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三柱の世界

恋に落ちる音がした

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久々の我が家である。
いきなり異世界こんにちはーした場所はこの家の玄関である。
今またその玄関に立って上を見上げれば、階段の上に見慣れない青年が一人、青い林檎を持って立っていた。

「…君がハツネさん?」
「はいな。ハツネですよ。どちら様でしたっけ?」

と、聞かなくても分かってたのに、何故か聞き返してしまった。あれだ。あの人は王子だ。襟首でクルンってなった黒髪がめんこいイケメンだ。

「僕、ヴァーニエルです。助けていただいて有難うございました」
「ああ王子。お元気そうで何よりです。怪我は治りました?」
「お陰様で、すっかり良くなりました。アオも感謝してます」

話をしながら玄関から続く階段を昇り、王子の近くへ行く。おおやはりイケメン。近づくとより一層分かるイケマスク。
体躯的には細っこくて華奢な体つきで、細い首の上に乗った顔は超小顔。大きな瞳についた睫毛はふっさふさでお人形さんみたいだ。
和顔遺伝子どこいったんだろ。三代も下ると凡庸な味噌顔も進化してキリッとしたマヨネーズ顔になるんだろうか。

「あ、アオくんは聖霊回廊にも顔出してるってアザレアさんから聞いたよ」
「そのアザレアさんというのは…アナスタシア様のことですよね」
「うん、そう。…双陽神から事情説明とかありました?」
「はい…アナスタシア様がわた…あ、僕を庇ってくれたって…」

お?なんだなんだここでも何やら複雑なラブ臭がする。伏せ目がちな王子の憂い顔がいと愛らしひ。
アザレアさんとディケイド様がラブラブなのは周知の事実だけど、まさか横恋慕じゃないよね…。

「アナスタシア様は僕のこと好きになるはずないって思ってたから…」

庇ってもらったことが嬉しいと、青林檎を両手で握り締め、はにかみながら言うイケメン。その様子に胸キュンしない乙女はいないと思うんだ。

「なんでそんなこと?あのアザレアさんがディケイド様の子供を邪険にするはずないと思いますよ」

聖霊回廊で、私が起きたら友達になって欲しいとかかんとか言ってた気がする。
少なくともアザレアさんは王子のこと気にかけてるよ。
どうしてそんなこと思うのか問えば、王子は戸惑いながらも答えてくれた。
父親のディケイド様と母親の王妃様は冷えた仲。それぞれに愛人をつくって家庭は不和。自分は望まれてない子だとずっと思っていた。王妃様の愛人には面と向かって嫌われていた。時には邪険にされ嘲笑されることも…。
だからディケイド様の愛人であるアザレアさんもそうに違いないと思っていた。
自分なんて愛してくれないと思っていた。なのに助けてくれた。←今ここ

うわあああ何それえええなんて可哀想な話なんだ王子不憫すぎる…!
今だって国は滅びたし奴隷の鎖に縛られてるしで不幸にも程があるわ。
誰かこの王子に愛をあげて!と、私は心で泣き咽びながらリビングへ移動すると、そこには噂のアザレアさんがいた。

『ハツネちゃん、おかえり~ん♪』
「アザレアさん…!どうしてここに?あ、聖霊回廊と家は繋がってるんでしたっけ」
『そ~う。たまにここへ来て家事やってんのよお』
「ふおう。ありがとうございます。双陽神たちに家のことお任せしといたはずですが…あいつらどこに?」
『そういえばいらっしゃらないわねん。きっとどこか見に行ってるんじゃないかしら。降臨したの久しぶりってはしゃいでたし』

まぢか。あの神ども自由すぎるだろ。まあでも神って気まぐれなもんだから、これでいいのだろうか。
とりま双陽神のことはどうでもいいとして、それより何よりアザレアさんである。
聖霊回廊でも会ったけど、精神体で過ごすようなあそことは違いここは現実である。生身である。
だから感無量でアザレアさんに抱きつけばあったかいのである。

「元気になって良かった!アザレアさんやられちゃった時はもうどうしようかと…心がハゲそうになりました!」

本当に。既に心は円形脱毛症かもしれん。
ぎゅっぎゅとアザレアさんに抱きついて抱きついて抱きつきまくる。ルークスさん置いてきたから嫉妬の心配はないのでハグし放題だ。

『やあねん。ハゲちゃいないでしょ。きちんと精神は回復してから起きたわよね?』
「うううそうですけど起きたら起きたで色々ありまして…」

主にルークスさんと気まずくなり浮気を疑ったので精神ゴリゴリ削られた話をする。それからカテル氏に神子の晃さんと、最近出会った人の話をしてから、この家を取りに来た話もする。
「そんな訳でお引越ししましょう」と締めくくって、私はテーブルの上にあったお茶の入ったティーカップを持って中身を啜った。はふ。一息つけたぜ。

『皇居宮殿に住めるのね。よくやったわハツネちゃん』
「わーい褒めてくだされ」

にゃんにゃんごろにゃんとアザレアさんに甘える。

「あの…わた、いや、僕も行って、良いのだろうか…?」

王子が遠慮がちに口を挟むが、何を遠慮する必要があるのかね。どんとこい。
アザレアさんが好きなんだろう。男なら根性だ。

「もちろんヴァーニエル王子もいらしてください。王子は死んだことになってますので、この家から出るときは変装でもすればいいんじゃないですかねえ」
『あら、それいいわね』

私の適当な思いつきにアザレアさんが思いがけず大賛成してくれた。

『どうせならもう自分を偽るのやめちゃいなさいヴァーニエル…いえ、アリステラ』
「っ、あ、アナスタシア様…」

んん?アリステラって誰ですか。アザレアさんは真剣な表情で王子を見つめ、王子は瞳を潤ませてアザレアさんを見つめ返している。
雰囲気が百合百合しいのだけど、どういうこったろ。そして私は完全に蚊帳の外。

『変に気負わなくていいの。貴方は貴女なんだから』
「でもっ、わた…あ、僕は」
『アリステラに戻りなさいナ。王国は滅びたのだから、王子なんてやめちゃっていいのよ』

そう言って優しく微笑むアザレアさんに、王子は…いや、王女様ですか。
アリステラ姫かな。姫とお呼びしよう。姫は静かに涙を流した。

なんか百合百合しいなと思ったのはこういうことだったのね。
ヴァーニエル王子の本名は、アリステラ・テレン・ヴァーニエル・ヴラン。
正真正銘の女の子でした。確認で胸を触らせてもらったから間違いない。

王と王妃の一粒種な王女様は、自身が男じゃないから軽んじられているんだと思い詰めていたらしい。男なら堂々と後継者になれる。
周囲も認めてくれる。両親からも愛してもらえる!と考えて男装していたと…。
ちょっとこの子本当に憐れなんだけど、どゆこと!?
聖霊王国って男尊女卑なお国柄なの?!
もう王国は滅びて、やっと女の子に戻れるとか…私まで涙ちょちょ切れそうなんだけどいやもう既に決壊してた。鼻ズビズビさせながら私は姫様の胸を揉む。

「あの、んっ…ハツネさん…あぁ…」
「うわああんおっぱいあるしいいい…けっこうあるし…」

そうなのだ。今まで布巻いて抑えに抑えてたみたいだけど、全部解いたら、ぽよよんっとたわわな実りがそこに現れた。
思わず揉みに揉んでいる私である。乳首も綺麗な色してる。しゃぶりたいくらい。

「ぐす…16歳に負けた…」
「はうぅ…っ、乳首、だめ…!」

思った以上に年下だったヴァーニエル王子もといアリステラ姫。
早速変装をというか女の子の格好しようねってことで私の服を貸すことにした。
着ていた服を脱いでもらって、現れた乳に目移りして、揉んでしまったのが運の尽き。今時のティーンは発育が良すぎないかね?!マリエナちゃんといい姫といいなんでこんなぽよんぽよんなの?!げせぬ!
揉めば揉むほど色んな意味の涙がちょちょ切れていく。心が…痛い…。

『ハツネちゃん、それ以上は涙だけじゃなくて貴女の心まで決壊するわよ。やめときなさいナ』
「分かってるんです。この差は覆せないと。人は生まれながらに乳の大きさは決まっているんだと」

無常を噛み締めつつ最後に姫のおっぱいへと顔を埋めた私。

「ひゃんっ」
「声まで可愛い…アリステラ姫、パーフェクトです」

そして私は討ち死に。おっぱい神には勝てなかった。人はどうして乳を揉むのだろう。そこに乳があるからだ。ない場合は揉みようがない。真理だね。

女の子の格好に着替えたアリステラ姫はとても可愛くなりました。
イケメンが美少女になったよ。服はミザリーさんとこで購入したワインレッド色したスカラップワンピースである。
髪はアザレアさんが魔法で茶髪にした。黒髪だと怪しまれちゃうからね。髪型はアップにまとめてふんわり雰囲気の姫コーデになったよ。服と同じ色の大きなリボンが特長だね。手にはもちろん青林檎だ。姫コーデも、正真正銘の姫さんがやると更に色が加わって爆発力が増しちゃうんだね。勉強になった。
女の私でも「おお麗しい…!」とか言っちゃうくらいだから、これ見て落ちない男はいないんじゃないかなーと思われる。

さて、遅くなった。夕刻に家へ到着して、そこから一時間以上も馬車を待たせしてしまった。主に姫さんのドレスアップに時間をかけたわけだが悔いは無い。
乳ももげたし満足じゃ。

家を出る前に財布の補充をした。地下にあるお金はまだまだたんとある。
それから全員家から出て、鍵をかける魔法の言葉を灯した。ブレスレットのチャームへと家が収納される。ポゾドルの階段を降りたらもう馬車が見える位置だ。
ヒースラウドさんが馬車の外で煙草吹かしてるのも確認した。

「お待たせしてすみませんでした」

声をかけながら私は紙袋から三角スコーンを取り出しヒースラウドさんに手渡した。

「どうぞ。お腹の足しにしてください。コーヒーも淹れてきましたよ」
「…これは有難う存じます。お嬢様が作られたのですか?」
「あ、違います。コーヒーは私が淹れましたけど、スコーンはあっちの美少女の手作りです」

と、後ろに付いてきてるアリステラ姫へと視線をやる。

「あ、あの…初めて作ったのでお口に合うかどうか…一応、アナスタシア様に教わりながらですけども…」

しどろもどろ頬を赤く染めながら喋る姫がカワエエ。
姫の喋り方ってなんかいじましいっていうか守りたくなっちゃうのな。
…て、姫、顔が赤い…だと?

「頂いても宜しいでしょうか」
「はい是非。帝国の兵士様ですよね。わたくし、アリステラと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

そう言ってますます頬を薔薇色に染め上げていく姫。こ、これは…。

「こちらこそ宜しく。この帝国の皇族方をお守りする任に就いております。ヒースラウド・オーリュフェンと申します」
「オーリュフェン様…」
「ヒースでいいです。アリステラ様」
「わ、わたくしもアリスで、アリスと呼んでくださいまし…」
「アリス…可愛らしい名前ですね」
「か、かわいっ…て?!」

あらま。アリステラ姫のキャパが越えたみたい。首まで赤くなって茹でダコ状態だ。まさかここで姫が恋に落ちちゃうとはなあ…予想外でーす。
ヒースラウドさんの方は分からないけど。ただ淡々とスコーン食べてるし。
コーヒー飲んでるし。立ちながら飲み食いできて器用だなあと思うくらい。

「お味の方は…いかがでしょうか?」
「甘いです。今まで食べたものの中で断然甘いですね」
「あ、それは蜂蜜を入れたからだと…えと、貴重な蜂蜜を分けていただいたのです」
「蜂蜜…これが……こんなに甘いものだとは知りませんでした」
「わたくしも…こんなに甘いものだなんて知らなかったのです」

あああ甘ああああいいいいアオハルかよ。
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