80 / 139
手仕事の授業 その1
しおりを挟む「皆さん、刺繍はやった事がありますね」
私が子供達に問いかけると、女の子は「はいっ」と元気な反応が返ってくるけれど、男の子はお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
「あ、そ、そうでした、男の子もいましたね。まぁ、大丈夫!手仕事の品の力は、刺繍の出来に関わらないから!」
初っ端からタジタジである。
仕方ない、人にものを教えるのなど、初めての事だ、その辺はわかってくれるだろう。
ただ、こちらを睨むようなエクトルの視線だけは、いただけない。なぜ、そんなに敵意むき出しなのだろう。
ルカは何事もないように、後ろの方の席に座っている。子供用机に座っているルカに、そばで立っているエクトルを見るとなんか授業参観みたいだ。
レーナや、ディーテ、カイリも後ろの方の席に座っており、前の方には子供たちが合わせて十三人ほどいる。みんな真剣な表情で、私を見つめており、その空気感に少し緊張する。
「頑張って教えるけれど!わからないとこらがあったら遠慮なく言ってね」
「はい」
子供達の元気の良い返事が返ってくる。
私はいつも教えてもらう側だったので、どうすれば伝わりやすいのかも分からない。
皆に支えて貰わなければならないのだ。
「じゃあ早速────
私は、クルスに話したような説明をとりあえずしていく、ここで暮らしているのなら、まずは概要の説明が大事だ。どんな時に使うのか、どんなものなのか、難しい話をしていいなら、手仕事の魔法の原理なんかも教えられるけれど、それは今はいらないだろう。
全くの新しい知識なのだから、そういうものだと覚えたらいい。
「という感じに、マジックアイテムとは違い、特定の条件で発動するものではありません。……クルスには疑われましたけれど、受け取ればだいたい獣人でも人間でも価値が分かるものです」
私が説明し終わると、案の定、皆ピンときていないようで、微妙な顔をしている。
まぁ、マティやリノに説明した時もこんな感じだった。馴染みの無い魔法の使い方だから仕方ないだろう。
そこで、ルカにお願いしておいた、簡易裁縫箱の出番である。
「まぁ、みんな言われただけでは、わからないと思いますから、今日はそれを簡単に体験してしまいましょう!」
私は教卓の上に置いてある、小箱を手に取る。安定して手仕事をするには、しっかりとした素材の自分の魔力に耐えられる裁縫箱が必要だが、今日は体験なので、この程度でも問題ない。
「今日は身近な友人に、自分の手仕事の品を送ってみましょう。大人も一緒にやってみてください」
授業を始める前に全員に配布してあるので、やって見るのも良いだろう。
私が後ろの方に視線を送ると、ディーテとカイリは二人で視線を交わしている。
レーナは、視線を返してくれた。
ルカは私から視線を逸らす。自分ではやらないつもりらしいが、後ろにいるエクトルは少し覗き込むようにして机の上の小箱を眺めている。
子供たちは少しざわついて、それからみんなの意見を代弁するように、ルイーザがすくっと手を上げる。
「ルイーザ」
「はい、送る相手は自分で決めて良いのでしょうか」
「いいよ、好きに選んで。ただし、好意のある相手以外には、魔法は発動しないので注意してね」
「わかりました。ありがとうございます」
ルイーザが直ぐに隣にいる気弱そうな男の子の手を取って、笑いかけている。その子は顔を赤くして、俯いた。
もう一人の男の子は、レーナを振り返って、何やら言葉を交わしている。
なんだか、人間関係が見えて面白いな。
幼い子供たちは、それぞれ送り合う約束を初めて、二人ずつ言葉を交わしているが、ミラがちょうど一番中心の私の真ん前の席で、オロオロと周りを見渡す。
どうやら余ってしまったらしい。
私は、ミラにこっそり声をかける。
「ミラ、私に作ってくれませんか」
「っぁ、ひ、姫様、っ」
小さく肩を震わせて、言葉に詰まってしまい、その後、顔を真っ赤にしながら彼女は全力で頷いた。
楽しみだな、人からちゃんと手仕事の品を貰うのは初めてだ。
「よし、じゃあ作りますよ。まずは道具に自分の魔力を通します」
小箱を手に取って、魔力を込める。普段使っているのとは違うので違和感があるが、昔、教わる時もこんな感じの簡易的な裁縫セットだった。
クオリティの高いものには、ならないだろうけれど、出来ない事はないという感じだ。
「魔法道具に魔力を込めるのと同様ですが、ドバドバ注げば良いというものではありません、今回の場合には、送った相手の喜ぶ顔でも想像しながら込めましょう」
私がそういうと、子供達は素直に従い、胸元に裁縫セットを持ってくる。
それから、私の言ったことをちゃんと実践しているのか、目を瞑ったままニコニコしつつ魔力を込めていく。
なんとも、可愛らしい光景だ。ついつい、だらしなく微笑んでしまいそうになるが、私も、目を瞑って魔力を込めていく。
するとふと思い出す。そういえば、獣人であるディーテも居るのだ。手仕事を獣人が実践するのは初めてだ。
「ディーテ!」
「はい、なんでしょうか」
子供達が真剣に頑張っている雰囲気に当てられたのか、少しキリッとした表情のディーテと目線が会う。
裁縫セットはしっかり胸元に抱きしめられている。
「魔力の扱いには─────
言葉の途中で、パチンと光が弾けるように飛び、ディーテの手が弾かれた。
1
あなたにおすすめの小説
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
契約結婚の相手が優しすぎて困ります
みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。
王太子妃専属侍女の結婚事情
蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。
未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。
相手は王太子の側近セドリック。
ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。
そんな二人の行く末は......。
☆恋愛色は薄めです。
☆完結、予約投稿済み。
新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。
ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。
そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。
よろしくお願いいたします。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました
斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。
白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。
その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。
それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。
やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり――
白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。
身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。
置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを
青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ
学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。
お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。
お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。
レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。
でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。
お相手は隣国の王女アレキサンドラ。
アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。
バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。
バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。
せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる