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『婚約するため。候補者の令嬢と会うためだって。ハルーシュ様も同じ。私は選ばれない側』
 それからお茶会では顔を合わせないように避けるようになったようだ。
『夜会でハルーシュ様にあった。ヴァイオレッタの私を見て「アイリーン」と呼んだ。会いたかったって。人違いだとヴァイオレッタの時の高慢な物言いをしたけれど「僕が君を見間違えるわけがない」って。どうしよう。好き。でも、ハルーシュだって他の男と同じ。婚約する予定の人がいるのに、他の女に優しくして。他の、汚い男たちと同じ。無視して他の汚い男と話をしている間、ずっと視線を感じていた。何が言いたかったんだろう』
 お茶会でハルーシュ様と会うことはなくなりかわりに夜会で会うようになったんだ。
 それからハルーシュ様はヴァイオレッタの噂を知ったうえで「今は僕の愛人だ。手を出すな」とアイリーンを守り始めた。
『なんでそんなことをするの?と聞いたら僕にも分からないと言われた。婚約するために王都に来たのに。愛人がいるなんて噂が立ってしまっては駄目でしょう?』
 ああ、きっとこの噂かな。ルーノ様が、弟の不始末をと言っていたのは。
 娼婦のようだと言われるヴァイオレッタを愛人にしたという噂を聞いて、ルーノ様は王都に来たのだろう。
 愛人宣言したため、二人はたびたび夜会が開かれている部屋の一室に二人でいることが増えていく。
 アイリーンとしてお茶会に参加していたときと変わらない。
 たわいのない会話を続けるだけの関係が続いた。
『他の汚い男たちとは違う。部屋に二人きりになっても、ハルーシュ様は何もしない。きっと、私のことを哀れに思って、本当に守ってくれるためだけに、愛人だなんて嘘をついたのだ。どうしよう。これ以上好きになったら。私にできることは、本当に愛人にしてもらうことしかない。それでいい』
 本当に愛人にしてと、アイリーンはハルーシュ様と愛を交わすようになった。ただ幸せな日々が続いていたようだ。
『ハルーシュ様のお兄様が王都にやってくる。きっと、別れさせるために来るんだとハルーシュ様が言った。そうか。私は愛人でいることもできないのか……』
 日記はそこで終わっている。日付は、妊娠したとアイリーンが言い出した数日前。
「日付?」
 ここ3か月ほどはハルーシュ意外と関係を持ってはいなかった。
 いったいいつ妊娠に気が付いたの?
 もしかして、アイリーンはハルーシュ様の子じゃないかと薄々分かっている?
 それとも、日記には書かれていないだけで他の人とも関係を持った?
 日記を閉じて引き出しに戻すと、ドレッサーの封筒の中身を確認する。
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