【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-5 公爵家の朝

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     ◆公爵家の朝

 薄い生地のカーテンから、朝日がさし込む、薄っすらと明るい室内で。ぼくは公爵家での初めての朝を迎えたわけだが。
 その第一声は、ギャーーーーッという、なんとも色気のないものであった。

 だって、そりゃ、叫んじゃうよ。
 寝台に、ぼくは寝ていたわけだが。
 その顔のそばに、黒猫がいたのだからっ。丸くなって、寝ているのだからーーっ。

 シ、シオンがっ、また猫になっちゃったーぁ?

「シオンなの? これ、シオンなのかっ?」
 いやいや、ワンチャン、タダの黒猫という説も…公爵家で飼っている猫、的な?

「なんですか、兄上。朝から騒々しい」
 いやーっ、ワンチャンなかった。
 シオン…いや、これはチョンだっ!

 チョン…いや、声が甲高くないので、まんまシオンなのだが?
 その黒猫のシオンが、クアッと、大きなあくびをして、言った。

 ど、どうしてぇ? 呪いが戻っちゃったのぉ? 嘘でしょー?

「いや、シオン? チョン? 猫に…猫になっていますよ?」
 気づいていないのかと思って、教えてやったが。
 だから、なに? というような半目顔で。こちらを見る。
 寝惚けているんですか?

「あぁ、ぼく。猫になれるようになったんです」
 シオンは。極めて冷静にそう言って、布団にもぐると。もぞもぞしたあと、上半身裸の、人間のシオンが出てきた。
 あぁ、ホッとしたよ。朝でも人になれるのなら。まぁ、よし。
 と、思っていたら、そこに。
 ぼくの悲鳴を聞きつけたメイドが、何人か入ってきて。
 同じ寝台に寝ている、ぼくとシオンを見て。キャーッと悲鳴を上げた。

「お邪魔して、し、失礼いたしました」
 そう言い、頭を下げて。慌てて、部屋を出て行くメイドさん。心なしか、顔が赤い。

 つか、なにがお邪魔?

 部屋が再び静かになり。ぼくはシオンを睨んだ。
「つか、なんで、ぼくの布団に入って、寝ているんだ? なんで、猫になったんだ? なにがどうなってんだ? 簡潔に述べよ、弟よ」

 上半身裸で、なかなかに鍛え上げられた筋肉をまとわせた体を、あらわにし。
 そんなピッチピチなものを、うら若きメイドが目にしたら。
 そりゃ、顔も赤くなるってもんだね。
 下はズボンを着ているが。布団の中に隠れているから、見えないし。

 ああぁっ? 兄弟で、裸で、一緒に寝ている、みたいな感じになっているじゃないかっ?
 いや、ぼくはパジャマ着ていますからねっ? セーフ。

「魔力が戻って、呪いを跳ね返したら、もう強制的に、猫になることはなくなったのですが。猫だった時期を長く過ごしましたから。魔法で、猫の体に変化できるようになったのです。これはこれで、有用なのですよ。情報を入手しやすいですし。身体能力も上がるので」
「そうなのか? 月影の呪いが再発したわけじゃないんだな? なら、良いが」
 ぼくは、とりあえず、ホッとした。
 せっかく学園に通えるようになったというのに。また、昼間は猫の生活になったら。シオンは貴族子息としての生活が困難になってしまうではないか? と思って。

「じゃあ、コントロールして、猫になったんだな?」
 そういえば、前のように子猫ではなく、しなやかな大人の猫の体で。声も、今のシオンと同じ声だった。
 うーん? それはそれで、がっかりなような。
 あの甲高い子猫の声で、兄上ぇぇ、と言われるのが好きだったのに。

「えぇ、自由自在です」
「でも、心臓に悪いから、起き抜けの猫は勘弁してくれ。つか、兄のベッドで寝ないでください」
「冷たいではないですか? つい最近まで、ぼくは兄上と一緒に寝ていたのですよ?」
「もう、君は十四歳なのですっ。それに、ぼくはすぐに嫁ぐので。ひとり寝に慣れてください」
 シオンは口をとがらせて、不満な顔をすると。寝台を出て、ぼくの部屋のシャワールームに入っていく。
 公爵家は、水魔法の家系なので。水回りは充実している。
 いやいや。問題はそこではない。

「シオンっ、自分の部屋の浴室を使いなさい。なんか、兄弟でいたしたみたいな感じになるじゃないかっ? 陛下に怒られるぅ!」
 陛下は、ぼくとシオンが同じベッドで寝るのを嫌がるので。
 こんな顛末を耳にしたら、離婚の危機なんですけどぉ?

 そんなぼくの焦燥を無視して。シオンは構わず、ぼくの浴室に入ってしまった。もうっ。

 でも、久しぶりに見た、猫のシオン。
 大人猫なので、可愛いより、とても美しかったですぅ。
 黒猫なので、毛が、ツヤツヤのピカピカです。
 光沢の白い線が、ところどころ、プリズムを生み出し。なんと神々しいのでしょう。
 今度、抱っこさせてもらわなければ。
 足が長く。胴も長く、スレンダーで。しなやかで。黒豹みたいでしたね?
 子猫姿も捨てがたいですが…。
 とにもかくにも、やっぱり、猫は、いいですねぇ?


 着替えを済ませ、朝の支度を終えた、ぼくとシオンは。ふたりで食堂に入っていった。
 ま、昨日のディナールームだけど。
 朝ごはんでもディナールームと言うのだろうか?

 すると、すでに食卓についている父が。新聞を読みながら、朝ご飯が並ぶのを待っている。
 あぁ、朝の風景は、なんだか前世とデジャヴですね?
 前世の父は、新聞読みながら味噌汁を飲んで、母に怒られていましたよ。

 でも、公爵家では、父のそばには、執事がついていて。朝食の用意ができたら、父は新聞を執事に預けていた。
 さすがに新聞を読みながら朝食、なんて不行儀、貴族はしないですよね?

 家族がそろい、おもむろに朝食の時間になった。
 しばらくは、みんな、無言で食事をしていたが。
 父が、口火を切った。

「クロウ、昨夜はすまなかったな。しかし、私には。公爵家当主として、この家をより良い方へ導く使命がある。とはいえ、おまえの気持ちを思いやることができず。暴論を解いたのは、父が悪かった。許せよ」

 そんな、下手に出られたら。いつまでも怒っているわけにはいかないではないか?
 ぼくは謝罪を受け入れ、おずおずとうなずく。

「ぼくも、怒って、ドラゴンを出してしまって、すみませんでした。けれど、僕の血脈を残すためだけに、子供を作ろうとは、僕は思えませんし。陛下以外の者に、身を委ねる気もありません。そこは、きっぱりと。お伝えしておきます」
「わかった。クロウ、とりあえず。陛下との婚姻を目指していくことにしよう。だから、それまでは公爵令息として。私の息子として。私の仕事を手伝ってくれ?」
「僕に、大したことはできませんが。力を尽くします。あ、衣装の仕立てならば、お任せください」
「クロウ…もう、衣装は仕立てなくても良いのだよ?」

 父は、なんだか憐みの目で見てくる。
 自分が寝ていた十年の間に、ぼくが仕立て屋となったことを。苦労させたのではないかと思っているみたい。
 クロウだけに。ふふ。

 いいんです。誰もツッコんでくれないって知っているので、心の中で笑っているだけですぅ。

 それはともかく。ドレス作りは、もう、趣味の域なんです。
 前世から、結構楽しんで、ノリノリでやっていたものなので。全然、苦労とかじゃないんですよねぇ?
 むしろ、やらないとなったら、手持ち無沙汰なんですけどぉ?

 あれかな? 王宮に入っても。ぼくは、もう仕立てに携われないのかなぁ? もしかして?
 えぇ? もっと陛下のお衣装作りたいなぁ?
 アイリスやシャーロット殿下を、ビラビラの衣装で飾り付けたいし。
 シオンのエロエロビーストを引き立てる、スタイリッシュなスーツも仕立てたいんです。
 あと、いわゆる、紐長のネクタイも流行らせたいんですよねぇ?

 ぼくもいろいろ、夢が、まだまだあるんですっ。

 もちろん、国政のお手伝いも、できる範囲でやるつもりですけど。
 趣味でもいいので。仕立て屋稼業は取り上げないでいただきたいところでございます。

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