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孤児院のルーツ その1
しおりを挟む小さな子供達が団子の様になって、こちらを見上げている。
皆、レーナの後ろに隠れて、小動物の様に顔を半分だけ出しては引っ込めて、ぎゅうと小さくなる。
この間、来た時も同じようにカイリの後ろに隠れていたが、何度見ても可愛い。
「ロイネ様っ、僕、残りの子供達をカイと一緒に見ていますね」
「わかりました、ディーテ、はしゃいで怪我をしないよう気をつけてくださいね」
「はーい」
医務室の入口付近で、ディーテは獣の姿になって、ルンルンと歩いていくそばで彼に仕えているカイリは、軽く会釈をして、扉を閉めて去っていった。
カイリの服装は、もう修道着では無くなっており、貴族の使用人らしい服装をしていた。
今日の様子を見る限り、主従関係は順調なようだ。
今日は孤児院に来ている、冬の社交は始まって居るのだが、予めお義母さまに言っておいたので、きっちりと休日が取れた。
ルカとの約束で、手仕事を教えに来たのだ。
もちろん、この前に来た時は聞けなかった、ここにいる人間のルーツや、ここでの暮らしなどの話を聞く予定もあるが、一つ予想外な事がある。
前回、ルカは孤児院に一人で来ていた、なので今回もそうだと思っていたのだが、振り返って、子供達を診察する、ルカの方へ視線を向けると、エクトルと目が合った。
何故か、いるんだよね。
まぁ、エクトルと喋る機会が出来て、私としては嬉しいが、やはり彼は苦手だ。
現在も、私を睨むような視線を送っている。目が合ってしまった手前、ニコッととりあえず微笑んでおくが、反応は帰ってこない。
彼は、確かによくアンジュと似ており、オレンジの髪に、丸い耳、しっぽだけは、男性のライオンだからか、アンジュとは違った。
「それでは、ロイネ様、お話を始めさせて頂きます」
「あ、はい」
向かいの丸椅子に座っているレーナが私に声をかける。
私は、そう言えば話を聞くのだったと思い出して、彼女に視線を戻す。
レーナの背後で、こちらをちらちらとみている、子供達が気になるけれど、いつもの事らしく、レーナはあまり気にせず、話し始める。
「まず、この子達が、どうしてタリスビア獣族国にいるのかと言うお話からですね」
子供達のうちの一人の頭をレーナは軽く撫でた。優しい、姉のような微笑みに、彼女は子供が好きなのだろうと思う。
「一つは、貿易でこの土地に来る人間が、獣人との間に子を作り、捨ておく場合です。この場合ですと獣の姿を成せない半獣人の子供が孤児として、教会に預けられます」
それは予想が付く、基本的に船の下働きは男性しか居ない、獣人相手にどうやって子供を作るような行為を人間が出来たか分からないが、船上は男色が蔓延るほど、女性に飢えている者が多いと聞く。
どうにかしたのだろう、そうして出来た子供達は、確かに、通常の獣人社会では、生きて行けないだろう。
「もうひとつが、国際的な養子縁組による、貴族様の渡航によって、タリスビアへ来ることになった使用人などの子供です」
「……それは、マナンルークの貴族の子供達がこちらに養子として来ているという事ですか?」
「仰る通りです、現在は、制度自体を廃止していますが、これからロイネ様のような、嫁入り婿入りによって、人間の使用人の子供が増加する、可能性もあります」
……全く聞いたことが無い制度だな。
嫁入りなら、まだわかる、そして、子供を近親者に預けるという意味での国内の養子縁組も理解できるが、何故、血縁も居ない土地に子供を養子に出すのか……。
そもそも、子供達であれば、船での長旅も体に堪えるだろう、たどり着いたとしても、勝手の分からないタリスビアで、上手くやれる保証などない、養親の人柄によっては、死んでしまう可能性だって……ある。
「……子供達を外国に養子に出す理由が分からないのですが」
「人間は多産で、なおかつ、金の為なら、子でも売るってことだよ」
「……ルカ」
診察をしながらも私達の話を聞いているらしく、ルカが口を挟んだ。
つまり、養子縁組をして、マナンルークの貴族は、お金を貰っているという事か。つまりは、子供をタリスビアへ売ったのだ。
それでも、養子に行く子供に、使用人まで付けて行かせるという事は、初めからそのつもりで育てた子供では無いのだろう。マナンルークは、世界的に見ても情勢の安定しない国だ。
同じ国の者同士で、争いあって、痩せた土地から産み出される財産を奪い合っている。こう言った闇の深い事実があっても何ら不思議もない。
悲しい事……だよね。
あまり、現実感がないけれど、間違いない事実だ。
獣人は、完全な一夫一妻制だ、婚姻関係のために、タリスビアに来るのと、養子縁組は大きく違う。
生家に金銭が支払われるという点は同じだが、わざわざ人間の子供を、獣人が養子という関係で引き取るというのは、ほの暗いものを感じる。
「その、今は廃止されていると言ったけれど、もうみんな、マナンルークに返されたという事?」
「……いいえ、多くは病や熱におかされ、長くは持ちませんし、新しい縁組が、出来ないだけで、現在でも、人間の貴族様は……いらっしゃいます」
「使用人達はどうなったの?」
「魔法関係の事故や、その、やはり人間ですので、行方不明になる場合も多いです」
なんだか重たい話に気分が沈む。でも仕方が無い、そういった種族間の力関係があることは、重々承知していた。
過去の事だ。今さら、どうにもならないだろう、この子達が、そういうルーツがあってここに居るだけだ。
それに、これからは、私もここタリスビアに居るのだ、いくらでも、考えて学んで、改善することが出来る。
……前向きに考えていかなきゃね。
あ、でも、今も居るという人間の貴族はどうなっているのだろう……そのうち会う事になりそうだけど、上手くやれそうな気がしない。
それに会ったところで、どうしようも無いし。
私が正式に王室入りしてからの方がいいような気がする。
「そうですか、知らない事ばかりで、驚きました」
「皆さんそう仰られます。本来であれば、私たちのような人間は、獣人社会で淘汰されてもおかしくありませんでした」
レーナは、ルカの方へ視線を移す。
そのまま言葉を続けた。
「ここが出来る前は、教会の隅で、熱におびえながら同胞が死んでいくのを眺めることしか出来ませんでした。そこに、ルカ様は手を差し伸べてくださったのです。感謝してもしきれない思いです」
ルカは片方の耳だけこちらへ向けて、それから、嘲るような笑顔でこちらを見やる。
「やめてくれる?俺は、自分の為にやってるだけなんだけど。これだから人間は困る。何でもかんでも神格化して自分がいいように捉える。無力ゆえの性質だと思うけれど、その対象になってやる気はサラサラないんだけど」
「はい、申し訳ございません」
「……」
間髪入れずにレーナは謝罪をして、私に向き直る。
……ルカが、あしらわれたんだけど……。
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