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進む時 その2
しおりを挟むアンジュには、午後は暇を出して、昼食を済ませる。
しばらくしたら、迎えが来ると思うので、私は午後の時間の準備だ。
「姫様、本日は新しい服が届いたので、こちらにお召替えをなさいますか」
「うん、そうする」
新品の服に袖を通して、着替えさせてもらうと、なんとも春っぽい衣装に、気分が高揚する。
フリルやリボンなどの可愛らしい装飾がついているが、それほど主張しすぎず、全体で見ても大人しい装いだ。
刺繍は、ふんだんに使われてているので、高級品だなぁということは分かるが、今更つっ返す事は出来ないので、こちらも贈り物で、返そうと思う。
「これってさ、やっぱりルカの趣味なのかな」
「どうでしょうか……あの方はあまり、衣服や装飾にこだわりがないので、ユスティネ様に助言を貰っているのかもしれませんね」
なるほど、そういう事か。確かに、お義母さまが選んだと思えば納得が行く。
私が持っている服と、だいたい似たような系統のまま、刺繍やフリルを足して豪華にしてある。
結婚を決めると、ルカは、言葉とは裏腹に段々と贈り物をしてくれるようになった。
服が足りないなぁと、思えば服が来たし、お化粧品が欲しいなぁと思えば、似合う色のものが送られた。
最初こそ、とんでもない観察眼を持っているかと思ったが、よく良く考えれば、リノとマティが必要なものを進言してくれていたのだろう。
そして、贈り物のセンスは、お義母さまに助言をされたという可能性が高い。
そして、贈り物を沢山するべきという考えは、お義父さまだろうなと思う。
クルスがマナンルークに旅立つ前に強制的に、ルカも含めて、女心を掴むための講義が開かれていたのだ。もちろん、女子禁制であったけれど、それだろうと思う。
「嬉しいんだけど、貰いすぎだと思っちゃうんだよね」
「気にしにゃいで姫さん。あの人最近やっと、人付き合いって奴に積極的ににゃったから、加減がわからにゃいのです」
「そうですよ。恋人も初めて、家族付き合いも、友人関係も、やっと、始めたばかりの初心者ですから」
「ルカってそんなに、引っ込み思案なの?」
聴きながら、確かに、ルカはいつも一歩引いていて、積極的には、人に関わっていなかったような気がする。私に関しては、勝手に部屋に来て、虐めてきたので例外だと思うけれど。
「引っ込み思案と言うよりは、壁を作って一向に距離を縮めようとしないんです」
「そうにゃ、ニコニコ笑って、本心は話さにゃい」
「へぇ、それで、初心者か」
でも、やり始めると言うことはいい事だ。きっと、これから、彼に擦り寄ったり、騙して利益を得ようとする者がどんどん増えるだろう。
そういう時のために、お義父さまとお義母さまがいる。きっと二人は、そういう人達に良いようされないよう、ルカを守ってくれるだろう。
それなら、私は人付き合いの先輩として、少し多めのプレゼントぐらいは、お返しをするだけ、見過ごすべきだろう。
まぁ!私も田舎に引っ込んでいて、ろくに対人関係を経験して無いけどね。
緩く髪をゆってもらって、支度は終わった。あとは迎えが来るのを待つだけ。
私は何となく、本棚の前へと足を運んで、一冊本を手に取る。
「……時間まで本を読んでますね」
「はい、かしこまりました」
「わかったにゃ」
本を持って、ソファへと腰掛ける。開けば、中に書いてあるのは、簡単なタリスビアの説明だ。成り立ちから始まって、地図、主要都市、領地名。それから王族や教会について。
どれも、まったくタリスビアを知らない私には、読みやすくて、ありがたい本だった。
そしてそれぞれの項目について、一冊ずつ、深堀した本が棚に並んでいる。
ここに来たばかりのことを思い出す。よく考えればこれだって、ルカからの贈り物なのだろう。
それから他には………。
本から顔を上げて、見回すと、ティーセットの用具が入っている棚にひっそりと並ぶ紅茶の缶。
そして、二人のメイド。
私がここに来た時、与えられたものは全て、私が暮らしやすいようにルカから与えられたものだ。
本当に彼からは沢山、貰っているのだ。きっと本人に言ったら、無視されるか、否定されるだろうけれど、ルカ以外に異国の人間を迎え入れる時に必要なものなど、わかっている獣人は居ない。
お義母さまでさえ魔力の関係で熱がでる事を知らなかったし、この本の事をお義父さまに聞いても、そのような本は所有していないとの事だった。
本当に、私は沢山貰ってばかりなのだ。
ルカを知って、やっと気がつくことが出来た。感謝しなければならない事ばかりで、私はいつもルカに手仕事を作る時、馬鹿みたいに魔力を注いでしまう。
ルカの優しさに見合うだけのものを返したいと思うのに、まだまだ未熟で、思ったような品が出来上がらない。
……これからの人生で貰いすぎた分の幸せを返して行きたいと思うけれど……。
コンコンと部屋がノックされる、扉が開いて、少し照れくさそうなルカが、部屋に入って私に声をかける。
「……おまたせ。迎えに、来たんだけど……後でまた来ようか?」
彼は、私の手元にある本を見てそう言った。
「ううん、大丈夫!」
「そう」
私が笑って返事をすると、ルカも少しだけ微笑んで、ペタッと耳を下げる。
その表情が、私も照れてしまうぐらい、優しげで、暖かくて、嬉しくて、どうにも、貰ったものが返せるような気がしない。
「行こうか」
「うん」
こんな、夢見たいな、優しい時間をまで貰ってしまったのだから、私も誠心誠意、尽くすしかないだろう。
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