お前のこと、猫ちゃんて呼んだろか!!

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
128 / 139

主張 その3

しおりを挟む
 
 





 部屋のあかりはついているので、ギルバートの事をしっかりと視認できる。
 
 ……本当に丸腰なのか。
 いつも腰からぶら下げている剣が無くなっていて、違和感がある。騎士の命とも言えるものを床に落とすなんて、普通の騎士なら、やらないだろう。

 それだけ、誠意を示したかったという事なのか……いや、この人なら、騎士の誇りとかあまり考えずに、クリスティナ様のためなら、奴隷にもなりそうだし、剣も捨てられると思う。要は、誇りとか、プライドはなく、忠誠心だけあるから出来るのだろう。
 
 立ち話もなんなので座ろうか、という雰囲気では無い。ギルバートの一挙手一投足に集中して、少しでも不審な行動があればすぐにでも、マジックアイテムを使う決心は出来ているのだ。
 出来るだけ早く、話を終わらせて帰って欲しい。
 
「早速ですが、ギルバート。貴方の望む真意などありません。先日お話した通りです」
 
 動揺を隠すように睨みつけながら、言葉にする。
 これで満足だろう。
 彼は命令を果たした、私が帰らないと言う選択肢をしたと、クリスティナ様に伝えるだけだ。
 
「私は、心底ここが気に入っているのです。あの屋敷に戻りたいと望むことは有り得ません」
 
 私が言い切ると、彼も、私を睨み、沈黙する。
 
「……」
 
 凄みが怖いんだよ、何でこう、もう少し穏便に出来ないのだろうか。今日はこのままぐっすりと眠って、明日からまた、沢山やる事を考えていたというのに!
 
「違います。姫殿下」
「……何がですか」
「ご自身の事を良く思い出してください。今は、そのように獣人どもに洗脳されているだけです。本来貴方様は、戻らないと言う選択をするような方ではないはずです」
「いいえ、そんな事はありません」
「有り得るのです。女王陛下は、わかっておられます。貴方様が縁もゆかりも無い地へと嫁に出され、困惑していることも、貴方の居場所に帰りたいと望んでいることも」
 
 何の保証があって、そんなことを言っているのか。それは、クリスティナ様の願望だろう。
 
「女王陛下の大切な妹君である事はクリスティナ様の手仕事を外している今なら、わかるはずです。貴方様は、厄介払いをされたとして勘違いをし、ただ女王陛下に反発なさっているだけです。意地を張らず、立場をわきまえてください」
「……」
「陛下の優しさに甘えてはなりません。貴方様ももうすぐ成人を控えた娘なのですから、こんな場所に居た汚点があっては、良い貰い手が居なくなってしまいますよ」
 
 ……。うるさい。
 あぁ、今更、なんだって言うのだ。
 
「お戻りください、陛下は貴方様の事を愛しておられます。真っ当な幸福を手に入れられるよう、尽力なさっているのです」
「、……」
「どれほど、女王陛下に迷惑をかけるおつもりですか、護られた恩義も返さずに、他国で婚姻など、陛下がお許しになるはず無いでしょう」
 
 低い声で、威圧するような言葉数に私は、黙り込む。

 帰らねば、と思っていた私の思考をそのまま読み上げられているようで、言われると、心の奥底が痛い気がする。
 
 ギルバートの子供を叱るような口調に、自分の考えを頭から否定されるという事は、これ程、苦痛なのだったっけと何となく思った。
 
「……」
 
 何もいえなくなった私に、今度は諭すように、帰ると言えと言うのだろう。
 手口は、昔から変わらないんだね……。
 
 クリスティナ様に行き過ぎた発言をした時、私が反発するような態度をとった時、皆このように、私を窘める。
 子供だと思っているから、格下だと思っているから、話を聞く気もない。私の真意が聞きたいのではなくて、私の帰りたいという言葉を引き出したいだけだったのだ。
 
 でも。
 もう、こんな事、落ち込んでいる、私じゃない。
 
「帰りません。クリスティナ様には感謝しています。ですが、それとこれは別問題です」
「まだ、そのような駄々を」
「貴方こそ、いつまでクリスティナ様の傀儡なのですか」
 
 そちらがその気なら、私だって、言いたいことがある。……ちがうか、言うべきことがある。

 言わなければならない、私が折れるまで、私の主張を子供の駄々だとするのならば、私だって、その態度を改めてくれるまで、主張をするだけだ。
 
「いつまで私にその対応が通用すると思っているのですか。ギルバート、貴方はいつでもクリスティナ様の心の代弁ばかりしていて、貴方の言葉を聞いたことがありません」
「今度は、挑発ですか、まったく、田舎に居たせいか、社交性が備わっておりませんね」
「貴方がどんな評価を私につけていても、こちらではそのように言うものが居ないので、どうでもいい。貴方こそ挑発のつもりでしょうが、的外れですよ」
 
 本当は少しだけ腹が立っているが、それは田舎貴族と言われた事だけじゃない、やっぱり、ギルバートの言葉を真に受けないようにする事は出来ない。
 
 嫌な言葉、言われたくない言葉ばかりだ、でもいちいち、心をくじかれている暇はない。
 
「可愛げの欠片もない。貴方様は、これでは嫁の貰い手に困るどころか、女王陛下も愛想をつかしてしまうことでしょう」
「構いません。むしろ、クリスティナ様は私に執着しすぎなのです。貴方はどう考えているのですか、ギルバート」
「もちろん、当然の事と捉えておりますよ、貴方様をここまで育てたのも女王陛下と言って差し支えないでしょう。その大切な家族が、こんな野蛮な土地へ、送られてしまえば、なおのこと、連れ戻すのは義務ですから」
 
 嘘つき。絶対思ってないだろう。ギルバートは、クリスティナ様に同調しているだけだ。自分の主張を話していない。

 何かこう、確信的な理由付けが出来るわけでは無いが、そう思うのだ。本当にそんな風に想いを私に寄せてくれているのなら、あの屋敷にいた時と今を見比べて、どちらが幸せかわかるだろう。
 
 格子の付いた部屋の中で、家畜のように世話をされて、芸を覚えさせられて、望むように動く人形。あんな生活を幸せだと、どうして言える。
 
「貴方も気がついて居るはずです。こんな方法で私を連れ戻そうとするのは間違って居る、自国まで危険に晒して、無理やりに私を引き戻すなど、行き過ぎている」
「私は、そうは思いません」
「いいえ、姉様は盲目になりすぎです。戦争を起こすなんて、マナンルークが勝利出来る目処があったとしても、それは他国の介入があってこそでしょう?私を取り戻せたとして、クリスティナ様はどうなるのですか。戦争での損害がある中、他国が攻め入ってきたら?危険すぎます」
「姫殿下、貴方様は情勢について、さほど知識は無いはずです、軽率な発言は」
「どうあっても戦火に包まれれば、クリスティナ様はまた、不安定な情勢の中で、女王であらなければならない、せっかく、やっと地盤を固められたのに、どうして危険な行為を許すのですか!」
 
 ギルバートが叱る相手は私じゃないはずだ、こんな所まできていないで、クリスティナ様に言うことがあっただろう。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!

にのまえ
恋愛
 すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。  公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。  家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。  だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、  舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...