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第3話
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しとしとと雨の音がする。背中の痛みを感じながら、エマは目を覚ました。
自分の部屋ではない天井に一瞬戸惑うが、すぐに昨夜のことを思い出す。
(そうだ、人間拾ったんだった……)
エマの部屋は二階、患者用のベッドは一階にある。青年の容体が変化したときに気づけないと困ると思い、昨夜は一階の床で寝たのだった。
起き上がって伸びをすると、全身がぎしりと音を立てた。まだ若いから大丈夫だと思ったのだが、さすがに床は硬すぎたようだ。
机の上に雑に置かれていた眼鏡を掛け、青年の様子を見る。ゆっくりと胸が上下するのを確認し、安堵の息がこぼれた。
傷口に当てた布を取り、傷の状態を確認する。大きく裂かれている箇所も、血が止まっているようだった。
傷薬を塗りなおし、布を清潔なものに取り替える。寝かせているシーツも血まみれになっているため取り替えた。
エマは朝食のパンを食べながら、汚れた布を玄関先で洗った。屋根があるとはいえあまり雨の日に外に出たくはないが、血は放っておけば染みついてしまうため、早めに洗ってしまいたい。
たらいに冷たい水と塩を入れて、ざばざばと布を洗う。完全には落ちないが、それは仕方がないとしよう。
「あらエマ。こんな雨の日にお洗濯?」
庭先から聞こえた声に顔を上げると、不思議そうな顔をしたアンナがいた。
エマがパンを咥えたままうなずくと、アンナは呆れ顔でエマに近づいてきた。
「食べるか洗濯するか、どっちかにしなさいな。お洗濯手伝うから、ゆっくり食べなさい」
アンナはたらいの傍にしゃがみ、エマの手から布を取り上げた。
エマは咥えていたパンを手に取り、口の中に入っていた分を咀嚼した。
「ありがと。それ血がかなりついてたやつだけど大丈夫?」
「血!?」
アンナは持っていた布をたらいの中に落とした。水が跳ねて服が濡れたが、既に洗濯中に濡れていたため、エマは気にしていない。アンナはそれどころではなさそうだ。
「血って、村の誰かが怪我したの?」
アンナはエマと違い、怪我や血に耐性がないためか、顔面が蒼白になっている。
エマはアンナの様子に驚くこともなく、パンを食べながら首を横に振った。
「ううん。知らない人。昨日森で倒れてるのを拾ったの」
「村の外の人ってこと?珍しいわねぇ」
アンナは案外すぐに落ち着いたようで、洗濯を再開した。怪我の度合いを伝えたら今度は倒れてしまうかもしれないので、エマは黙っておくことにした。
エマより手際の良いアンナのおかげで、洗濯は思ったより早く終わった。いつも洗濯物を干している場所は雨に濡れてしまうので、洗い終わった布は玄関先の屋根の下に干しておくことにした。
アンナは通りかかっただけのようで、洗濯が終わると去っていった。お礼にあかぎれに効く塗り薬を渡した。
アンナは去り際に「何かあったらすぐに呼ぶのよ」「手伝えることがあったら言ってね」と何度も言った。アンナがエマを娘のように思ってくれていることは理解しているが、少々心配しすぎではないかと思った。
エマは家に戻り、改めて青年の様子を見た。昨日よりは顔に血の気があるように見える。
昨日は血まみれで気付かなかったが、青年はなかなかに端正な顔立ちをしていた。もし彼がカンフォーレ村で生まれ育っていたら、女性たちからのアプローチが絶えなかっただろうと思う。
(せっかくきれいな顔なのに、傷ついちゃって可哀想)
左目の傷は、おそらく痕が残るだろう。きれいに治せたらいいのだが、それが可能な技術はエマにはなかった。
こういうとき、治癒魔法があれば治せたのかもしれない。治癒魔法は、かなり大きな傷もたちどころに治るという。
エマは治癒魔法についての知識をあまり持っていない。そもそも魔法が使える人が身近にいなかった。
治癒魔法は時間が経っても治せるのだろうか。青年が目を覚ましてある程度動けるようになったら、都会に治癒魔法を受けに行くことを勧めた方が良いのかもしれない。
ふと、エマの中に疑問が起こった。青年はどこから来たのだろうか。
青年が倒れていた状況は、思い返せば不思議なことがたくさんあった。これだけの傷を負って森に入ったのなら、青年が歩いた箇所は血が点々としていたはずだ。しかしエマが通った道に、そのような跡は見当たらなかった。他に青年が倒れていた箇所にたどり着ける、人間が通れる幅の道は無い。
その場所で襲われたとしか考えられないが、であれば森で火事が起きていないとおかしい。青年は全身に火傷を負っているのだから。
あと考えられるとすると、転移のような魔法が存在するのかもしれない。しかしそんな魔法があるならば、魔族はもっと人里に頻繁に現れるのではないだろうか。
単に血の跡を見落としただけなのだろうか。確認しようにも、今日の雨で血は流れてしまっただろう。青年が回復したら聞くしかない。
そのためにはまず回復させなければいけない。余計なことは考えないように、エマは青年の手当てに集中した。
自分の部屋ではない天井に一瞬戸惑うが、すぐに昨夜のことを思い出す。
(そうだ、人間拾ったんだった……)
エマの部屋は二階、患者用のベッドは一階にある。青年の容体が変化したときに気づけないと困ると思い、昨夜は一階の床で寝たのだった。
起き上がって伸びをすると、全身がぎしりと音を立てた。まだ若いから大丈夫だと思ったのだが、さすがに床は硬すぎたようだ。
机の上に雑に置かれていた眼鏡を掛け、青年の様子を見る。ゆっくりと胸が上下するのを確認し、安堵の息がこぼれた。
傷口に当てた布を取り、傷の状態を確認する。大きく裂かれている箇所も、血が止まっているようだった。
傷薬を塗りなおし、布を清潔なものに取り替える。寝かせているシーツも血まみれになっているため取り替えた。
エマは朝食のパンを食べながら、汚れた布を玄関先で洗った。屋根があるとはいえあまり雨の日に外に出たくはないが、血は放っておけば染みついてしまうため、早めに洗ってしまいたい。
たらいに冷たい水と塩を入れて、ざばざばと布を洗う。完全には落ちないが、それは仕方がないとしよう。
「あらエマ。こんな雨の日にお洗濯?」
庭先から聞こえた声に顔を上げると、不思議そうな顔をしたアンナがいた。
エマがパンを咥えたままうなずくと、アンナは呆れ顔でエマに近づいてきた。
「食べるか洗濯するか、どっちかにしなさいな。お洗濯手伝うから、ゆっくり食べなさい」
アンナはたらいの傍にしゃがみ、エマの手から布を取り上げた。
エマは咥えていたパンを手に取り、口の中に入っていた分を咀嚼した。
「ありがと。それ血がかなりついてたやつだけど大丈夫?」
「血!?」
アンナは持っていた布をたらいの中に落とした。水が跳ねて服が濡れたが、既に洗濯中に濡れていたため、エマは気にしていない。アンナはそれどころではなさそうだ。
「血って、村の誰かが怪我したの?」
アンナはエマと違い、怪我や血に耐性がないためか、顔面が蒼白になっている。
エマはアンナの様子に驚くこともなく、パンを食べながら首を横に振った。
「ううん。知らない人。昨日森で倒れてるのを拾ったの」
「村の外の人ってこと?珍しいわねぇ」
アンナは案外すぐに落ち着いたようで、洗濯を再開した。怪我の度合いを伝えたら今度は倒れてしまうかもしれないので、エマは黙っておくことにした。
エマより手際の良いアンナのおかげで、洗濯は思ったより早く終わった。いつも洗濯物を干している場所は雨に濡れてしまうので、洗い終わった布は玄関先の屋根の下に干しておくことにした。
アンナは通りかかっただけのようで、洗濯が終わると去っていった。お礼にあかぎれに効く塗り薬を渡した。
アンナは去り際に「何かあったらすぐに呼ぶのよ」「手伝えることがあったら言ってね」と何度も言った。アンナがエマを娘のように思ってくれていることは理解しているが、少々心配しすぎではないかと思った。
エマは家に戻り、改めて青年の様子を見た。昨日よりは顔に血の気があるように見える。
昨日は血まみれで気付かなかったが、青年はなかなかに端正な顔立ちをしていた。もし彼がカンフォーレ村で生まれ育っていたら、女性たちからのアプローチが絶えなかっただろうと思う。
(せっかくきれいな顔なのに、傷ついちゃって可哀想)
左目の傷は、おそらく痕が残るだろう。きれいに治せたらいいのだが、それが可能な技術はエマにはなかった。
こういうとき、治癒魔法があれば治せたのかもしれない。治癒魔法は、かなり大きな傷もたちどころに治るという。
エマは治癒魔法についての知識をあまり持っていない。そもそも魔法が使える人が身近にいなかった。
治癒魔法は時間が経っても治せるのだろうか。青年が目を覚ましてある程度動けるようになったら、都会に治癒魔法を受けに行くことを勧めた方が良いのかもしれない。
ふと、エマの中に疑問が起こった。青年はどこから来たのだろうか。
青年が倒れていた状況は、思い返せば不思議なことがたくさんあった。これだけの傷を負って森に入ったのなら、青年が歩いた箇所は血が点々としていたはずだ。しかしエマが通った道に、そのような跡は見当たらなかった。他に青年が倒れていた箇所にたどり着ける、人間が通れる幅の道は無い。
その場所で襲われたとしか考えられないが、であれば森で火事が起きていないとおかしい。青年は全身に火傷を負っているのだから。
あと考えられるとすると、転移のような魔法が存在するのかもしれない。しかしそんな魔法があるならば、魔族はもっと人里に頻繁に現れるのではないだろうか。
単に血の跡を見落としただけなのだろうか。確認しようにも、今日の雨で血は流れてしまっただろう。青年が回復したら聞くしかない。
そのためにはまず回復させなければいけない。余計なことは考えないように、エマは青年の手当てに集中した。
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