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 子爵家の名誉を守るために、アイリーンが産んだ子を自分の子として父親の元へ嫁げというのが、私の役割なら……。
「それでもやはり、ルーノ様は間違っていないと思います」
 ルーノ様がゆっくりと体を離して私の顔を見つめる。
「いいや。間違っていた……。人を愛することを知ってからは……。家のために好きな人と別れさそうとすることは、つまりは不幸にするということだと気が付いた。家族なのに、不幸にしようとするのは間違っているだろう?」
「え?」
「家族なら、幸せを願うものだ……兄なら、家のことなら俺が何とかすると……弟の幸せを応援するべきだったんだ……」
「家族の幸せ……?」
 お母様がもし生きていたら……。
 お母様は私が幸せを願ってくれた?
 子爵家を……出たいと言ったら……応援してくれた?
「愛を失うことがどれほど不幸なことなのか……。生きていくために、愛がどれほど大切なことなのか……俺はアイリーン……君が、好きだ」
 え?
「どうして、そんなことを言うのですか……」
「君があの男に襲われているのを見て、生きた心地がしなかった。頭が沸騰して、感情が抑えられなくなって……アイリーンを守ってやれない自分が情けなくて……そして、何より……他の男に触れさせたくないと……好きだと自覚した。いいや、愛してるんだ。」
「受け入れられません」
「なぜだ!」
 ルーノ様を不幸にしてしまうから。ルーノ様が言ったんだ。大切な人の幸せは願うものが当たり前だと。
 ルーノ様に幸せになってほしいのだから……。
「聞かなかったことにします……」
「どうして、アイリーンだって、俺のことを好きだと、そう言ってくれただろう?」
「……ごめんなさい」
 この謝罪は、気持ちを伝えてしまったことに対するものだ。
「なぜ……」
 ルーノ様が悲しみの表情を浮かべる。
「兄さんっ!」
 突然の声に、弾かれたようにルーノ様が私の肩から手を離した。
「アイリーンに何をしたんですっ!」
 ルーノ様よりも少し若い青年が現れた。
 こちらまで駆けてくると、ルーノ様を押しのけて私を背に庇った。
「兄さんっ!アイリーンに、何をしたんですかっ!許さない!」
 ルーノ様と同じ色の髪の青年ごしに、ルーノ様の顔が見える。
 その表情は何かを悟ったようなものだった。
「アイリーン……」
 声にならない声で、口を動かすのが見えた。
「アイリーン、行こうっ!」
 青年……ルーノ様を兄さんと呼ぶからきっと、弟なんだろう。
 私の手を取ると、走り出した。
 そして、人気のない屋敷の影に入ると自分の着ていた上着を脱いで私の肩にかけた。
「ドレスは破れて……あちこち汚れて血も……いったい、兄さんに何をされたの、アイリーン」
 怒っているような泣きそうになっているような顔で、青年が私を見た。
 目の色は、ルーノ様よりも少し青が強いんだ……顏は、ルーノ様よりも優しい感じ。
 と、思わずまじまじと顔を見てしまうと、同じようにルーノ様の弟もまじまじと私の顔を見た。




===============
どうれくらい家のためっていう思いの強さがあるのか。
国のためといい戦争に子供を送り出した時代があったことを思うに、
何を犠牲にしても家のため国のためっていうのはあったんだろうなぁと。
少し思いました。
呪縛……大丈夫逃れるから。もうすぐ。
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