この度、結婚していました

雨宮 瑞樹

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それぞれの答え5

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「俺はそういう彩芽もひっくるめて、好きになったんだ。だから、気にせずそのままでいてほしいと思ってるけど、関口とかいうムカつく奴が出てくるから、つい鈍感だって言いたくなるんだよ」
 俺はどれだけ、心が狭いんだ。やっと彩芽に近付けたと思ったら、こんなに不甲斐ない人間に落ち始めている。
 彩芽が落ちいていた自己嫌悪と一緒に、情けない感情がプラスされて、羞恥心さえも駆け上ってくる。 話せば話すほど、今の俺は、どんどんみっともなくなる。早く終了させたい。いまの一連の会話は、全部胃で消化されればいい。水をがぶ飲みしてれば、彩芽が軽い冗談でも言って、流してくれると期待する。だが、そんな都合のいい方向になんて、流れてくれるはずもなく沈黙が続いた。がぶ飲みした水が、逆に胃が重くなって後悔しそうになる。陽斗は、足早に近付いて、彩芽から毛布をひったくって、勢いよくソファに身を投げた。
 
「少なくとも俺は、そのままの彩芽がいいって言ってるんだから、それでいいだろ?」
 陽斗は、無様な現実を直視したくなくて目を閉じようとしたところで、彩芽の声が滑り込んできた。
「……陽斗、ありがとう」
 はっとして、閉じかけた瞼を開けた、先に彩芽の柔らかい笑顔とぶつかる。
 無様な自分を晒すことになっても、いつもの彩芽の笑顔が見られたのなら、その甲斐はあったのかもしれない。そう思うことにする。そう決めたら、ざわざわしていた心が凪いでいくようだった。自然と口角が上がっていく。
「余計なこと考えず、早く寝ろよ」
 彩芽は、今度こそしっかりと頷いてくれたが、 やっぱり、俺は格好悪い。
 だが、何とか穏やかに眠れそうだ。瞼をゆっくりと下げていく。その最中。
 
「……一緒に……寝る?」
「え……」
 閉じようとしていた目蓋が見開かれ、まともに丸い瞳とかち合った。ぶつかった視線から、初めて彩芽は自分が言っている意味に気付いただろう。彩芽は、真っ赤になって、慌てて今言った意味を弁解し始める。

「ご、ご、誤解してほしくないんだけど……変な意味ではなくて……純粋にソファなんかじゃ、ちゃんと眠れないだろうと思って……それで」
 せっかくそう言ってくれているのに、断ることもできない。
「わかってるよ」
 さっきの情けない男という汚名返上のために、目一杯紳士的な笑顔を作って、立ち上がり、彩芽の頭を撫でる。
「じゃあ、早く寝ようぜ。目の下のクマがすごいぞ」
 彩芽は、先ほどのうす暗さの名残の欠片さえも残さず、柔和な笑顔を向けてくる。
 そっと吹き消されていた蝋燭に灯をともしてくるように、ふわりと胸の奥が温かくなっていく。
 
 
 その数分後。
 無防備に身を寄せてくる彩芽は、あっという間に、規則正しい寝息を立てていた。一方の陽斗は、多幸感を味わう代償として、安眠を差し出す。天国と地獄の境目を綱渡りしながら、自分の胸に華奢な身体を引き込んだ。
 さて、指輪はどうしようか。
 そんなことを考え始めたところで、彩芽の深い眠りが伝染していた。陽斗もまた穏やかな眠りについていた。

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