22 / 44
答え合わせ7
しおりを挟むほろ酔い気分で、店を出る。
来た時は、店を探す方に注力していて、周りが見えていなかった。
クリスマス前で、イルミネーションに彩られた夜景が広がった。世界が一転。煌めいて見える。
「やっぱり、来てよかったね。すっごく美味しかった」
「本当だな。予想の遥か上を行ったな」
陽斗の少し前で、子供のように飛び跳ねる。勝手に、どこかへ飛んで行ってしまいそうな気分になってくる。これは、重症だなと自覚しながら、持っていた鞄の柄をぐっと握った。
「彩芽」
「うん?」
くるりと振り返ったその顔が、一層眩しい。それに引き換え、鞄の中で今か今かと待ち構えているものは、色褪せてしまっている。怯んで、動作が止まりそうになるが、あの日の若さよ思い出せと、思い切って鞄の中から取り出した。彩芽は、手の中のものに丸い瞳を何度も瞬かせる。
「八年前。渡したくても渡せなかったプレゼント。高校当時の俺が選んだやつで、たいしたことないけどさ。何ていうか……とりあえず、これまでもなんとなく一緒にいたわけだけど、この先は『なんとなく』じゃなくて、ちゃんと隣にいたいと思う。ずっと止まっていた時間を、ここからまた動かしたい。だから、今更だけど、貰ってくれないかな?」
陽斗のこんな色褪せてしまった包装紙を見て、百年の夢も覚めると思われるところかもしれないという危惧を、彩芽は今日一番の笑顔であっさりと取り払ってしまう。
「もちろん」
彩芽は笑顔で、受け取る。繊細なガラス細工を壊してしまわないような手つきで、陽斗の手から自分の手のひらへ移す。
細い指先で、かけられたリボンを解いて、変色してしまったセロハンテープと包装紙を外していく。少し歪んでいる外箱の蓋を開けると、八年前からタイムスリップしてきたかのように、当時のままの真っ白な小箱が姿を現した。
中身は無事だったと、陽斗が安堵していると、彩芽は外箱から小箱をゆっくりと取り出して開けていく。そして、飛び出したのは、彩芽の声ではなく、陽斗の絶望の声だった。
「何で」
想像していた数分後のほわっと輝く未来は、粉々に崩れ去る。出てきた中身は、ペンダントは真っ黒だった。しかもペンダントトップの星の真ん中にあしらわれた水色の石は、何とか頑張って輝こうとしているようだが、そんな努力など水の泡だ。ともかく、黒い。
陽斗は、そのあと続く言葉が出ず、ただ、魚のように口をパクパクさせる。よくよく考えれば、当然だ。シルバーは酸化するに決まっている。それに比べて、彩芽は何の驚きも浮かんでおらず、陽斗の反応に呆れたようにいう。
「そりゃあ、八年も放置してればそうなるでしょうね。陽斗って、ここぞって時にツメが甘いよね。大体、予想つくでしょ」
彩芽は、平然といてのけて、陽斗の反応はどうでもいいというように、再び手の中にあるネックレスへ視線を移して目を細めていった。
「八年間の思いが詰まってる。ちゃんと、大事にするよ。ありがとう」
彩芽は、胸に刻むようにそっと蓋を閉じて、大事そうに両手で包み込む。そして、蓋を閉じた方の手をおずおずと伸ばし、きゅっと陽斗の服を掴んでいた。俯いた表情はわからない。陽斗は、そのまま彩芽を腕の中に閉じ込める。一瞬、硬直する華奢な身体は、少しずつ力が抜けて、陽斗の背に彩芽の手が回っていく。優しいぬくもりが心のずっと奥に、穏やかに染みわたっていった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
王命により、婚約破棄されました。
緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。
姉の婚約者に愛人になれと言われたので、母に助けてと相談したら衝撃を受ける。
佐藤 美奈
恋愛
男爵令嬢のイリスは貧乏な家庭。学園に通いながら働いて学費を稼ぐ決意をするほど。
そんな時に姉のミシェルと婚約している伯爵令息のキースが来訪する。
キースは母に頼まれて学費の資金を援助すると申し出てくれました。
でもそれには条件があると言いイリスに愛人になれと迫るのです。
最近母の様子もおかしい?父以外の男性の影を匂わせる。何かと理由をつけて出かける母。
誰かと会う約束があったかもしれない……しかし現実は残酷で母がある男性から溺愛されている事実を知る。
「お母様!そんな最低な男に騙されないで!正気に戻ってください!」娘の悲痛な叫びも母の耳に入らない。
男性に恋をして心を奪われ、穏やかでいつも優しい性格の母が変わってしまった。
今まで大切に積み上げてきた家族の絆が崩れる。母は可愛い二人の娘から嫌われてでも父と離婚して彼と結婚すると言う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる