自暴自棄になって買った奴隷が、異国の王子だったんだけどこれって何罪。

ぽんぽこ狸

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 気がついたら奴隷市場に来ていた。いや、ここまでくる間の道のりも、覚えているし、泣きながら全財産を布袋に詰め込んで屋敷を出たのも覚えている。

 病魔の証である顔の痣をローブでかくしながらエディットは案内の商人についていった。

 商人に伝えた要望は女の子供だ。それも病を恐れない子供。

 奴隷の子供なんて、エディットは、親に売られて一生を他人の為に使われるだなんて許せるものではないと思っていた。だから自分も買わなかったし、買わない事で廃れていってほしいと思う文化だった。

 それなのに、自分が窮地に立った途端に、こんな風に奴隷を求めるだなんてとてもあさましくて恥ずかしい行為だったがそれでも寂しく、耐えられなかった。

 それに、子供の奴隷なら、エディットを殺してお金を奪って逃げるようなことは出来ないはずだという思惑もあった。そしてそんな事を考える自分に自己嫌悪に浸る。

 ……でも、どんなにあさましくとも生きていきたいのよ。

 自分自身に言い訳をしながら歩を進めていると、薄暗い店の中ある一角で商人が止まって少年少女が入った檻をけ飛ばした。

「おらっ! ご主人様候補が来てくだすったぞ! 顔上げろ!」

 怒号が響いてエディットの方がびっくりして体を震わせた。しかし、そんなエディットに気がつかずに、商人は猫なで声をだしながらエディットに笑みを向ける。

「身の回りの世話ができる子供ってぇとこのあたりでごぜぇます。どの商品も病も恐れぬ健康体と保証できまっせ!」

 ……健康体……あ、そういう意味じゃ、ない。のだけど……。

 すぐに商人の勘違いに気がついた。

 エディットの病に怖がらずに接してくれる子という意味だったのだが、健康体の子供が出てきてしまった。

 しかし、押しの強そうな商人にきっぱり言えるほどエディットははきはきとした性格をしていない。

 ……どうすれば……。

 そう考えつつ、檻に入れられてこちらを見上げている少年少女を見下ろした。

 彼らは、様々な瞳をエディットに向けていて、彼らの中から選ぶしかないそう思いながらも、彼らに対して、自分がまずは誠実であらなければと思った。

 彼らだって生きるのに必死なはずで、誰かに買い受けられて出来る限り幸せに生きるのを望んでいる。

 エディットも同じく、出来る限り買うからには幸せにしてやりたい。そう思う。だからこそ、顔をかくしていたローブのフードを外した。

「この顔を見ても、私の生活を支えてくれる子が欲しいの」
 
 エディットの声を聞いてどれどれとばかりに商人がエディットの顔を覗き込んで息を飲んだ。それから、距離をとる。

 普通の反応だ。頬に青黒い痣が広がり顔の三分の一ほどを覆ってしまっている。魔力の多いものがなる病とは言え、普通の皮膚病にも見えなくもない、忌避されて当然だ。

 その反応に今更傷ついたりしなかった。

 けれども檻の中からひぃっと襲それるような声がして、一人の子供が必死にエディットから離れようとして檻の中を逃げていくのを見ると、怖い思いをさせてしまって悪いという気持ちになった。

 それを皮切りに少年少女たちはエディットのそばを離れていって、誰も寄り付かなくなった。

 ……予想はしてたけど、これからどうしたらいいのか、分からない、わ。

 傷ついてなどいない、そのつもりなのだがその場から動けず、何も言えずにいると、ペタペタと裸足の足音が聞こえて、今までこちらに興味を示さず端の方にいた少年が一人エディット元へと近づいた。

 彼は、光をはらんでいるような美しい金髪をしていて、この国には珍しいい色なので隣国の出身だとわかる。

 医療の国なのでもしかすると病気に対する知識が多少なりともあるのかもしれない。

「……」

 彼に続くように女の子も一人ついてきて、彼女は警戒するようにいろんなところに視線を配っていた。

 ふと目の前まで来た少年が、檻に体を押し付けて、ぐっとエディット方へと手を伸ばす。

「……」

 その手はあろうことか、エディットの痣に触れた。

 発症してから、汚物のように扱われ続けたエディットの顔に何の躊躇もなく触れて、じっとエディットの顔を見据えた。それから手を離して、少し思案した後、口を開く。

「俺を買うなら、ジネットと一緒で」

 ……? 

 言いながら側にいる女の子を指さして、ジネットと呼ばれた彼女はさも当たり前のような顔をして頷く。

「い、今、決めてもらえりゃ、二人目の子供は、何と半額でっせ! こんなお得な買いものそうないでしょうや!」
 
 少年の言葉に、気を取り直して商人がセールストークを初めて、エディットにぎこちない笑みを浮かべる。

 たしかにお得だし、病を恐れないというエディットの条件を満たしているが、なんだか腑に落ちない。

「ちなみに奥様、ご予算のほどはいくらほどですかねぇ!」
「え、あ、ええと」
「お聞かせいただけりゃあ、すこしは頑張りまっせ」
「ちょ、ちょっと待ってほしいのだけど」
「いやいや、すぐ買っちまうのがいいはずです、なんせほら、こんなにきれいな金髪すぐ売れちまいます」
「そうだ、買うならとっとと買え。ジネットもそれでいいな」
「ええ、問題ありません」
「よし、決まったな」

 エディットがまごまごしているうちにいつの間にか少年も会話に参加してきて話を纏めようとする。

 それに商人も乗っかってエディットに迫る。

 ……まって、まって、絶対、なんていうか。この奴隷達、ただものじゃないっていうか。

 そう思うのに口には出せずに、エディットは布袋に二人も買う分だけのお金が入っているか心配になって一枚二枚と数えた。

 本当は大人しい子を買おうと思って来ていたはずなのに、目の前にいるのは奴隷らしくない子供たちだ。

 家に帰ってお財布と相談すると伝えたかったが、押しの強い商人に口で勝つことはできず、二人の奴隷と随分、やせ細った全財産の入った布袋とともにエディットは屋敷に帰ったのだった。



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