誰の子か分からない子を妊娠したのは私だと義妹に押し付けられた~入替義姉妹~

富士とまと

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「はい、あの、すいません。私、その……慣れていなくて……」
 恥ずかしくなってうつむくと、ルーノ様が私の目に入る位置に、手を差し出した。
「ごめん。俺も慣れてなくて。初めから花を見にいこうと誘えばよかったんだ」
 慣れていないという言葉に、顔を上げると、ルーノ様がほんのりとほほを染めていた。
 ……あの方は誰という女性の言葉を思い出す。
 社交界にあまり顔を出さないのね……。彼となら、アイリーンじゃないとばれることはないかもしれない。
 それに……。
 もう少し、ルーノ様と一緒にいたい……。
 差し出された手に、手を重ねる。
 ルーノ様がにこりと笑って私をエスコートして庭へと出た。
「アイリーンはどんな花が好き?」
「あの、私は……」
 花の名前を知らない。
 アイリーンに花が届けられることがあるけれど……花について誰かと会話をすることもなかったから。
「あまり名前を知らなくて……その……」
 名前は知っている。本に出てくるから。でも、どんな花なのかは分からない。薔薇は分かるけれど、ビオラもアネモネもどんな花なのか分からない。
 ルーノ様が笑った。
「それはよかった。俺も花には詳しくないんだ。何とかの花がどうのとか、花ことばは何だとか……言われても答えることができないところだった」
「え?えーっと、あの、じゃあ、一緒にいろいろ見て好きな花を見つけませんか?」
 ルーノ様のエスコートで庭園に足を踏み入れる。
「窓から見えた花はこれだね。薔薇だ」
「ふふ、本当。薔薇だわ。薔薇なら私も名前は知っているわ」
「ケンティフォーリアだとかフロリバンダだとか、薔薇にも種類があると言われてもどれがどれだか分からないな。薔薇は薔薇でいいじゃないか」
 ルーノ様の言葉に大きく頷く。
「花言葉から、恋人には赤、男達にはオレンジ、女友達にはピンク……なんて言われても、どの色の薔薇も素敵なのだから勿体ないわよね」
 一面に咲き誇る色とりどりの薔薇。
 圧倒的なその景色に、ため息しか出ない。なんて美しいのだろう。
「ああ、確かに。アイリーンに贈る薔薇が赤だけなんてもったいない」
 え?
 赤は恋人に贈る色……。
 ルーク様の言葉に顔が赤くなる。まさか、ルーク様は私に赤い薔薇を?と、そこまで考えたところで、ルーク様がハッとする。
「い、いや。たくさんの薔薇を贈られているんじゃないかと思って。ダンスホールでも、男たちの視線を釘付けにしていただろう?」
 ルーク様こそ、女性の視線を釘付けにしていた。
「そんなことは……」
 ルーク様が私の髪をそっとひと房持ち上げた。
 視界にうつるのは、金色の髪。私の……カツラの……アイリーンの髪の色だ。
「アイリーンは、何色の薔薇を贈ってほしい?」
 ルーク様の目が私の目をまっすぐ見ている。
 私がルーク様から欲しい薔薇の色は……。
 答えられるはずがない。私が欲しい薔薇の色もアイリーンに贈る薔薇の色も。
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