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三人の夫が王配になることが決まったのは今から四年前。それは勿論突如決まったことではない。彼らは何年もの間行われた選考で最終的に選ばれたのだ。

選考期間中、彼らは様々なことを教育され、試され続けた。選ばれることは優秀という証。貴族である以上、それは家の名誉に繋がる重要なことだった。

種馬レースに出走する権利を得る為、彼らは優秀さを競うレースを一心不乱に駆け抜けたということだ。そこにローザリアが好きだから王配になりたいという感情はなかっただろう。なにせ選考期間中にまともに会ったことがなかったのだから。仮に会ったとしても、誰が勝者になるか知りようがない当時のローザリアには彼らとどう接していいか分からなかったはずだ。

国としても将来を託す、優秀な人材の見極めを優先した結果だから仕方がなかった、親睦を後回しにしたのは。第一、王配になれない人物とローザリアが先に親しくなってしまえば要らない問題が生じてしまう。それが故に、王配選考後からローザリアとの親睦が始まったのだった。

親睦は茶会という形で行われた。始まったのは三年前から。恐らく一年間は王配としてローザリアとどう向き合っていくかの講義も王配教育の中に含まれたのだろう。

その証拠に、親睦の茶会での三人の態度はほぼ同じ。ジュリアン、ブラッドリー、ルイスの順で違う人物と茶会をしているのに、そこに違いを感じない程。三人の王配を従えるローザリアに感情の違いが生じないよう教育されたということだ。三人に優劣をつけることがないよう。

一月に一人、三人と行うには三か月必要な茶会。次の順番が回ってくる期間を考えれば、親睦が進むはずがない。茶会と言うより、互いの顔を忘れないようにする面会と呼ぶ方が正しいくらいだ。
会話だって、周囲には毎回ローザリアの侍女と護衛、準備を進めるメイド達と何人もの人間が控えていたのだからお手本のような当たり障りのないものばかりが繰り広げられた。

三人は王配候補として品位を落とさない会話、態度を常に取り続けた。
何て詰まらないものだろう。年頃の何もしなくても周囲から散々持て囃されそうな三人が国の為、家の名誉の為に得た立場は。

ここまで思い出し理解すれば、成程クリスが説明した三人への褒賞も頷けないこともない。
でも、やっぱり何かがおかしいと夏菜子を思う。前世でも見合い結婚だった。まあ、今と比べたら規模は砂粒くらいだけれど。それでもいざ結婚という段階で、陽太はあの意味不明なプロポーズ擬きをしてくれたのだ。陽太なりのけじめを見せる為に。

それに引き替え、三人からはプロポーズの言葉はなかった。初めて紹介された時は『ローザリア王女殿下の王配となることが決まったジュリアンです』と名乗られただけ。続けざまに、態度も言葉も同じようにブラッドリーとルイスがローザリアへ挨拶をしたのだった。勿論、自分の名前の部分は流石にジュリアンとは言わず、それぞれブラッドリー、ルイスと名乗ったが。

思い出されることの一つ一つが夏菜子のローザリアへ向けた同情心を煽る。自分自身へ向けたものではあるけれど。
浮気相手に殺されてしまったとはいえ、お見合い後の陽太とのデートは毎回心躍った。プロポーズ後の結婚式場選びに始まり、新生活へ向けた様々な話し合いは勿論衝突することもあったけれどそれはそれで楽しかった。
しかし、ローザリアにはドキドキのドの字も存在しない結婚へ向けたカウントダウンだったのだ、三年の月日は。

そして数字が小さくなって行くカウントダウンに反して、次第に大きくなっていくものがあった。それは焦り。親睦が進まないことへの。
そして、恐怖。このまま結婚してしまっても良いのか、閨教育で習ったことをしてまで子を儲けなくてはならないのかという。

ローザリアが主催として開く王女の茶会で会う結婚間近の令嬢達は皆、砂糖菓子のような甘い雰囲気を醸し出していた。誰もローザリアのような考えを持っている様子はない。それどころか、参加する令嬢達は王配となる三人を素晴らしい人物だと褒めそやし、ローザリアが羨ましいと言う。

ローザリアには余程令嬢達が口にする婚約者とのあれこれの方が羨ましかった。それが、二人でお菓子を選んだだけという内容でも。だってそこには二人で出掛け、二人で選んだという事実があるのだから。

焦り、恐怖、羨望、一体全体何がきっかけになったのかは分からない。死ぬ前、会話がなくなったことを経験していた夏菜子の本能がローザリアを突き動かした可能性も考えられる。
ローザリアは何かを変えようと、努力をしようとしたのだ、結婚の三か月前に。

けれど滑稽にも程がある。その結果が、ローザリアの心を閉ざすことへの後押しをしてしまうとは。
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