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孤児院のルーツ その2
しおりを挟む彼は昔からああなのだろう。感情が伴っていない言葉を久しぶりに聞いた気がする。
「では、次に、子供達の引き取り先についてです」
「はい」
「基本的には、国王陛下が紹介してくださる、貴族様と主従関係を結び、従者として孤児院を卒業していきます」
「カイリのような感じですか?」
「えぇ、本来であれば十歳前後で、引き取り先が見つかることが多いのですが、カイリは、ディーテ様を待っていましたから」
ここは予想どおりだ、この小さな子供達もいつかは立派に仕事をするようになる。
しかし、従者になるのであれば、私が教える手仕事は、主人に送るものでは無い。
むしろ、主人が送るものなんだけど……まぁ、その辺は、ここはマナンルークでは無いので、許されるか。
「それに、教育や職業訓練なども概ね十歳頃までには、終了しています、すぐにでも、引き取れる子は、現在三名いますが女の子は一人です」
「今、ですか?」
「君は王族入りするほどの身分でしょ、二、三人引き取ってくれてもいいんだよ」
あ、そうか、私も、その引き取り先の一人になっているのか、人間の従者など考えても居なかったが、ここから私も引き取るのは、自然な流れだ。
私は人間だし身分も高い、人間の従者が身の回りの世話をしてくれたら、助かる場面もあるだろう。
……が、しかしだ、……人間に、いい思い出が、ない。
もちろんルカの事だ、しっかりと教育を受けさせているだろうとおもう。けれど、その引き取った、まだ幼い子供を私は主人として幸せに出来るだろうか。
親もいない、家もない、そんな子を守る自信……あまりない。それに、今の私の従者はメイドの二人で充分快適だ。もし、何かあって、私が主人としての義務を果たせなかったり、入ってきた子とリノとマティの間に衝突があったらと考えると、少し怖い。
どうやって断ろうかと考えを巡らせて居ると、レーナが、その女の子を連れて来るようにと後ろで小さくなっている幼女に頼んだ。
また、ミラという女の子だ、私に頭を下げてとてとてと去っていく。
ちょっと待ってよ!!私、人見知りなんだよ?
まだ、引き取り先が決まっていない子なんでしょう?!その子を呼び出して、いらないとか言えないじゃない!傷つけてしまうよ!
大きな声を出して、ミラを止めるわけにも行かずに、その小さな背中を見送ると、程なくして、医務室に十歳にしては発育の良い、軽いウェーブのかかった、ふわふわとした髪の少女が入ってきた。
私と目が合った瞬間に、柔らかく微笑む。私が想像していた、孤児の少女と言うよりも、所作的にも表情的にも、貴族の従者になれるよう教育されている、しっかりとした家庭のお嬢さんのようだ。
レーナのそばまで歩いてきて、私に正式な礼をして、自ら名乗る。
「ルイーザでございますわ。姫殿下」
下手すれば、常にドタバタと忙しなく、口を開けて笑う普段の私より余程貴族らしい。
か、可愛いな、可愛いけど……この子私とは、相性が悪そうだ。
けれど良かった、やはり人を見れば分かる、子供達も健全に表情が豊かだし、年頃になれば教養も身についている、ここはいい場所だ。きっと、この子もよく合う貴族が居るはずだ、これから、お嫁に来る人間の貴族も多い、私が無理をする理由は無いだろう。
「……ルイーザ……突然呼びつけてごめんなさい、想像以上に可愛らしい子で驚きました」
「うふふ、ありがとうございます」
「レーナ、私、ルイーザには申し訳ないのですけれど、今日は子供を選ぶつもりは無いのです、また次回、使用人と共に来て、相談させて貰いますね」
「承知致しました。ルイーザ、下がっていいですよ」
「あ、待ってください、これから子供達に手仕事を教える予定があるんです、ルイーザ達も一緒に受けませんか?」
言葉通りに、下がろうとする彼女を引き止めて、提案をする。手仕事をやるなら幼い子供達の方が吸収が早くて効率がいいけれど、すぐに、引き取られる可能性があるのなら、教えておいて損は無いはずだ。
確認の為にチラとルカを見ると、彼は、はぁ、とため息をついて、ペンをいじりながら「いいんじゃない」と呟く。
……やった、お許しが出た!
「どうですか?男の子達も一緒に」
「喜んで受けさせて頂きます。姫殿下直々の講義なんて、二人も喜ぶはずですわっ」
ルイーザは、ぱあっと表情を明るくして、パタパタと走り出す。
元気が良くて何よりである、ミラがルイーザを追いかけようとして、走り出したところ、足を引っ掛けてビタンッと転んだ。
小さなミラは、プルプルと震えながら起き上がり、唇を震わせて、瞳に涙を貯めた。それからグッと堪えて、すくっと立ち上がる。
何でもなかったかのように彼女は、トコトコと歩き出す。
…………どんなに、良い環境でも、近しい人がいないのは、寂しいんじゃないかな。
きっといつかは、カイリにとってのディーテみたいな関係が出来るとしても、目の前で頑張っている幼子を見たら、何となく、切ない気持ちになった。
「ミラ、大丈夫ですか」
「ッ……はぅい」
私が声をかけると、肩をビクリと震わせて、振り返り返事をした。
手仕事の授業のために教室へ移動を始めると、レーナの両手をすぐに子供たちが繋いで、わちゃわちゃしながら廊下を歩く。
私は後ろからついて行き、仲の良い子供たちを眺めていると、転んで少し気落ちしているのかミラが遅れて私の一番近くに居た。特に良く考えずにミラに手を差し出す。
「手を繋ぎましょうか?」
意味など、考えて居なかったが、強いて言うなら、少し心配だった。
ミラはしばらくモジモジして、それから控えめに笑って、私の手を取った。柔らかい子供達の手は暖かくて、そう言えば、子供達と手を繋いだのなど初めてだったなと思う。
それから、レーナの案内で教室へとたどり着き、手仕事の授業を始めることになった。
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