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番外 ディオン 愛で方がわからない ②
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戦争勃発からひと月、戦闘は膠着状態が続いていた。
敵の侵入は、ノベリア領内の国境線近くの平原で押さえられてはいるが。
剣の戦闘での勝ち負けは兵の数に直結する。どれだけ人員を確保できるかにかかっていた。
しかし、我が軍の兵力は日に日に減少していき。
スタインベルンは劣勢に傾きつつあった。
近衛騎士団長を務める、アンドリュー・ツヴァイク伯爵子息は。幼馴染であり、俺の盟友だ。
ともに剣術を鍛え上げ、学園時代も一番長く時を過ごした。
騎士団に入ってからもストイックに己の剣を磨き続ける実直さがあり。俺の背中を預けるに足る、信用できる男だ。
普段、我らは兵団の幹部として、後方にて隊列の指揮などをしているが。
敵側に一騎当千の強力な騎士がいて。
黒い鎧を身につけたその男ひとりの活躍で、隊列が崩されることもしばしばだった。
腕に覚えのあるアンドリューが、黒騎士を仕留めに前線に出ることになり。
俺は安心したのだ。
アンドリューほどの男が出れば、黒騎士などすぐにも捕縛できるだろうと。
しかし、アンドリューがやられたと一報が入り。
幹部の意気は見るからに消沈したのだった。
逆に、スタインベルンのエメラルドの騎士を仕留めた敵方の意気は、盛り上がっていく。
平原で戦線を押しとどめるのが、やっとになってきた。
スタインベルンは、戦線に奴隷兵を投入し始めていて。訓練を受けていない奴隷兵は、数を増やすだけの付け焼刃で統率が取れず。逆に指揮が難しくなってきている。
万事休すかと思われたとき。
作戦指令室にしている平原の丸太小屋に。アンドリューが顔を出したのだ。
左目に眼帯をしているのは痛々しいが。普通に立って歩いている。
「アンドリュー…無事だったのか? やられたと聞いて、俺は…」
俺は席を立ちあがり、彼の両腕に手を添える。
夢なのではないかと思ったくらいだ。眠れないので、長年夢など見たことはないが。
しかしこの鮮やかな緑色の髪、エメラルド色の瞳の色は、生命力に満ちあふれた輝き。
彼はまさしくアンドリューだった。
「はい、私も。一時は死を覚悟しましたが。優秀なお医者様に救われました。あれはまさしく、神の手…」
「神の手…?」
「私は彼の手によって生まれ変わりました。殿下、一日も早く戦争を終結させましょう。あの黒騎士を仕留めて、褒章は私が全部いただきますよっ」
確かに、やる気満々のアンドリューは生まれ変わったように見える。
以前は、褒章などという言葉は口に出さなかった。
そのようなことを言うのは下品で貴族にあるまじきだと、少し澄ました印象もあるお坊ちゃまだったのに。
でも理由がなんでも、元気なのは良いことだ。
もう、今すぐにも前線に向かいそうな彼を押しとどめるのが大変だった。
「待て、アンドリュー。しばらく後方待機してくれ。おまえがいれば、もっと大胆な配置で交戦できる」
そうして、俺も徹夜三日目だったが。
貴重な味方を得たような気になり、張り切って作戦を立て直すのだった。
★★★★★
しかし一週間後。緻密に立てた作戦を薙ぎ払うように黒騎士が出張ってきて。
あいつを仕留めない限りこちらの勝利はないということになった。
総力戦で、俺とアンドリューも出ることになり。黒騎士と相対する。
俺は、それなりに剣の腕に自信があった。スタインベルンでは剣技はトップクラスを自負していたのだ。
しかし黒騎士は圧倒的な力で、俺らを翻弄する。
二度と、アンドリューに傷を負わせるわけにはいかないから。率先して俺が前に出た。
力は向こうが上手でも、こちらは技巧が上手だ。勝機はあると思ったのだ。
しかし。鎧の金属を貫くほどの猛威で、俺は腹を突かれ。後方に吹っ飛ばされる。
腹立たしい。腹が燃えるように痛い。負けられない。
そんな気持ちで、魔力を最大限に高め、大きな炎をやつ目がけて投げつけた。
戦場では詠唱の時間が取れず、なかなか魔法攻撃を繰り出せないものだが。倒れていると見せかけながら詠唱を口にしていたのだ。
俺の魔法で、黒騎士は炎に包まれ燃え上がる。
しかしそれは一瞬のことで。彼が剣をひと振りしたら、たちまち魔法の炎が消え失せてしまった。マジかっ?
俺は剣を再び握りしめ、剣先に風魔法をまとわせて剣戟を繰り出すが。
それも猛牛のような大きな体格でぶん回す大剣に弾き飛ばされ。
どころか、俺の肩の鎧も大剣が剥ぎ取っていった。
肩が、吹っ飛んだ。と思った。
それぐらいの衝撃と痛みと血しぶきだった。
それほどの脅威を受け、俺は再び後ろに倒れ込む。
近くにいたアンドリューやレギが、俺を抱えて戦線を下がっていき。
俺は痛みと悔しさと苦しさで、奥歯を噛みしめるしかなかった。
もう体が動かなかったのだ。
★★★★★
医療テントの処置室に俺は運び込まれた。
盟友のアンドリューや。いつも俺の横に付き従っている、護衛であり侍従でもあるレギファードが。俺について後方に下がってくれたが。
「今の戦闘で、炎を受けた奴も少しは負傷しただろう。黒騎士さえいなければ、戦線を維持できる。今、下がってはならぬ」
そう言って、彼らを戦場に戻そうとした。
「いえ、殿下をひとりにはできませんっ」
「頼む、レギ。俺の代わりに…」
彼の手を握って、頼み込むと。レギの手は血に濡れて。
クッと涙をのんで、レギや他の兵士たちは部屋を出て行った。
戦場で負った腹部の傷が、致命傷だということは。俺もみんなもわかっていた。
なにをしても急変して死に至る。
それは数々の同胞や部下の、傷を負った者の顛末を目にしていればわかることだ。
彼らは俺の死を覚悟し。最後の使命を果たすべく、戦場に戻ってくれたのだった。
とりあえず、俺はなすべきことをして。小さく息を吐く。
それでも、ここで放置され、死ぬのだろうなと覚悟していた。
王族の死に立ち会うと、その医師はもれなく死刑を言い渡される。
なんの落ち度もなくてもな。
だから、俺を診ようなんて医師はいないのだ。
つか、あぁ、ここで死ぬということは。ニジェールたちに殺されるわけではないということだ。
あいつら、俺が死んだら狂喜乱舞するだろうが。
奴らの手で殺せなくて、ザマァって気になる。
あぁ、そうだ。いつか誰かに殺されるのだとしても。あいつらにだけは俺の首はやらねぇ。
それが俺のささやかな矜持だった。
だから、ただうずくまって痛みを抱き込み。そのときが来るのを待ったのだ。
しかし、治癒魔法師を帯同できなかったのは痛かったな。
王宮の治癒魔法師は、ニジェールの母が頭痛がするから手放せないなんて言って。
おまえの頭痛より、戦争の方が大事だっつうのに。
しかしそれを指摘することもできない、ヘタレな父王。
陛下も、威厳も権威もなさ過ぎて、腹立つ。
親など、もうあまり期待していないが。
結局、他の魔法師もなんだかんだニジェールに阻止されて。
あいつ、俺が戦場で死ぬのをワクワクして待っているんだろうな?
それは業腹だな、クッソ。
そんなことを思っているところに、なにやらのんきな青年の声がかけられた。
「ディオンさん、痛みは腹部だけですか? 他に訴えたい症状はありますか?」
俺が顔を上げると、白い布で頭と口元を隠した人がいて。目だけが見えている状態。
あぁ、顔を見られたくないのかもしれないな。あとで特定されたら面倒だとか?
とにかく、こんな医者を見るのははじめてだった。
「ディオンさんだと? 王子の私に敬称をつけぬとはっ、なんと不敬なやつだっ」
ニジェールのことや治癒魔法師、黒騎士とか、いろいろな憤りを、俺はその医者にぶつけた。
つか、ディオンさんなんて、生まれて初めて言われたぞ?
俺が王子なのはわかっているはずだが…わざとか?
てか、痛てぇんだから、余計なこと考えさせんなっ。
「患者のみなさまのことはすべて、さん付けで呼んでいます」
そして、彼はニッコリした。
はぁ? 俺を見るやつはみんな、ちょっと睨めば怯んでいくのに。
目しか見えていないけど、その目が細められて、黒い瞳が優しい色を帯びている。
なんなんだ、この医者。調子が狂う。
すると首のところにチョーカー? いや、奴隷の首輪があるのをみつけた。
奴隷紋の独特の波動も感じる。
俺は王族なので、魔法もいろいろな属性を使える。魔力も多めなので、奴隷紋の波長を感じ取ることができた。
ま、この首輪をしていたら。見るからに奴隷だけどな。
しかし、だとしたら。俺に媚びを売れば良い働き口に行けるとでも思ったのか?
そうでもなきゃ。俺に笑いかけるなんて、誰もするわけない。
だが、残念だったな?
「さっそく治療させてもらいます」
「治療? 無駄だ。この怪我では、どうせ死ぬ。俺はここで、死ぬ運命なんだろうよ。王族の死に立ち会えば、奴隷のおまえなど、即死刑だ。俺のことは放っておけ」
俺に関わっても、恩恵などないんだ。
むしろ死刑しかないんだから、甘い夢など見ていないで、とっととどこかへ行け。
死ぬしかないのに、おまえを巻き込んだら後味悪いだろうがっ。
そう思って、彼の目を見ると。
微笑んでいた目元が、ちょっとつり上がっていた。
「どうせ死ぬ? 死ぬ運命? それを決めるのは俺だ」
その奴隷は、まるで自分が神だとでもいうように、そう断言するのだ。
「そしてディオンさんは死なない。そう、俺が決めたから」
言って、またニッコリした。
俺が睨みを利かせても、怯まないやつなんて。はじめて見た。
動揺して、口から出るのはケチな悪態ばかりになった。クッソ。
「ディオンさん、これから眠くなりますから、気を楽にして…」
「ぅ、眠くなる薬など、俺には効かない」
薬が効くなら、不眠症になどなっていないのだ。警戒心が薬でも解けないってこと。
なにをするつもりか知らないが、痛みでより冴えた状態になっている。
意識のある中で傷口を縫われる覚悟を、俺はした。
「そうですか? じゃあ、声に出して数えてください、一、二…」
医者に合わせて数を数える。
いつまでも薬が効かないと慌てる、こいつの顔を拝んでやろう……。
敵の侵入は、ノベリア領内の国境線近くの平原で押さえられてはいるが。
剣の戦闘での勝ち負けは兵の数に直結する。どれだけ人員を確保できるかにかかっていた。
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近衛騎士団長を務める、アンドリュー・ツヴァイク伯爵子息は。幼馴染であり、俺の盟友だ。
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騎士団に入ってからもストイックに己の剣を磨き続ける実直さがあり。俺の背中を預けるに足る、信用できる男だ。
普段、我らは兵団の幹部として、後方にて隊列の指揮などをしているが。
敵側に一騎当千の強力な騎士がいて。
黒い鎧を身につけたその男ひとりの活躍で、隊列が崩されることもしばしばだった。
腕に覚えのあるアンドリューが、黒騎士を仕留めに前線に出ることになり。
俺は安心したのだ。
アンドリューほどの男が出れば、黒騎士などすぐにも捕縛できるだろうと。
しかし、アンドリューがやられたと一報が入り。
幹部の意気は見るからに消沈したのだった。
逆に、スタインベルンのエメラルドの騎士を仕留めた敵方の意気は、盛り上がっていく。
平原で戦線を押しとどめるのが、やっとになってきた。
スタインベルンは、戦線に奴隷兵を投入し始めていて。訓練を受けていない奴隷兵は、数を増やすだけの付け焼刃で統率が取れず。逆に指揮が難しくなってきている。
万事休すかと思われたとき。
作戦指令室にしている平原の丸太小屋に。アンドリューが顔を出したのだ。
左目に眼帯をしているのは痛々しいが。普通に立って歩いている。
「アンドリュー…無事だったのか? やられたと聞いて、俺は…」
俺は席を立ちあがり、彼の両腕に手を添える。
夢なのではないかと思ったくらいだ。眠れないので、長年夢など見たことはないが。
しかしこの鮮やかな緑色の髪、エメラルド色の瞳の色は、生命力に満ちあふれた輝き。
彼はまさしくアンドリューだった。
「はい、私も。一時は死を覚悟しましたが。優秀なお医者様に救われました。あれはまさしく、神の手…」
「神の手…?」
「私は彼の手によって生まれ変わりました。殿下、一日も早く戦争を終結させましょう。あの黒騎士を仕留めて、褒章は私が全部いただきますよっ」
確かに、やる気満々のアンドリューは生まれ変わったように見える。
以前は、褒章などという言葉は口に出さなかった。
そのようなことを言うのは下品で貴族にあるまじきだと、少し澄ました印象もあるお坊ちゃまだったのに。
でも理由がなんでも、元気なのは良いことだ。
もう、今すぐにも前線に向かいそうな彼を押しとどめるのが大変だった。
「待て、アンドリュー。しばらく後方待機してくれ。おまえがいれば、もっと大胆な配置で交戦できる」
そうして、俺も徹夜三日目だったが。
貴重な味方を得たような気になり、張り切って作戦を立て直すのだった。
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しかし一週間後。緻密に立てた作戦を薙ぎ払うように黒騎士が出張ってきて。
あいつを仕留めない限りこちらの勝利はないということになった。
総力戦で、俺とアンドリューも出ることになり。黒騎士と相対する。
俺は、それなりに剣の腕に自信があった。スタインベルンでは剣技はトップクラスを自負していたのだ。
しかし黒騎士は圧倒的な力で、俺らを翻弄する。
二度と、アンドリューに傷を負わせるわけにはいかないから。率先して俺が前に出た。
力は向こうが上手でも、こちらは技巧が上手だ。勝機はあると思ったのだ。
しかし。鎧の金属を貫くほどの猛威で、俺は腹を突かれ。後方に吹っ飛ばされる。
腹立たしい。腹が燃えるように痛い。負けられない。
そんな気持ちで、魔力を最大限に高め、大きな炎をやつ目がけて投げつけた。
戦場では詠唱の時間が取れず、なかなか魔法攻撃を繰り出せないものだが。倒れていると見せかけながら詠唱を口にしていたのだ。
俺の魔法で、黒騎士は炎に包まれ燃え上がる。
しかしそれは一瞬のことで。彼が剣をひと振りしたら、たちまち魔法の炎が消え失せてしまった。マジかっ?
俺は剣を再び握りしめ、剣先に風魔法をまとわせて剣戟を繰り出すが。
それも猛牛のような大きな体格でぶん回す大剣に弾き飛ばされ。
どころか、俺の肩の鎧も大剣が剥ぎ取っていった。
肩が、吹っ飛んだ。と思った。
それぐらいの衝撃と痛みと血しぶきだった。
それほどの脅威を受け、俺は再び後ろに倒れ込む。
近くにいたアンドリューやレギが、俺を抱えて戦線を下がっていき。
俺は痛みと悔しさと苦しさで、奥歯を噛みしめるしかなかった。
もう体が動かなかったのだ。
★★★★★
医療テントの処置室に俺は運び込まれた。
盟友のアンドリューや。いつも俺の横に付き従っている、護衛であり侍従でもあるレギファードが。俺について後方に下がってくれたが。
「今の戦闘で、炎を受けた奴も少しは負傷しただろう。黒騎士さえいなければ、戦線を維持できる。今、下がってはならぬ」
そう言って、彼らを戦場に戻そうとした。
「いえ、殿下をひとりにはできませんっ」
「頼む、レギ。俺の代わりに…」
彼の手を握って、頼み込むと。レギの手は血に濡れて。
クッと涙をのんで、レギや他の兵士たちは部屋を出て行った。
戦場で負った腹部の傷が、致命傷だということは。俺もみんなもわかっていた。
なにをしても急変して死に至る。
それは数々の同胞や部下の、傷を負った者の顛末を目にしていればわかることだ。
彼らは俺の死を覚悟し。最後の使命を果たすべく、戦場に戻ってくれたのだった。
とりあえず、俺はなすべきことをして。小さく息を吐く。
それでも、ここで放置され、死ぬのだろうなと覚悟していた。
王族の死に立ち会うと、その医師はもれなく死刑を言い渡される。
なんの落ち度もなくてもな。
だから、俺を診ようなんて医師はいないのだ。
つか、あぁ、ここで死ぬということは。ニジェールたちに殺されるわけではないということだ。
あいつら、俺が死んだら狂喜乱舞するだろうが。
奴らの手で殺せなくて、ザマァって気になる。
あぁ、そうだ。いつか誰かに殺されるのだとしても。あいつらにだけは俺の首はやらねぇ。
それが俺のささやかな矜持だった。
だから、ただうずくまって痛みを抱き込み。そのときが来るのを待ったのだ。
しかし、治癒魔法師を帯同できなかったのは痛かったな。
王宮の治癒魔法師は、ニジェールの母が頭痛がするから手放せないなんて言って。
おまえの頭痛より、戦争の方が大事だっつうのに。
しかしそれを指摘することもできない、ヘタレな父王。
陛下も、威厳も権威もなさ過ぎて、腹立つ。
親など、もうあまり期待していないが。
結局、他の魔法師もなんだかんだニジェールに阻止されて。
あいつ、俺が戦場で死ぬのをワクワクして待っているんだろうな?
それは業腹だな、クッソ。
そんなことを思っているところに、なにやらのんきな青年の声がかけられた。
「ディオンさん、痛みは腹部だけですか? 他に訴えたい症状はありますか?」
俺が顔を上げると、白い布で頭と口元を隠した人がいて。目だけが見えている状態。
あぁ、顔を見られたくないのかもしれないな。あとで特定されたら面倒だとか?
とにかく、こんな医者を見るのははじめてだった。
「ディオンさんだと? 王子の私に敬称をつけぬとはっ、なんと不敬なやつだっ」
ニジェールのことや治癒魔法師、黒騎士とか、いろいろな憤りを、俺はその医者にぶつけた。
つか、ディオンさんなんて、生まれて初めて言われたぞ?
俺が王子なのはわかっているはずだが…わざとか?
てか、痛てぇんだから、余計なこと考えさせんなっ。
「患者のみなさまのことはすべて、さん付けで呼んでいます」
そして、彼はニッコリした。
はぁ? 俺を見るやつはみんな、ちょっと睨めば怯んでいくのに。
目しか見えていないけど、その目が細められて、黒い瞳が優しい色を帯びている。
なんなんだ、この医者。調子が狂う。
すると首のところにチョーカー? いや、奴隷の首輪があるのをみつけた。
奴隷紋の独特の波動も感じる。
俺は王族なので、魔法もいろいろな属性を使える。魔力も多めなので、奴隷紋の波長を感じ取ることができた。
ま、この首輪をしていたら。見るからに奴隷だけどな。
しかし、だとしたら。俺に媚びを売れば良い働き口に行けるとでも思ったのか?
そうでもなきゃ。俺に笑いかけるなんて、誰もするわけない。
だが、残念だったな?
「さっそく治療させてもらいます」
「治療? 無駄だ。この怪我では、どうせ死ぬ。俺はここで、死ぬ運命なんだろうよ。王族の死に立ち会えば、奴隷のおまえなど、即死刑だ。俺のことは放っておけ」
俺に関わっても、恩恵などないんだ。
むしろ死刑しかないんだから、甘い夢など見ていないで、とっととどこかへ行け。
死ぬしかないのに、おまえを巻き込んだら後味悪いだろうがっ。
そう思って、彼の目を見ると。
微笑んでいた目元が、ちょっとつり上がっていた。
「どうせ死ぬ? 死ぬ運命? それを決めるのは俺だ」
その奴隷は、まるで自分が神だとでもいうように、そう断言するのだ。
「そしてディオンさんは死なない。そう、俺が決めたから」
言って、またニッコリした。
俺が睨みを利かせても、怯まないやつなんて。はじめて見た。
動揺して、口から出るのはケチな悪態ばかりになった。クッソ。
「ディオンさん、これから眠くなりますから、気を楽にして…」
「ぅ、眠くなる薬など、俺には効かない」
薬が効くなら、不眠症になどなっていないのだ。警戒心が薬でも解けないってこと。
なにをするつもりか知らないが、痛みでより冴えた状態になっている。
意識のある中で傷口を縫われる覚悟を、俺はした。
「そうですか? じゃあ、声に出して数えてください、一、二…」
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いつまでも薬が効かないと慌てる、こいつの顔を拝んでやろう……。
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