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目の前に落ちた一つのアイテム。
『えっ、これって……』
村にいた頃。
子供たちの間である図鑑がとても人気だった。
表題は、「凡庸な武器/伝説の武器」。
実際にダンジョンで入手された武器や装備品が、レアリティごとに分類され、精密なイラストと詳細な解説文つきで網羅されている図鑑だ。
装丁などからして、一応、子供向けのようではあったが、紹介されている武器・装備品の多さ、解説の細かさなどは、明らかに大人でも楽しめるほど充実していた。
実際、僕の誕生日にそれをくれたのはタスラ兄さんだったが、兄さんの方が熟読しているのではないかと思うほど、その内容をよく知っていた。
「俺もお前くらいの時にもらったんだ。今でも読んでるよ」
そう言って兄さんは、自分の本棚から全く同じタイトルの図鑑(しかし幾つか古い版のため表紙が異なっていた)を僕に見せてくれた。所々外れかかっているページがあり、それなりの厚さがある図鑑だったにも関わらずくたくたになっていた。
兄さんが武器や装備品についてよく知っている理由が、その時にわかった。この図鑑の愛読者だったのだ。
「兄さん、ありがとう!」
図鑑を受け取ると、僕も兄さんに負けじとそれを読み込んだ。
イラストだけではなく、武器のステータスが書かれた解説文にも、もちろん目を通す。気に入ったものは一言一句暗記してしまうほど、僕はその内容を繰り返し読んだ。
そして想像した。
冒険者となった自分が、この剣を、あの槍を振り回しているところ。
凶悪な魔物が飛び込んできたら、この盾に備わった能力で、あるいはこの手袋で付加される力を利用して……
兄さんが持っている古い版と同じくらいぼろぼろになるまで、どこへ行くにしてもそれを持ち歩き、読み耽っていた。
まさかその経験が、こんな時に役立つとは。
僕は目の前に現れたアイテムの、名称からレアリティ、特徴まで、図鑑に書いてあったことをすぐに思い出した。
派手さはなく、渋い、無骨な外観。厚みのあるブレード、余裕のある握り。
「ターナスの剣だ……」
冒険者ターナスが初めて入手したとされる剣。
文句なしにランクSの、ハイレアリティアイテムだ。
目の前に落ちた希少な剣を見て、僕は改めて、自分が持つスキルの力を実感した。
『レアドロッパー、か……』
そもそも僕は、これまで自分のスキルで出現したアイテムを目にしたことがほとんどなかった。
死んでから蘇生するまで、数十秒なのか数分なのかはわからないが、タイムラグがある。
そしてその間に、学者ザンが必ずアイテムを回収しているからだ。
おそらく、今僕が入れられている方ではない、もう一つの頭陀袋にアイテムはおさめているのだろう。
だから、どの程度のアイテムが出てくるのか全く分からなかった。
そんな状態で、出てきたのがこの剣だ。
心臓のバクバクが止まらない。
「重ッ!」
見た目の重厚感もさることながら、手から伝わる重さはさらにそれを超えてくる。
「……ははっ」
思わず笑いが込み上げてきた。
おもちゃを初めて買ってもらった子供の気分だ。
剣を構え、何度か振ってみる。
頭の中で、これまでに遭遇した魔物をイメージする。
そして先頭をきって立ち向かう、戦士ゴダスの背中を自分に重ね合わせる。
「うん……なかなか悪くないんじゃないか?」
剣の重さに振り回される感覚はあったが、持ち方を工夫し、振り方をコンパクトにすれば、使えない武器ではないと感じる。
『そうだ、××。
もっと脇をしめて。体全体を使って、自分に引き付けるに振り抜くんだ』
兄さんの声が耳の中で響く。いつも日が暮れるまで、練習に付き合ってくれていた。
『兄さん……』
二つ目のスキルを獲得してから、事あるごとにタスラ兄さんのことを思い出す。
おそらく、ザンが迎えに来た後、兄さんは殺されただろう。
僕のことを逃がそうとしていたのだ。ザンは命を奪わないと言っていたけれど、そんな言葉、到底信じられるはずがない。
僕は首を振った。
そして剣を置き、ターコイズゴーレムの破片を手に握った。
『タスラ兄さん。
兄さんに教わったことは、一つも無駄にしない。
絶対にこの状況から抜け出してみせるから』
一度目よりも深く、尖った先を胸に突き立てた。
僕は最初に決めた通り、5回自分を殺し、5つのアイテムを手に入れた。
それらのアイテムは神に導かれたかのように、偏りがなかった。武器、防具、装束、魔法具、補助アイテム。
このアイテムの揃い方ですべき事なんて、一つしか思い当たらない。
きっとあの異形の神が、スキルを通して僕に命じているのだ。
超上級パーティー、『ゴダスの斧』を倒せと。
これまでに溜め込んだ途方もない恨みを晴らし、自由になれと。
僕は覚悟を決めた。
やろう。
『ゴダスの斧』を、僕を道具扱いして苔にしたあの四人を、このスキルと、自らの手で倒そう。
そうと決まれば……
僕は目の前に並べた、夢のようなアイテムたちを見た。
どれも図鑑に載っていた、一級品のアイテムだ。
知識だけは頭に入っているが、当然ながら実物を目にしたのは初めてだ。
とにかく使ってみて、慣れるしかない。
僕は5つのドロップしたアイテムを用いて、あの四人との戦い方をイメージしながら、体を動かしていった。
『えっ、これって……』
村にいた頃。
子供たちの間である図鑑がとても人気だった。
表題は、「凡庸な武器/伝説の武器」。
実際にダンジョンで入手された武器や装備品が、レアリティごとに分類され、精密なイラストと詳細な解説文つきで網羅されている図鑑だ。
装丁などからして、一応、子供向けのようではあったが、紹介されている武器・装備品の多さ、解説の細かさなどは、明らかに大人でも楽しめるほど充実していた。
実際、僕の誕生日にそれをくれたのはタスラ兄さんだったが、兄さんの方が熟読しているのではないかと思うほど、その内容をよく知っていた。
「俺もお前くらいの時にもらったんだ。今でも読んでるよ」
そう言って兄さんは、自分の本棚から全く同じタイトルの図鑑(しかし幾つか古い版のため表紙が異なっていた)を僕に見せてくれた。所々外れかかっているページがあり、それなりの厚さがある図鑑だったにも関わらずくたくたになっていた。
兄さんが武器や装備品についてよく知っている理由が、その時にわかった。この図鑑の愛読者だったのだ。
「兄さん、ありがとう!」
図鑑を受け取ると、僕も兄さんに負けじとそれを読み込んだ。
イラストだけではなく、武器のステータスが書かれた解説文にも、もちろん目を通す。気に入ったものは一言一句暗記してしまうほど、僕はその内容を繰り返し読んだ。
そして想像した。
冒険者となった自分が、この剣を、あの槍を振り回しているところ。
凶悪な魔物が飛び込んできたら、この盾に備わった能力で、あるいはこの手袋で付加される力を利用して……
兄さんが持っている古い版と同じくらいぼろぼろになるまで、どこへ行くにしてもそれを持ち歩き、読み耽っていた。
まさかその経験が、こんな時に役立つとは。
僕は目の前に現れたアイテムの、名称からレアリティ、特徴まで、図鑑に書いてあったことをすぐに思い出した。
派手さはなく、渋い、無骨な外観。厚みのあるブレード、余裕のある握り。
「ターナスの剣だ……」
冒険者ターナスが初めて入手したとされる剣。
文句なしにランクSの、ハイレアリティアイテムだ。
目の前に落ちた希少な剣を見て、僕は改めて、自分が持つスキルの力を実感した。
『レアドロッパー、か……』
そもそも僕は、これまで自分のスキルで出現したアイテムを目にしたことがほとんどなかった。
死んでから蘇生するまで、数十秒なのか数分なのかはわからないが、タイムラグがある。
そしてその間に、学者ザンが必ずアイテムを回収しているからだ。
おそらく、今僕が入れられている方ではない、もう一つの頭陀袋にアイテムはおさめているのだろう。
だから、どの程度のアイテムが出てくるのか全く分からなかった。
そんな状態で、出てきたのがこの剣だ。
心臓のバクバクが止まらない。
「重ッ!」
見た目の重厚感もさることながら、手から伝わる重さはさらにそれを超えてくる。
「……ははっ」
思わず笑いが込み上げてきた。
おもちゃを初めて買ってもらった子供の気分だ。
剣を構え、何度か振ってみる。
頭の中で、これまでに遭遇した魔物をイメージする。
そして先頭をきって立ち向かう、戦士ゴダスの背中を自分に重ね合わせる。
「うん……なかなか悪くないんじゃないか?」
剣の重さに振り回される感覚はあったが、持ち方を工夫し、振り方をコンパクトにすれば、使えない武器ではないと感じる。
『そうだ、××。
もっと脇をしめて。体全体を使って、自分に引き付けるに振り抜くんだ』
兄さんの声が耳の中で響く。いつも日が暮れるまで、練習に付き合ってくれていた。
『兄さん……』
二つ目のスキルを獲得してから、事あるごとにタスラ兄さんのことを思い出す。
おそらく、ザンが迎えに来た後、兄さんは殺されただろう。
僕のことを逃がそうとしていたのだ。ザンは命を奪わないと言っていたけれど、そんな言葉、到底信じられるはずがない。
僕は首を振った。
そして剣を置き、ターコイズゴーレムの破片を手に握った。
『タスラ兄さん。
兄さんに教わったことは、一つも無駄にしない。
絶対にこの状況から抜け出してみせるから』
一度目よりも深く、尖った先を胸に突き立てた。
僕は最初に決めた通り、5回自分を殺し、5つのアイテムを手に入れた。
それらのアイテムは神に導かれたかのように、偏りがなかった。武器、防具、装束、魔法具、補助アイテム。
このアイテムの揃い方ですべき事なんて、一つしか思い当たらない。
きっとあの異形の神が、スキルを通して僕に命じているのだ。
超上級パーティー、『ゴダスの斧』を倒せと。
これまでに溜め込んだ途方もない恨みを晴らし、自由になれと。
僕は覚悟を決めた。
やろう。
『ゴダスの斧』を、僕を道具扱いして苔にしたあの四人を、このスキルと、自らの手で倒そう。
そうと決まれば……
僕は目の前に並べた、夢のようなアイテムたちを見た。
どれも図鑑に載っていた、一級品のアイテムだ。
知識だけは頭に入っているが、当然ながら実物を目にしたのは初めてだ。
とにかく使ってみて、慣れるしかない。
僕は5つのドロップしたアイテムを用いて、あの四人との戦い方をイメージしながら、体を動かしていった。
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