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「まぁ!ルーノったら、名前も知らないお嬢さんの手を引っ張ってきたというの?」
 ああ、しまった。私が失敗してるんだきっと。
 カーテシーを慌ててする。使用人のような扱いを受けていたけれど、子爵令嬢として恥ずかしくないだけの基本的なマナーはアイリーンと一緒に学んでいる。アイリーンと違って、家庭教師に指導してもらえる時間が少なかったため、必死で身に着けた。ぎこちない動きになってしまうのは仕方がないと思う。
「シュリアド子爵家が娘、アイリーンです。ご挨拶が遅れ申し訳ございません」
 頭を下げると、素っ頓狂な声が後ろから聞こえた。
「アイリーン、君が?」
 ルーノの声だ。
 公爵様が苦笑している。
「ははは、ルーノの耳にも社交界の華と噂の令嬢の名前は耳にしていたようだね」
「ふふ、どうぞ、舞踏会を楽しんでね」
 まだ挨拶をの順番を待っている人もいるため、公爵夫妻の言葉に、係の者に誘導されてその場を離れた。
「あの、ルーノ様……天井画を見せに連れて行ってくれてありがとうございました」
 アイリーンのどんな噂を耳にしているのか分からない。ボロが出る前に立ち去ろうと頭を下げる。
「ま、待って!」
 背を向けたら引き留められた。
「手を掴まれては、聞こえないふりをして立ち去ることはできない。
「弟が……」
「弟?えっと……」
 誰?誰の事?
 知っていて当たり前のことなの?アイリーンの知り合い?ルーノの名前も出してた人がいる?
 どうしよう。何も分からない。
「ご、ごめんなさい、その……ルーノ様の弟というのは?」
 名前を聞いたら、〇〇様のお兄様でしたの?とでもすっとぼけよう。あとでお父様に聞けば誰のことか分かるだろう。
「いや、分からないなら、いい。うん、いいんだ」
 え?名前を聞かないとますます誰か分からないままだよ。
「天井画もいいけれど、首も疲れるし、少し外に出ないか?」
 ルーノ様が開け放たれた窓の外に視線を向ける。
 ダンスホールとは違って、公爵家の庭には人はまばらだ。
 幸いにして?ルーノ様のおかげで公爵様へのあいさつは済んだ。あとは、人気のないところでひっそりと時間がたつのを待てばいい。
 アイリーンの知り合いとなるべく接触しないように。
 そのためには庭に出る方が得策だろう。
 と、どうするべきか考えているとルーノ様があわてた。
「あ、いや、違うからな?そう言う意味じゃない。ほら、夜会と違って、明るいから」
 そういう意味って、どういう意味?
 分からなくて首をかしげる。
 夜会と違って明るい?
 その言葉にハッとする。
 夜会では、庭に誘うのは、人気のない暗闇で男女が愛を語るとか……聞いたことが。
 想像して顔が真っ赤になる。
「ただ、その、花が綺麗に咲いているだろうから……」
 ルーノ様が焦って言葉を続けた。
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