正しい食事の求め方〜自然なものがほしいので今日もあなたには泣いていただきます〜

歩くの遅いひと(のきぎ)

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6.涙の数だけ

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涙の数だけ強くなれるとは言うけれど、物音に怯えて涙を流すことは違うんだろうな、なんて考えたりした。

「うっ、怖かったぁ‥‥」
「みずき、ハトが飛び立っただけでしょう?」
「ハヅキさん気付いてないんですか?!20匹くらいが一斉に飛び立ったんですよ!?怖いじゃないですか!」
「なんでこんな都会の一角にハトが20匹もたまるところがあるのか気になるところだけど‥‥とりあえずあれぐらいの音で涙は出ないわ」
「耳いいのになんでですか!」

‥‥相変わらず泣き出すとテンション高いわねこの子‥‥泣いてほしいとは頼んだがこうも頻繁にしかもテンションを上げて泣かれると、舐めにくい。
もちろん貴重な食事になるわけだし無駄にするには惜しいのだけど、あるじゃないか、なんていうか‥‥ムードというものが。

「あぁもうやだ‥‥きっと私のお弁当はハトたちに取られちゃう運命にあるんだ‥‥」
「学生バックを開けられるハトがいるなら見てみたいわよ」

このネガティブ発言にも気が滅入る。この子のマイナス方面での豊かすぎる発想力にはいろいろな気が削がれてしまう。
どこをどう考えたらそんな発想に至るのか教えてほしい。むしろ才能じゃないだろうか。

「はぁ‥‥」

3回。
朝の登校だけでもう、橋浜みずきは3回涙を流している。私に驚き、転んで、物音に驚いて。正直頭痛はしないのかと心配にさえなってくる。

「私も生きていくためだし‥‥ムードとか言ってられないか」
「なにか言いましたか?」
「みずき、もっとこっちに寄ってきてくれる?」
「?」
「そう、いい子ね」

基本警戒心の強いこの子も、少し鈍いところがあるらしい。そこはなんとも、都合がいい。
油断しきったその手を掴んで引き寄せる。

「ちょ、離してください!」
「別に逃げても拒否してもいいわ。でも、捕まったなら観念してほしいわね」
「あ、‥‥ぅ、」

暴れだした身体をグイッと抱き寄せて、渇きかけた涙をひとつ舐め取る。

「ごちそうさま♪」
「うぅ、冷たい‥‥」
「私の舌の話?温かくもできるけど」
「なんか生々しくなりそうだから遠慮します‥‥」

生々しいとは。
高校生でその表現はちょっと気になるけど、とりあえずのところ今日も生きていけそうだ。

「みずき、今日もありがとう」
「‥‥どーいたしまして」



この瞬間、ちょっとだけ強がるみずきを
私は可愛いなんて思ったりした。

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