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「ああ、それから、これを」
 ミリアがポケットから手紙を出した。
 1つは簡単な封筒。もう一つは侯爵家らしい格式ある封筒に入っていた。
 簡単な封筒を開くと、ジョアン様に出した手紙の返事だった。任せてちょうだいと、一言だけ。
 ほっと息を吐き出す。
 これで、ミリアがもし子爵家を私のせいで首になっても大丈夫だ。
「ありがとう、ミリア……」
「いつでも仰ってください。健脚なのでお使いは得意ですから」
 ミリアが自分の足をぽんっと叩いた。
 ……きっと、何らか事情がある手紙だというのは分かったよね。
 また、手紙を届けてあげますよと言うことを言っているのだろうか。
 手紙と、糸を買ったおつりを持ってお父様の執務室に向かう。
「お父様、使いに出していた侍女が戻ってまいりました。お父様に手紙を。それから買い物をしたおつりがこちらです。明細はこちら」
 お父様に侯爵家の紋が入った封筒を私、家令に買い物の明細とおつりを渡す。使用人はすべて入れ替わったけれど、お義母様の弟の家令だけは残っている。
 お父様は、手紙の封を切る前に、私の顔を見た。
「で、刺繍はどこまで進んでいる?」
「はい、あの、あと2時間ほどで1枚完成すると思います」
「そうか。じゃあ、明日には間に合うな。私のポケットチーフとして使う」
「え?お父様が使うのですか?」
 お父様が私をにらんだ。
「なんだ、私が使って何が悪い」
「いえ、あの……女性向けの刺繍をしているので……」
 ドンッツと、お父様が机を強く拳でたたいた。
「だったら今から縫い直せば済むだろう!いちいち言うようなことじゃない!」
「……は、はい……」
 慌てて部屋に戻る。
 今から?お父様用に?
 刺繍糸と一緒に、布も買ってきてもらえばよかった。ドレスの布から作ったハンカチはピンクしかない。
 ……そうだ。
 クローゼットのまだ見ていない引き出しを見る。
 きっとハンカチも持っているはず。お父様用の刺繍をできそうなものもあるんじゃないかな?
 引き出しにはハンカチがたくさん入っていた。
 真新しい、レースや花の刺繍がちりばめられたハンカチが。
「どれも、だめね……」
 それにしても多いけれど、いただきもの?
 ……よく見ると半分くらいはシミが……。
 ドレスも飲み物などをこぼしたようなシミが付いていたし……シミが残っているから新しハンカチをどんどん買っていた?
 と、こうしてはいられない。他にハンカチが置いてありそうなのは……。
 ドレッサーの引き出しを開く。真ん中の一番大きな引き出しには宝石が入っていた。
「うわぁ、これ、なくなってたら疑われるやつだ……怖……」
 整然と並べられている宝石類。1つでも場所が入れ替わっていたら疑われそう。触れずにそのまましめる。右側の上段には化粧道具。下段にはブラシとヘアアクセサリー。
 左側の上段には封筒がたくさん入っている。
「何?」
 少しふくらみがある封筒もある。宛名も何もない。小物を小分けして入れてるのかな?
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