はじまりのえんぴつ~鉛筆を拾ったら話したかったあの子に話しかけられました~

歩くの遅いひと(のきぎ)

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どうやら素直じゃない私はバレないように甘えてみようと思います

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 ある日、ふと冷静になってみた。
 両想いになったとはいえ大っぴらに言うわけにもいかないだろう、と。

 私たちもまだ高校生。噂も回りやすいし何よりこの集団生活でばれたりしたら厄介にも程がある。私が恋をしていると言うだけで
「あのまやちゃんに春が来た!」と沸き立ったクラスメイトを思い出して
 私、衣玖(いく)まや は静かにため息をついた。

「てわけで、学校ではベタベタしないでね」
「いやそれ無理じゃん!」

「なんで。私のこと3日避けたりしてたでしょ」
「うっ、それは許してってばぁ」

 甘風(あまかぜ)ふうみ。私のことがすごく好きらしく、話す限りでは若干ストーカーのような気も感じられるけど、一応恋人ではある。

「一応ってなに?!衣玖ちゃんあんなに甘えてきてくれたじゃない!」
「う、うるさい!とにかくダメなの!」

「うぅ、だって衣玖ちゃんうちと反対方向だし電車通学だし……話せる場面ないじゃん」
「別に話しちゃダメとは言ってないでしょ。ベタベタしないってだけじゃない」

 私的にはなにが無理なのかわからない。日常会話くらいは私だってしたいなと思っているのに。

「衣玖ちゃん可愛すぎるから話したらくっつきたくなるもん」
「子どもなの?」
「違うよ! 愛ゆえにだよ!」

 さっきから声がうるさい。なにをそんなにはしゃいでるの。あ、またため息が出た。

「幸せ逃げちゃうよ?」
「……そうだね」

 ーあなたがいてくれるなら私の幸せはそこにある、なんて。
 思わず口に出そうになったのを止められてよかった。なにこれ、恥ずかしすぎるでしょ。

「衣玖ちゃんなんか言ってくれようとしてなかった?」
「別に」

「さっきの顔は何か伝えたいことあるけど恥ずかしいからやめとこーって顔だったよ?」
「甘風さんの私分析怖すぎるからやめてくれない?!」

 そうだった。忘れてたけどこの人、数日前まで私のことを陰から見てる前科があるんだった。いつも感じていた謎の視線の正体は間違いなく目の前にいるこの人のもので。

「なんで好きになったんだろ」

 純粋な疑問が口から漏れた。
 しまったと思った時はもう遅くて。

「へへ、私も好きだよ」
「あっそ。デレデレしないでよもう」

「いやぁ、だって衣玖ちゃんが好きだから」

 あぁ、うるさい。
「衣玖ちゃん、今日も可愛いね」

 あと、近い。
「逃げないでよ、衣玖ちゃん」

「に、逃げてない」
「えー?」

 うるさい、うるさい。もう静かにしてよ。ドキドキなり続ける心臓の音、バレていませんように。

「……じゃあさ、朝はどう?」
「朝?」

「衣玖ちゃん確か始発組でしょ?混んでるの嫌いだからって」
「分かってないなぁ、あの時間を持て余すような余裕がたまんないんだよ」

「じゃあ始発が混んでたらどうするの?」
「一本遅らす」

「ね?」

 なにが、ね?だ。勝ち誇ったような顔しないでよ。

「でも甘風さんはいいの?朝早いよ?」
「衣玖ちゃんに会えると思えば余裕だよ」
「またそういうこと言う……」

 嬉しそうな顔しちゃってさ。恥ずかしいんだけど。

「ね、衣玖ちゃん。抱きしめてもいい?」
「な、なにいきなり」

「だって可愛いから」
「あぁもう好きにしていいから!」

「やったー♪」

 嬉しそうな笑顔で抱き寄せられる。
 甘い香りに温かい体温。優しい力加減が心地いい。

「……ん」

 バレないように。そっと腕を回す。
 私のなにがそんなに可愛いのかわからない。こんなに可愛くないことばっかり言ってるんだよ?どこに惹かれるって言うんだろう。……変なの。

「……好き」
「っ……」

 初めてなんだ。こんなに誰かに好かれたのも、誰かを好きになったのも。ポカポカして悪くない、不思議な気分。
 まだまだ素直になれない私だけど、どうか。

「もっと強く」
「え、は、はい……」

 どうか、離さないでいてほしい。
 わがままでごめんね。好きだよ。



 いつかその言葉を、あなたと向き合って言える日が来ますように。
 そんなことを願いながら、温かい体温に寄り添って。私はそっと目を閉じた。



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