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ルカの答え その1
しおりを挟むソファーに座ると早々にルカは、私に手紙を差し出した。彼から渡されるということは、クルスからの手紙である。
「この間の手紙は、どんなだったっけ?」
「……確か、人間は面倒くさいって、遠回しに長々と書いてた」
「そっか、ふふ、あっちの国も今は、大混乱だろうからね、色々大変だろうね」
この間もこうして、手紙を二人で読んでいたのだが、詳しい事は書いていないにしても、嫌味が多いだとか、些細な言い回しが原因でトラブルになったとか、心配になる内容だった事を思い出す。
クルスは、スッキリとした性格なので、人間同士のチクチクとした悪意のある言葉や、遠回しな物言いに辟易しているらしかった。
獣人は圧力で相手の力がわかったりするし、少数の貴族がある程度まとまっているだけで派閥争いなどには、それほど過激ではない、そういう面倒ごとに彼が慣れて居なくても仕方ないだろう。
まぁ、それでも、自分の派閥をまるまる作って国を作り替えられるぐらいには、貴重な魔法道具や、有能な獣人と共にマナンルークに行ったので、立場が安定するのは、時間の問題だと思う。苦労するのは、ここから半年ぐらいの間だろう。
私が楽しみにしているのは、姉様とクルスの恋愛模様だ。
ペーパーナイフを使って、手紙を開いてみると、不思議とお菓子のような甘い香りがした。
「……香水?」
「っ……」
ルカはすぐにその香りを察知して、後ろに身を引いた。
香水、それも知っている香水だ。
姉様の匂い。彼女が愛用している香水のはずだ。他の女性とは一風変わった、姉様だけが付けている香水。
どうやら、なにか関係性に進展があったらしい。
今までは、姉様はクルスとの結婚を前向きに捕らえているように、社交の場ではアピールするが、それ以外だと、ことごとく避けられている状況だった。
手紙に目を通すと、これまた社交での常識の違いや、香水の香りで一度、目を回した話など、少しの愚痴と定型文が一枚目に書いてあり、二枚目には、抽象的にだが、姉様との事が書かれている。
『どうやら、クリスティナは少々情緒が安定していない』
『お前の手仕事の品をよこせと要求している』
『何故か、手紙を書く時に側から離れないので、今もそばに彼女がいる』
とそんな内容だった。
一体何があったらそんな事になるんだと、内心面白く思ったけれど、文面的に、クルスは随分、真面目に悩んでいるらしかった。
「ふーん、君が特別病んでいたんじゃなくて、最近の人間って皆、君みたいなの?」
「え、……どうかな」
手紙を読み終えたルカがそう言う。種族の特性ではなく、産まれた状況で決まるような気がするけれど、ここの貴族関係よりも、マナンルークはめんどくさいので、そういう人も多いのではないかと思う。
「へ、平穏な人も居ると、思うんだよ?あ、でもほら!病んでるって言えばルカも病んでるし、きっと類は友を呼ぶってやつよ」
「俺を一緒にしないでくれない?」
「えぇ、そんな真面目な顔で言われても……なぁ」
私よりも、ほの暗い過去があるくせに、何を言っているのやら。ただ彼は、心底、真面目そうなので突っ込むのはやめておく。
「そもそも、人間は個々の力が弱いから、ああやって群れて生きてるのに、その中でも貶しあいや、いじめが耐えないなんて、本当に、残念な生き物だよね」
意図して無いのに、またルカのスイッチが入ってしまったらしい。
「そうね」
「クルスも不憫でならないよ、人間の巣窟に自分から飛び込むなんてさ、あんな劣等種のどこがいいのか、俺には分からないね」
流れるような罵倒に、これはまあ、条件反射の方だろうとほっとする。
本当に嫌悪感を抱いている時は、こんな感じではない。しっぽも、ペタンとソファに投げ出すようにしているので、大丈夫だ。
ルカは嘘を付いた時とか、ルカが騙されたと感じた時に、異常な嫌悪感を示す。
それ以外の過去から来ているであろう、彼の性格の異常性は、まだ知らないので、とにかく常日頃から気をつけるようにしている。
だから、今でもタリスビアの貴族からの手紙は、お義父さまとお義母さまが検分するし、その内容もルカも把握出来るようにしている。それに加えて、クルスからの手紙はこうして二人で見ると、約束した。
他には、私の執務内容をアンジュはルカに報告しているし、側近とは常に離れず一人にならないように行動している。
しかしルカは、私の情報をそれほど受け取っていて疲れないのだろうかと疑問に思っている。ただでさえ、王位継承のための勉強や仕事が大変だと言うのに、器用な人だ。
「それに人間側も一度受け入れたなら、変化を受け入れるべきでしょ。何でこうも───
「そうだね、クルス……大丈夫かな。私の手仕事の品が欲しいって、姉様は何がしたいんだと思う?」
喋り続けていたので、適当なところで遮って疑問をぶつけた。
ルカは、遮られた事をあまり気にせず、ふと手紙に視線を落として、少し考える。それから、ぶっきらぼうに答えた。
「少しでも、君を感じたいんでしょ。クリスティナ女王は、立場上、君に手紙を出すことも出来ない。君から手仕事を送られることもなかった」
「……うん?」
「クルスが羨ましいんじゃない。だから、避けてみたり、クルスの前で、情緒不安定になったりする。君にあれだけの魔法をかけた人だから、納得だよ」
「う、うーん」
ピンと来なくて、曖昧な返事をする。
だってあの姉様だ、手に入ら無いものなど、ひとつもなさそうな完璧な女性なのだ。それが、嫉妬心で……というのは想像つかない。
「でも、いくら、私を大切にしてくれてたって言ったって、普通そんな事になる?」
「普通じゃないんでしょ。彼女」
「いや、そうなんだけど」
「それに、君のために王座を目指すような、人なら当然だと思うけどね」
その話を聞いていたのは、側近達だけじゃなかったっけと思ったが、ちゃんと報告を受けたのだろう。話が早くて助かる。
……姉様にも、人らしい一面があったらしい。
やはり、感情に流される彼女など、想像出来なかったけれど、ルカの言っていることは辻褄が合う。他に理由も思い浮かばないし、客観的に見てそうなのだから正解だろう。
離れて随分と経つのに、今更、親近感が湧くというのは、なにか不思議な気持ちだ。完璧なだけじゃなかったんだ。
そうだ、手紙をかかないと、返事は来なくとも、それで、姉様の心が落ち着くのなら。
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