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どうしようもない事 その2
しおりを挟む「……っは、あ」
目を開けて、呼吸を繰り返す。
大丈夫だ、現実では無い。歳を重ねる事に少しずつ記憶は薄まっていると思っていたのに、未だに、体が震えて、嫌な汗をかく。
あれから、俺は、ユスティネ様の好意で、王族に迎え入れられた。
家族として接するということは、難しかったがそれでも、飽きるほどの対話と平和な時間を与えられて、段々と、血の雨の記憶は思い出す回数が減った。
ユスティネ様に言われて、人間を克服出来るように、自分に考えうる限りの贖罪をした。
こんな事で罪が消えると思えなかったけれど、心は軽くなり、いつしか、人間に言う言葉だけは昔と変わらないのに、死なせる事は減って行った。
「…………はぁ」
ただ、最後の言葉だけはどうしても、どうしても克服することができない。
許してはいけないと、母様は言った、きっと俺が、非道な言葉を並べつつも、人間を守ろうとしていることに、母様は気がついていたのだと思う。
だから、人間を許すなと母様は俺に伝えた。そして、刻みつけるために自害した。
あの使用人に刺されたのだって、きっとわざとだ。犯されていたのは別として、獣人がどんなに油断していたとしても、殺せるとは思えない。
……だから、きっと誰が悪いと言うことも無く、ほんの少し、不運だっただけなんだ。
そして、こんな事は……ロイネには関係ない。
あの子は、ただの人間で、誰にでもそうなように彼女にも事情がある。ただそれだけでしょ。
でも、クルスの言葉が忘れられない。自分の中の醜悪なものを見せつけられるようで、自分で自分を制御出来ない。
……俺だって、嬉しかったよ。
自分の言った言葉を返されただけだったのに、俺だって、好きだとか、家族になりたいと言う言葉は嬉しかった。
でも、きっともう、終わったんだろう。
初対面の頃から、あんなに虐めても、泣き言ひとつ言わなかったのに、こんなに簡単に手元からいなくなる。
「………考えたく、ない」
悲しんでいる風な事を心で思っていたとしても、俺が最低だと言うことに変わりはない。そしてそれはこれからも、変わらない。
閲覧用に置いているテーブルから、読みかけの本を手に取る。椅子に座る気が起きずに、床で本を開くと、栞がはらりと落ちた。
布製の栞だ。
考えたくなかったから、本を手にしたと言うのに、どうして……こうなる。
コンコン。とノックの音が響いて、扉の向こうでエクトルが少し焦ったように俺に要件を伝える。
「ルカ様。……ロイネ様が、使節団の人間に、強襲されたようです」
手元の栞が、魔力を強く放ったような気がした。
……リノとマティに守られている彼女が、人間に危険な目にあわされるはずないでしょ。
彼女自身が仕組まなければ、人間だって勝ち目の無い行動に出ないはずだ。
やっぱり、帰りたいのか。あの子。まぁ、もう俺に関係ないけど。
栞に灯った魔力は、ふわふわと辺りを漂うだけで、何を意味しているのか分からない。
『明確ではないけれど効果はあるんだよ』
ロイネがそう言っていた。結局、その効果とやらは未だに発揮されていない、それかこれが効果?
あの子が仕組んだ事ではなく、単純に強襲されているとしたら……。
また、魔力が強くなった気がした。気がしているだけなのか、普段と変わらないのか判別がつかずに答えも出ない。
……様子を見るだけだ。あの子に帰る意思があるなら止める権利は俺にはない。
栞を胸ポケットにしまって、書庫を出る。
もう二度と顔を合わせないつもりでいたのに、自分から様子を見に行く決断をするなんて、こういう事かとロイネの手仕事を少し恨めしく思った。
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