お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

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手仕事の授業 その1

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「皆さん、刺繍はやった事がありますね」
 
 私が子供達に問いかけると、女の子は「はいっ」と元気な反応が返ってくるけれど、男の子はお互いに顔を見合わせて、首を傾げた。
 
「あ、そ、そうでした、男の子もいましたね。まぁ、大丈夫!手仕事の品の力は、刺繍の出来に関わらないから!」
 
 初っ端からタジタジである。
 仕方ない、人にものを教えるのなど、初めての事だ、その辺はわかってくれるだろう。
 ただ、こちらを睨むようなエクトルの視線だけは、いただけない。なぜ、そんなに敵意むき出しなのだろう。

 ルカは何事もないように、後ろの方の席に座っている。子供用机に座っているルカに、そばで立っているエクトルを見るとなんか授業参観みたいだ。
 
 レーナや、ディーテ、カイリも後ろの方の席に座っており、前の方には子供たちが合わせて十三人ほどいる。みんな真剣な表情で、私を見つめており、その空気感に少し緊張する。
 
「頑張って教えるけれど!わからないとこらがあったら遠慮なく言ってね」
「はい」
 
 子供達の元気の良い返事が返ってくる。
 私はいつも教えてもらう側だったので、どうすれば伝わりやすいのかも分からない。
 皆に支えて貰わなければならないのだ。
 
「じゃあ早速────
 
 
 私は、クルスに話したような説明をとりあえずしていく、ここで暮らしているのなら、まずは概要の説明が大事だ。どんな時に使うのか、どんなものなのか、難しい話をしていいなら、手仕事の魔法の原理なんかも教えられるけれど、それは今はいらないだろう。
 
 全くの新しい知識なのだから、そういうものだと覚えたらいい。
 
「という感じに、マジックアイテムとは違い、特定の条件で発動するものではありません。……クルスには疑われましたけれど、受け取ればだいたい獣人でも人間でも価値が分かるものです」
 
 私が説明し終わると、案の定、皆ピンときていないようで、微妙な顔をしている。
 まぁ、マティやリノに説明した時もこんな感じだった。馴染みの無い魔法の使い方だから仕方ないだろう。
 そこで、ルカにお願いしておいた、簡易裁縫箱の出番である。
 
「まぁ、みんな言われただけでは、わからないと思いますから、今日はそれを簡単に体験してしまいましょう!」
 
 私は教卓の上に置いてある、小箱を手に取る。安定して手仕事をするには、しっかりとした素材の自分の魔力に耐えられる裁縫箱が必要だが、今日は体験なので、この程度でも問題ない。
 
「今日は身近な友人に、自分の手仕事の品を送ってみましょう。大人も一緒にやってみてください」
 
 授業を始める前に全員に配布してあるので、やって見るのも良いだろう。
 私が後ろの方に視線を送ると、ディーテとカイリは二人で視線を交わしている。
 レーナは、視線を返してくれた。
 
 ルカは私から視線を逸らす。自分ではやらないつもりらしいが、後ろにいるエクトルは少し覗き込むようにして机の上の小箱を眺めている。
 
 子供たちは少しざわついて、それからみんなの意見を代弁するように、ルイーザがすくっと手を上げる。
 
「ルイーザ」
「はい、送る相手は自分で決めて良いのでしょうか」
「いいよ、好きに選んで。ただし、好意のある相手以外には、魔法は発動しないので注意してね」
「わかりました。ありがとうございます」
 
 ルイーザが直ぐに隣にいる気弱そうな男の子の手を取って、笑いかけている。その子は顔を赤くして、俯いた。
 もう一人の男の子は、レーナを振り返って、何やら言葉を交わしている。
 
 なんだか、人間関係が見えて面白いな。

 幼い子供たちは、それぞれ送り合う約束を初めて、二人ずつ言葉を交わしているが、ミラがちょうど一番中心の私の真ん前の席で、オロオロと周りを見渡す。
 どうやら余ってしまったらしい。
 
 私は、ミラにこっそり声をかける。
 
「ミラ、私に作ってくれませんか」
「っぁ、ひ、姫様、っ」
 
 小さく肩を震わせて、言葉に詰まってしまい、その後、顔を真っ赤にしながら彼女は全力で頷いた。
 
 楽しみだな、人からちゃんと手仕事の品を貰うのは初めてだ。
 
「よし、じゃあ作りますよ。まずは道具に自分の魔力を通します」
 
 小箱を手に取って、魔力を込める。普段使っているのとは違うので違和感があるが、昔、教わる時もこんな感じの簡易的な裁縫セットだった。
 
 クオリティの高いものには、ならないだろうけれど、出来ない事はないという感じだ。
 
「魔法道具に魔力を込めるのと同様ですが、ドバドバ注げば良いというものではありません、今回の場合には、送った相手の喜ぶ顔でも想像しながら込めましょう」
 
 私がそういうと、子供達は素直に従い、胸元に裁縫セットを持ってくる。
 それから、私の言ったことをちゃんと実践しているのか、目を瞑ったままニコニコしつつ魔力を込めていく。
 
 なんとも、可愛らしい光景だ。ついつい、だらしなく微笑んでしまいそうになるが、私も、目を瞑って魔力を込めていく。
 
 するとふと思い出す。そういえば、獣人であるディーテも居るのだ。手仕事を獣人が実践するのは初めてだ。
 
「ディーテ!」
「はい、なんでしょうか」
 
 子供達が真剣に頑張っている雰囲気に当てられたのか、少しキリッとした表情のディーテと目線が会う。
 裁縫セットはしっかり胸元に抱きしめられている。
 
「魔力の扱いには─────
 
 言葉の途中で、パチンと光が弾けるように飛び、ディーテの手が弾かれた。
 




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