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10.前途多難

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 実戦考査の初日となり、生徒たちは講堂に集められた。
 実戦考査は三日にかけて行なわれるらしい。ペアになった生徒たちをさらに三組に分け、その三組が三日間に振り分けられるのだ。
 ソラは最終日の考査に決まった。
 結局自らペアを選ばなかったソラは、学園が決めた相手とペアになった。
 皆がソラのペア相手を注目する中で、成績トップのソラにはバランスを考えて成績下位の者が選ばれるだろう、と誰もが予想していた。
 しかし学園は、実力が違いすぎると能力の高い者に依存して下の生徒の実力が測れないと考えた。
 なので、学園でトップのソラにも実力の近い者をランダムで当てがおうとした。
 しかし成績優秀者はほぼ自ら選んだ相手をペアにしている。
 よって、ペアを選んでいない上位の生徒が組むとなると──

「──……結局ペアになったなプラド」

「……そのようだな」

 ソラとプラドがペアになったのだ。
 複雑な心境の二人の間に気まずい空気が流れる。
 ペアを通知されたのは五日前だが、顔を合わせるのは今日が初めてなのだ。

「よろしく頼む……」

 兎にも角にもなってしまったものはしょうがない。
 ソラは共に頑張ろうとの思いを込めて握手を求めたが、プラドは手を取ろうとしなかった。
 腕を組んだままそっぽを向き、分かりやすく不機嫌を顔に出す。ソラにすら分かるほどだ。

「お前は不満だろうがな」

 そう子供のように拗ねるプラドにソラは差し出していた腕をおろしたが、その後どうしていいか迷う。
 プラドが拗ねているのは断られたにも関わらずペアになってしまって面白くないからだろう。
 それぐらいはさすがにソラでも分かるのだが、じゃあどうやって対応すれば良いかはとんと分からない。
 さて困ったと悩むソラを置いて、プラドは課題をもらいに列に並んでしまう。一緒に並ぶ必要はないので、ソラは席について待つ事にした。
 考査が終えるまで考査中の生徒とは接触禁止となっている。
 情報が漏れれば後日に考査をする生徒が有利になるからだ。
 なので二日目、三日目に考査予定の生徒は講堂に集められ与えられた課題をする事になっている。
 もちろんこれもペアで行なうのだが、今のプラドと協力しあえるだろうかと、ソラにやや不安が膨らんだ。

「……ほら」

「ありがとう」

 戻ってきたプラドが無造作にソラの前に課題を置く。そして隣にドカリと座り、机に肘をついてやっぱりそっぽを向いた。
 そしてソラも、やっぱり対応が分からない。答えの無い課題を突きつけられた気分だ。
 しかし目の前に置かれた課題には答えがある。
 いま自分がやるべき事は課題である、とソラはとりあえずプラドに関してはおいておく事にした。現実逃避とも言う。
 二人に出された課題は薬草学だ。
 二人で出来る限り多くの薬草名をあげ、その薬草から作れる薬を書き出すものである。もちろん分量と配合方法も書かなくてはならない。

「ふむ……」

 さてこれは困ったとソラは解答紙を眺めた。薬草名を記入する枠が五十しかなかったのだ。
 パッと思いつくだけでも百ほどあるのに、これでは半分しか書けないではないか。
 つまり価値の高い薬草を厳選して書き出せということか。いや、書き出した薬草から作れる薬も答えなくてはならないから、薬に重要性を置いて薬草を選ぶべきか。
 本来、解答欄の半分も埋められれば合格なのだが、優秀すぎたソラにその意図は伝わらない。
 時間は有限で、どうしたものかと頭を悩ます。
 そこで、ソラはやっと隣の存在を思い出した。
 これはペアで取り組む課題ではないか。だったらプラドに助けを求めてみるのはどうだろうか。
 そこまでソラは考えたが、どうにも隣でいまだ無言の男に声をかけづらい。
 きっと今もムスッとしているのだろう、と目線だけプラドにむけると、

「……?」

 思ったよりムスッとしていなかった。
 ムスッとはしていないのだが、やはりソラは困った事になった。なぜなら、プラドはどこか呆けたような目でじっと自分を見ているからだ。
 目があったのに、ぼーっと見つめてくるプラド。もう怒っては無さそうだが、これはこれで対応が分からない。

「あの……」

 声をかけても良いのだろうかと迷いながらも、プラドを覗き込みながら呼びかけようとする。
 その時、プラドの半開きだった口が動いた。

「お前……」

「……?」

「……綺麗な目だな」

「………………そうか」

 それ以外、いったい何と返せば良いのか。
 様子がおかしいプラドに様子がおかしい事を言われて、ソラのコミュニケーション能力はパンク寸前である。
 完全にお手上げ状態のソラに、プラドの手が伸ばされた。
 ゆっくり、じれったくなるほどゆっくりと大きな手がソラに伸ばされる。
 ソラはその手を視線で追うだけで、動こうとはしない。
 そしてプラドの指先が水色の髪にあと少しで触れるという時だった。

「──……~~~~っ!?」

 ガタンッ──と大きな音が響く。
 プラドの目が見開かれたかと思ったら、突然勢いよく立ち上がったのだ。
 その際に固定された椅子を勢いよく蹴ってしまい、響いた音は周りの視線を集める。
 シン……と静まり返った中心で立ち尽くすプラド。周りの生徒は何事かと驚いていたが、当の本人はもっと驚いた顔でソラを見下ろしていた。

「プラド?」

 そしてソラが声をかけると、プラドの顔はみるみる赤くなる。
 ソラを見ていた視線は泳ぎ、

「て……手洗いにいってくるっ!」

 と、言い残して大股で講堂を出て行ってしまった。
 プラドの奇行にしばらく周りは唖然としていたが、少しの間囁やきが広まった後、皆は次第に課題へと意識を戻していった。
 いつもの空気に戻った所で、ソラは考える。
 プラドがおかしい。
 てっきり自分に怒ってギクシャクしているのかと思ったが、どうやらそれだけでは無いようだ。
 プラドがおかしい理由、それは──

「──……魔術」

 そう、プラドは何かしらの魔術にかかっているに違いない。
 きっと知らぬ間に魔術にかかってしまい、本人も気づいていないのだろう。
 なるほど、ならば話は早い。自分の得意分野だ。
 そこまで考えたソラは、課題をそっちのけで彼にかかったと思われる魔術を片っ端から紙に書き出し始めた。
 ソラにとってはとても楽しい作業だった。
 二人の共同作業は前途多難である。

 
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