セブンティーン

ひらおかゆきこ

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④パシャクラブ

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パシャクラブに辿り着き、塚本澄生と田代浩輔は、静けさを取り戻した。
酷く喉が乾いていた。
ウィスキーの水割りが旨かった。

パシャクラブは高級感のあるソファを置いた、大人の社交場だった。
フランス人ダンサーのステージも人気だ。ボックス席で仕切られているので、こっそり話をするのに向いていた。
田代はソファに体を預け、隣の塚本に話しかけた。

「エディが倒れる時の表情見たか?」

「あ、ああ ちらっとな」

「色っぽいだろ」

「ん、そうだな━」

意味ありげに田代がニヤリとする。

「エクスタシーの時にあんな顔するのかと思うと、そそられるよな」

田代が塚本に見せたかったのは、これだったのに違いない。

ペガサスの過激なステージが話題になってから、彼らがステージで気を失う失神と、性的エクスタシーを結び付ける記事が後を絶たない。

女性的外見のエディが、ステージで曲に陶酔して倒れていく様子がエロティックで、あれはエクスタシーの表情なのだと、男達は決め付けたいのだった。


「あの子は━━男とはどうなんだ?」
塚本は声を抑えて聞いた。

「いろんなお偉方との、夜の噂は聞いてるよ。ただエディってファンの女の子とも結構遊んでるらしい。女遊びが激しいって、榊原プロのヤツがこぼしてたから」

「見かけによらないんだな」
塚本が苦笑する。
「で、お偉方って━━誰なんだ」

「興味あるんだな、お前」
くくっとからかうように笑う田代に対して、塚本はすましている。
いつもこいつはポーカーフェイスだと思いつつ、二杯目のウィスキーを飲みながら、話を続けた。

田代は芸能界の裏事情を語ろうとしていた。

「エディは、水島滋之に可愛がられたらしい」

「えっ、作曲家の!」

「そう、自分達の曲作ってもらってる水島先生に誘われて、『特別なレッスン』を受けたみたいだ」

「それは、表に出たらずいぶんヤバい話なんじゃないか」

「あたり前だ!俺達だって書く訳にはいかないよ。相手は一番売れてる作曲家なんだぞ。そんなスキャンダル書いたら、もう仕事させてもらえなくなる。榊原プロからも睨まれるし」

ステージではフランス人ダンサーのショーが始まったようだ。客はそちらを注目しているので、隅のボックス席で話を続けるのは、ちょうど良かった。

「ジュピターレコードの谷川ってプロデューサーがさ、それを聞いて嫉妬したって話だ」

「エディ達はレコード会社違うよな、マーキュリーだろ?」

「そうだよ、よく知ってるな!谷川は美少年好きで有名なんだ。ペガサスが自分のレコード会社所属じゃないのを、すごく悔しがったらしい。酒の席でふざけて、ペガサスのエディとスティーブを二人並べて抱いてみたいって言ったそうだ」

「悪趣味だな・・・
で、他のお偉方の話もあるのか?」

「あるさ」
田代はちょっと口をゆがめた。そして全く違う業界の有名人の名前を挙げた。

「前衛画家の藤井光昭って知ってるだろう?」

藤井光昭は長年パリで活躍した画家だ。パリの画壇では知らない者はいない存在だという。

「知ってる。最近日本に帰ってきて個展を開いた画家だよな」
そう言えばフランス人の妻と離婚したばかりという話を、塚本は思い出していた。

「その芸術家が、エディにぞっこんなんだよ」

「本当なのか?!」
パリ帰りの画家と17歳のアイドルの少年とは、塚本の頭の中ではどうしても結び付かない。

「最近の若者文化に興味があるらしくって、帰国してからペガサスのライブを見に行ったそうだ。そこでエディを見て、『美しい白鳥のようだ』って感激したって言うんだよな」

「エディが『白鳥』か━━芸術家らしいセリフだな」
塚本は妙なところを感心している。  

「で━━、パリに連れて行くとか言って口説いて、アトリエでエディのポートレートを描いたって言う話だ。まあもちろん描いただけじゃないだろう」

「それは━━ヌードか?」

「そう。エディのオールヌードなら、俺も見たかったなあ~」

二人は倒れて運ばれて行くときのエディの様子を思い出していた。

もう一つ塚本の印象に残ったのは、ヴォーカルのスティーブと一緒に歌うシーンだ。
エディが女の子みたいなので、二人で歌いながら倒れていくシーンは、ちょっと男女の絡みっぽくもあってセクシーだ。
あるいはボーイズラブ的なムードを漂わせていると思った。

だからきっとファンの女の子には、とても刺激的なのだ。それを指摘すると、田代が大きく頷いた。

「その通りだよ。エディは自分にセックスアピールがあるっていうのは、意識してるんだよな。
だから仕草や表情に挑発的なところがあって、スティーブとの絡みはハラハラする。もしかしてスティーブとも何かあるのかと想像してしまうし、欲望を刺激するんだ」

「途中までは演技かもしれないけど、あれだけ全力で走り回って叫んでたら、誰でもブッ倒れちまう。
彼らのやってる事って、ロックバンドというよりは舞台芸術みたいな気がするな」

田代がぽんっと膝を叩いた。
「そのコメント頂き!さすが俳優だな
来週号に使わせてもらいたいな」

「いいよ。でも俺が言ったって書くなよ」

「書かないよ、もちろん。俺のものにするんだ」
田代は笑い飛ばした。

「一度会ってみたいな、あの子」

「今度会わせるよ。あいつらいつもアストロってクラブにいるんだ。連れて行くよ」

「うん、楽しみにしてるよ」


塚本が年下の少年に興味を示すことは珍しいなと、田代は思った。
彼のことは、どちらかというと男が好きな、バイセクシャルなのだとは理解していた。

以前は年上の男の恋人がいたと言っていた。ただその時塚本は十代なので、年下には目が向かなかったのだろう。 

それに女優にものすごくモテるので、常に女との噂がある。世間では女泣かせと思われていた。

そんな塚本にとって、エディは特別興味を惹いたらしい。

塚本が田代に連れられてアストロを訪れ、エディ萩原に初めて会ったのは、その少し後だったのである。

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