に選ばれない事で、結婚の延長ができる。そして、私がルカと婚姻を結ぶことになれば、また時間を稼げる可能性が出てくる。
 けれど、ここに来たばっかりの種族も違う私に、情を移して悲しい目には、あって欲しくないとも思ってしまっている。
 
 孤児院に行く時について行くと言ったのも、これが理由かもしれない、ルカがいると知っていたのだろう。
 守ろうとしてくれている。
 
 けど、クルスは自分を選べとは言えない。
 クリスティナ様へ向ける恋慕は、それほど強いものなのだろう。
 何となく分かる、あれほどカリスマ性のある人を、彼女以外に知らないから。
 
 大丈夫と言ったら、また、心配させるだけだろうか。
 何とか、この優しい人が悩まなくていいような言葉を探す。
 
 会うことを辞めるとは……言えないし、心配しないでも……大丈夫と一緒か。
 
 何とか、クルスが安心できるような言葉はないだろうか。
 
 彼を見やると、私が考え込んで黙ってしまったので、伺うようにこちらを見ていた。
 
 ……初対面は、無愛想な人だと思っていたけれど、今はその面影もない、話し方が硬いだけで、表情豊かだ。
 特にお耳としっぽが、わかりやすくてなんとも愛らしい。
 
「ありがとう、心配してくれて」
「……礼を言われるような事は、言っていない」
「そう?嬉しいよ。すごく」
「なら……お前に危害を及ぼす可能性がある者に会わないでくれるのか」
「……それは」
 
 出来ない。
 私は、私の主観で動いている。クルスから見てアンジュとルカが危険だと言われても、私はそうは思わない。それに、途中でほっぽり出すような事はしたくない。
 
 私が言い淀むと、クルスは不満そうに、口をへの字に曲げて、席を立つ。
 
「お前は……本当の危険を知らないからそれほど呑気なんだ」
「……クルス?」
 
 言いながら、テーブルを迂回して、こちらへやってくる。
 私が首を傾げていると、ふっと彼が手を動かす、すると、ぐるりと私の椅子が九十度回転した。
 
「とっ!わ、……」
「圧力が見えないと言ったな」
「ん、う、うん」
 
 彼は私の椅子の背もたれに両手をついて、私に顔を近づける。椅子がギシッと音をたてた。
 私は反射的に、背もたれにピッタリと背中をつけた。
 
 両側に手をつかれたので、逃げることが出来ない、まぁ、そもそも、彼が本気であれば、この状況でなくとも、逃げることは出来ないのだけど。
 
「魔力は通常、魔法へ変換しなければ、効果は出ない。圧力は、魔力を見せつける行為だ」
「えと、なんの、はなし」
「ただ、ある一定の圧力を超えると、効果が出る。効率が悪いからな、獣人は滅多に使うことは無い」
 
 至近距離で、急になんの説明だろうか、というか初耳だ、圧力は私にとっては見えもしない、害もないものだと思っていたが、どうやら、現実に効果が出る場合があるらしい。
 
 ノーラに圧力を、向けられた時に、リノが咄嗟に間に入ったのはそういう理由か。
 
「お前には、見えないものでも、俺たちはお前を害する事が出来る。ロイネがいくら、獣人を信用しようと、それは変わらない」
「……そんなの、知ってる」
 
 クルスに言われて私は反発するように、言葉を返した、軽く睨むと、クルスの方もさらにムスッとした表情になって、しばらく沈黙する。
 
 数秒して、なせが急に体がビクッと跳ねた。
 血の気が引いていくような感覚がして、指先が痺れる。
 変な寒気が背中を撫でて、心臓が飛び出しそうな程、強く脈打つ。
 
 貧血のように頭がクラっとして、たまらず、クルスの方へ倒れ込むと、抱きとめられる。
 長く座っていて急に立ち上がった時のように、目の前をちらちらと白い光が飛んでいる。
 
 っ、?な、なにこれ。
 
「うぅ……」
 
 うめき声が思わず出てしまい、クラクラする頭を押さえた。
 



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