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③『マイアミ』でのライブ
しおりを挟むその出会いより少し前、まだ夏の暑さが続く晩、塚本澄生と田代浩輔は、『パシャクラブ』というナイトクラブに来ていた。
二人の話題は、ついさっきライブハウス『マイアミ』で見てきた、ペガサスのライブの事だった。
今一番人気のバンドを見たいと塚本が言うので、田代がこのステージを選んだ。
平日の夕方だった。
回りが人気俳優の塚本澄生に気付いて、騒いだら面倒だと思い、わざと遅れて席に着いた。
しかしそれは田代の取り越し苦労だった。
ライブはオープニングから激しいドラムとギターの音が鳴り響き、もの凄い熱気だった。ファンの女の子達はステージ上のメンバーしか見ていないし、熱狂して叫びまくっている。
座っている男二人になぞ、目を向けてはいなかった。
せいぜい見習いマネージャーか、関係者と思ったに違いない。
「見てろよ、次が例の曲だ」
キーボードにスポットライトが当たると、ひとりの美少年が浮かびあがる。
━━エディ萩原だ。
「エディ━━!!可愛い━━!」
ファンの歓声が凄い。
エディは最近ステージではメイクをしている。アイラインを入れてくっきりした目元が、遠目からでもキラキラ輝いてチャーミングだった。
ケンのギターのイントロが聴こえ、曲が始まると、一瞬客席が静まり返った。
ライトを浴びて静かに、ゆっくりとスティーブが歌い出す。
ペガサスのステージは、演奏しているメンバーが、最後に音楽に陶酔して倒れていくパフォーマンスが話題となっていた。
そしてこの曲がそのナンバーなのだと、ファンは皆知っている。
何かが起こると、期待と恐怖の表情で息を詰めて少女達は、ステージを見ていた。
だんだんヴォーカルのスティーブの、ステージを動き回るアクションが激しくなってくる。
スティーブは、背が高く細身で、セクシーな体つきをしている。
エディとは正反対のタイプで、ふわりとしたくせ毛の髪、浅黒い肌と肉感的な唇が魅力的な、17歳の少年だった。
何よりその甘くハスキーな声が、聞く者の官能を刺激した。
やがてハンドマイクを両手で握りしめて歌う声が、だんだん泣き声に変わる。
「スティーブ!」
少女達が絶叫する。
その時だった━━
エディが突然マイクを持って、キーボードの上に飛び乗ったのだ。
狂ったように長い髪を振り乱して絶叫し始める。
「激しいなあ━ 楽器が揺れてるぞ」
塚本が嘆声を漏らした。
客席はすでに歓声ではなく、泣き声のような叫びに変わっていた。異様な雰囲気に包まれている。
「エディ!やめて、もうやめて━!」
次の瞬間、カン高い声で叫んだあと、エディの体がグラッと揺れて宙に舞った。
そのまま2メートル以上もあるステージから、客席に向かって転落したのだった。
ステージの下で、ワイシャツ姿の男性が倒れたエディを抱き止めたのが見えた。
高橋マネージャーだった。
そしてスティーブもステージ上に、うしろ向きにバッタリ倒れて動かなくなった。
少女達の叫び声がもの凄い。
ヨージのドラムが鳴り響いて、曲はエンディングを迎え、幕が下りた。
ぐったりして気を失ったように見える、エディとスティーブを、バンドボーイとマネージャーが抱えて控室に運んだ。
「すっげえな!噂には聞いてたけど、これがペガサスの失神ステージか」
塚本は興奮を隠せない。
客席はざわついている。
ファンの少女達にも連鎖的に倒れた子がいるかもしれない。
「俺達は早く出た方がいいな、行こうか━━」
ドタバタに巻き込まれるのを避けようと、田代が促した。
そして男二人で、熱い空気の漂うライブハウスを後にしたのだった。
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