泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄

文字の大きさ
383 / 453
竜の国

竜から人の姿に

しおりを挟む
エルンスト達ファディア王国の者を国に送ってから泉に向かう。メリーゼハーヴは大会を見てから帰ると言うので私が連れて歩く事にした。

王宮で国賓待遇を受ければ良いと話したのだが、『息が詰まるので嫌じゃ』などと子供の様な事を言って拒否された。

まあ仕方がない。私達と共闘する者なのだ。多少の面倒は見てやろう。

「海竜達の所に戻らなくて大丈夫なの?」
「それを精霊殿に言われたくないのぅ」

確かに。私も泉と森を颯太に任せて別の所に行っている事が多い。

「彼奴らには『精霊殿の逆鱗に触れる様な事をすれば次は助けぬ』と言っておいた。大人しくしておるだろうよ」
「そう……」

彼らにとって私が何に怒るかは分からないだろう。下手な事をしない為には自分達の領域で大人しくしているしかない。

効果的ではあるが、知らない所で私の名前を出さないで欲しいわね。

泉の畔には精霊達とトコヤミが待機していた。

「おかえりなさい、お母様」
「ただいまワダツミ。初めて会うみんなに紹介するわね。海竜の長のメリーゼハーヴよ」
「メリーゼハーヴじゃ。宜しく頼む」

『ほぅ、海竜の長。エレが言っていた《逆巻く大洋》のメリーゼハーヴか』
「この竜も精霊殿の眷属なのか?」
『その通り。我はトコヤミ、お初にお目にかかる海竜の長よ』
「うむ。しかしこれ程までに強力な竜が眷属とは……やはり精霊殿は只者ではないのぅ」

トコヤミを見上げながら言うメリーゼハーヴ。トコヤミも相手が海竜の長という事で高圧的な言葉は使わなかった。

「そうだわ。トコヤミは人の姿になれないのよね?」
『はい。我の住んでいた所ではその様な術はありませんでした』

彼の住んでいたのは北方の湿地帯だったかしら。

「恐らくそこまで力のある者が居らなかったのじゃろうな。しかし今のトコヤミ殿ならば人の姿になれるやも知れぬぞ」
『海竜の長よ、その術をどうか我に教えてもらえぬだろうか?』

トコヤミは食い気味にメリーゼハーヴに頼んでいた。メリーゼハーヴは私に対して「どうする?」と視線を送って来た。

「教えてあげられるかしら?」
「構わぬよ。しかしトコヤミ殿、何故人の姿になりたいのかえ?」
『人の姿であれば何処にでもハル様にお供出来ます!』

先日の事を気にしているのだろう。

「よかろう。では教える前にこれを」

そう言って取り出したのはエレの持っている金色の腕輪と同じ物。トコヤミは竜から人に変身するのだけど使えるのだろうか?

「初めは無理じゃな。人の姿になったら衣服を着てこの腕輪をすると良い」
『感謝致す』
「それでは始めよう。まずは──」

トコヤミに変身の術を教えていく。私達は少し離れた所でそれを見守っていた。

「──というわけじゃ。試してみられよ」

メリーゼハーヴがそう言うとトコヤミは魔力を練り始める。暫くの後トコヤミが力を込めた言葉を発すると、彼の身体が光り輝き人の姿に変わっていく。

黒く長い髪の二十代前半の男性へと姿を変えていた。

「……これが、我の姿なのか」
「うむ。成功じゃの。姿形は選べぬからな、その姿がトコヤミ殿の人の姿じゃ」

メリーゼハーヴに言われて自分の姿を確認しているトコヤミ。
細めの体型をしているが筋肉質。鋭い目つきをしているが何処か優しそうな印象を受ける。

「ハル様、この様に我も」人の姿を得る事が出来ました!これからは何処へでもお供出来ます!」

そう言って私の方へと駆け寄ってくる。

「こ、これ……トコヤミ殿!」

メリーゼハーヴが引き留めようとするがもう遅い、私の目の前に立っている人型のトコヤミは服を着ていなかった。

「トコヤミ、服を用意するから着てもらえるかしら?」
「勿論です!」

元気よく返事をするトコヤミ。
彼の服のサイズは分からないので少し大きめの服と靴を泉の水から生成してみる。

「な、な、何ですか!その人!ハル様に何をする気ですか!!」

木々の間から叫んだのは訓練から戻ってきたエレだった。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界に移住することになったので、異世界のルールについて学ぶことになりました!

心太黒蜜きな粉味
ファンタジー
※完結しました。感想をいただけると、今後の励みになります。よろしくお願いします。 これは、今まで暮らしていた世界とはかなり異なる世界に移住することになった僕の話である。 ようやく再就職できた会社をクビになった僕は、不気味な影に取り憑かれ、異世界へと運ばれる。 気がつくと、空を飛んで、口から火を吐いていた! これは?ドラゴン? 僕はドラゴンだったのか?! 自分がドラゴンの先祖返りであると知った僕は、超絶美少女の王様に「もうヒトではないからな!異世界に移住するしかない!」と告げられる。 しかも、この世界では衣食住が保障されていて、お金や結婚、戦争も無いというのだ。なんて良い世界なんだ!と思ったのに、大いなる呪いがあるって? この世界のちょっと特殊なルールを学びながら、僕は呪いを解くため7つの国を巡ることになる。 ※派手なバトルやグロい表現はありません。 ※25話から1話2000文字程度で基本毎日更新しています。 ※なろうでも公開しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する

ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。 きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。 私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。 この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない? 私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?! 映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。 設定はゆるいです

処理中です...