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猫ちゃん その2
しおりを挟むうーんと首を傾げると、ポタッと、口元を伝って、液体がスカートに、落ちた。
どうやら血だったようで、ワンピースの生地に赤が滲んでいく、思わず鼻を抑えると、手にべっとりと鼻血が付いた。
あ、ああ~、顔面の痛みが引いてきたと思っていたが、どうやら、気のせいだったらしい。
鼻血ってどうしたらいいんだっけ、止め方が分からない。とにかく、上向く?いや、鼻になにか詰めるんだったか。
考えている間にも手のひらで拭っていれば、次から次に流れ落ちてきて、ポタポタと服を汚す。
ちょっと出過ぎじゃないだろうか、こんなの記憶にないし、どうしよう。
冷やしてみる?なんだか口の中まで血の味がして気持ち悪い。
吐き出したいけれど、立ち上がって歩いたら、抑えるものも無いので床を汚してしまいそうだ。いくら手のひらで抑えても隙間から溢れ出る。
「っ、……ぅ、うう」
なんだか急にパニックになってきた。
ぽんと、柔らかいしっとりとした感触が、鼻に触れる。
それはやわっとしていて、じんわり暖かい。
「はわっ」
「にゃ」
動くなと言うように、ルカは私を睨んで少し鳴く、私は抑えていた手を離して、目を瞑る。
ルカは前足をポンポンと私の鼻に触れさせて、治癒の魔法をかける。
ほんの数秒で、溢れて止まらなかった鼻血が止まる。
するとルカは、また本棚の下に入ろうとするので、思わず彼の胴をガシッと両手で掴んだ。
綺麗な毛並みが血で汚れてしまいそうなことに引け目を感じたけれど、また、本棚の下に戻ってしまったら、話も出来ないと思い、そのままぎゅうと抱きしめる。
頬を擦り付けると、ほんのり暖かくてお日様の匂いがする。こんなに触り心地の良い生き物が存在していていいのだろうか。
この毛皮を目当てに、命を狙われたりしそうだ。
「う、んん」
わぁ、もうダメだ、私。こんなにずうっと触れていたいと思ったのは、ルカだけだよ。
これが恋か。
「シャー!」
ルカはグネグネ暴れて、威嚇音を出す。
怒っているようなのに爪を出したり、魔法ではじりいたりはしない。結局の所、こういう人なのだ。ルカは。
「ねぇ、ルカ」
ルカの手をとって、肉球に触れる。
やわやわでしっとり、唯一無二の触り心地だ。
頭を撫で付けて、頬擦りすると、またルカが小さく鳴いた。
「私ね、ルカが護ってくれないと、死んじゃうよ」
もちろん、死ぬつもりはないが、ただこれでいいと思った。確信がもてたのだ。ルカは私を大切に思ってくれている。
やっぱり彼は、やりたくて、私を傷つけるわけではない。だから、きっとこれを引き合いに出してもいい。
ルカだって私を脅して無理やり触ったのだから、私だって同じことをして文句を言われる筋合いは無い。
ルカの過去の事は、時の経過とともに、これからと同様、薄めていけば良い。
ルカを離して、腕を捲り上げる。
それから、クルスのマジックアイテムを一つ一つ外していく。
人間を許せないという気持ちと、私への気持ちどっちがルカの中で勝っているだろうか。
ルカは本棚の下に戻ることはなく、私の行動をただ見ている。
全て外し終えて、ルカと目を合わせるけれど、獣の姿なので彼の表情は分からない。
「私、貴方に惚れちゃったから、ほかなんて考えられない。でも、ルカに冷遇されてたら、私、ここでちゃんとやって行けるのかな?」
「……」
「クルスのマジックアイテムももう付けないよ。魔力を纏ってるとか色々言われるからね。ねぇ、触ってもいいよ。なんて言われても、ルカになら良いよ」
あの時は、怖かった、混乱したし、理解できなかった。でも今は、いい、節操なしなんて言われても気にしない。
人間が無防備で、ルカ達獣人に比べてどれだけひ弱か、再認識してくれればいいのだ。
ルカに手を伸ばす頬に触れようと思ったのだが、そこには、猫ちゃんの姿は無く、人の姿に戻った彼だけだった。
襲うように、私を押し倒して、馬乗りになる。
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