泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

文字の大きさ
134 / 453
冒険者

四日目

しおりを挟む
次の日から私達は朝昼晩の食事の準備を行った。
とはいえ朝と昼は堅く焼いたパンと干し肉なので簡単で、夜の調理も食材がほぼ変わらないから初日と同じ様に作るだけだった。
野営地は井戸や川がある為、水の補給は容易で、到着するたびに水を汲むのも私達の仕事だ。

全員で分担して仕事をこなしていくだけだったので日に日に慣れていき、三日経つ頃にはエルザの手伝いなしで支度が出来る様になっていた。

日中の移動については相変わらず最後尾をついていくだけだった。
私は索敵能力を買われて常に《遠隔視野》で周囲の警戒。
しかし初日の襲撃以降は何も襲ってくる事はなかった。

「大方、臨時で一パーティが変更になったからその偵察と技量を測ろうとしたのでしょうが、まさか返り討ちに遭うとは思ってもなかったでしょうね」

エルザはそう言って笑っていたが、襲撃を画策しているのはあの連中だけじゃないだろう。引き続き注意が必要だ。

それから気になる事が一つ。

夜、皆が寝静まった頃に私達のテントに近付く者がいる。
何か仕掛けてくるのかと思ったが、どうやら探りを入れてきているだけの様だ。

やってきているのは《草原の風ステップウインド》のロッシュとレイルだ。彼らの目的が何か不明だが私達を監視しているのは確かだ。機を見て本人達に聞いてみようと思う。

四日目の日中、《遠隔視野》で魔物を発見する。

街道から少し外れた所でオークの群れと冒険者が戦っている。

「エルザさん、右手前方の森の近くでオークと冒険者らしいパーティが戦っています。オークの数は十四、人間は六。劣勢です」
「それは大変だ。ヴァンに対応を聞こう」

私とエルザは商隊中央にいるヴァンの所へと走る。

状況を伝えるとヴァンは商隊を止める様に指示して各パーティのリーダーを集める。

「彼らが敗走すればオークがこちらに来るかもしれない。様子を見るべきだが、隊をここに留まらせるのも危険だ。救援を出して戦っている冒険者とオークを撃破するのが最善だと思うがどうだろうか?」
「賛成だが、距離があるから俺達の足じゃ無理だ。他のパーティから救援を選抜してくれ」

そう言ったのは『鋼鉄の壁』のリーダーだ。金属の全身鎧に斧槍を持った大男で、彼のパーティは全員重装備で機動力は無い。

「そいつらに任せて一気に抜けるのはどうだい?」

そう提案してきたのは『草原の風ステップウインド』のリーダー。
彼は腰に長剣を下げた軽装備の青年で、機動力の面ならこのパーティが一番良い。

「その子が言うには苦戦しているのだろう?長くは持たんだろう。機動力重視の君らだけならそれでも良いが、足の遅い商隊を連れていては追撃されたら捕まってしまうぞ」

『雷鳴』のリーダーは背中に大剣を背負った男性。

「それでは商隊を進めつつ救援に向かわせよう」
「戦闘中のパーティには負傷者が多数出ています。私は回復魔法を使えますので連れて行ってください」

この部隊で回復魔法が使えるのは『竜の牙ドラゴンファング』と『雷鳴』に一人ずつ、それからリンと私だけだ。主戦力になる前者二人はなるべく温存したいだろうから私が志願する。

「分かった。ハルに治療任せるぞ」
「はい」
「それじゃあ機動力のある俺達が援護に行くとしようか」
「頼む」

意外にも『草原の風ステップウインド』のリーダーがそう言ってきた。

「すぐに行けるか?お嬢さん」
「はい。大丈夫です」
「オーケーだ。ロッシュとレイルは隊に残って索敵を続けろ。あとはハルを連れてオーク狩りに行くぞ」

少し離れた所で休憩していた『草原の風ステップウインド』の面々に声を掛けると、全員が動き出す。

戦闘している森の近くまでは走っても十分はかかるだろう。間に合うかは分からないが、出来るだけの事はしよう。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...