セブンティーン

ひらおかゆきこ

文字の大きさ
5 / 12

⑤再会

しおりを挟む

塚本澄生は、京都での映画のロケが一段落し、東京へ戻って来たばかりだった。
一人でどこかへ飲みに行こうかと思い、『アストロ』に足が向いた。

先週その店で、気になる子に会ったからだった。
それは17歳の美少年だった。

幻想的な照明が明滅する中、今日は生バンドがスローな曲を演奏している。
ほの暗い店の二階席、前会った時と同じ所に、ひとりでエディ萩原は座っていた。

栗色の髪は、遠くからでもすぐにわかった。ふわりとそこだけライトが当たっているように見える。

塚本は後ろからそっと近付き、エディの肩を軽くたたいた。

「塚本さん━━!」

振り向いたエディはびっくりして塚本を見つめた。ずっと塚本が現れないか、入口を見ていたつもりだったのに、いつの間にか近くに来ていたのに、驚いたのだった。

「やあ、今日は一人?」

「ううん、みんないますよ。テリーとヨージはあっちで━━シルバースターズの連中と飲んでて、ケンとスティーブは下で踊ってるから」

エディは少し離れた席を指差した。

シルバースターズはペガサスと同じ事務所のバンドで、彼らは仲が良かった。
いつもこのアストロを溜まり場にしているようだった。

「よく僕がここにいるのわかりましたね」

エディは、塚本をうっとりとした目で見上げる。前髪に触れそうなほど睫毛が長い。少し首を傾げると、長い髪がサラサラと音がしそうだった。

「そりゃあ、君は目立つもの」

隣に腰を下ろし、塚本はそう言って微笑んだ。

「それに━━」

塚本の体が、急に近付く。
肩と肩が触れ、塚本の香りがエディの鼻先をかすめた。
次の瞬間、耳元でこうささやいた。

「君みたいにきれいな子、他にいないからね・・・」

それだけ言うと、体は離れ、塚本はいつものポーカーフェイスに戻った。

エディはかっと顔が赤くなるのを感じた。暗かったのでわかる筈はなかったが、きっと塚本に気付かれた、と思った。そして、自分にこう言い聞かせた。

(この人は俳優なんだ・・・
だからこんな見えすいたセリフ、男の僕相手にも簡単に言えるんだ・・・
本気にしたらダメなんだ・・・)

その日エディは、白のフリルの付いたブラウスと、ピンクのサイケプリントのパンツをはいていた。明らかに女性用だ。

しかし近くで見ると、衿元や袖のボタンを外してラフに着ているので、喉仏や骨ばった手首がのぞいて、少年らしさが感じられた。それが塚本の興味を引いた。

「いつもおしゃれだなあ、そういう服どこで買うの?」

「銀座が多いかな」

「女性用だろう?自分で買うの?」

「もちろん。僕やせてるから、男物だと肩がダブダブなんだ。それに女性用の方が色やデザインがきれいだから。
その方が僕に似合ってると思うし、おしゃれって、男も女も関係ないと思うんだ」

「へえーいいなあ。君は自由なんだなあ」

話してみるとエディは、顔に似合わず声も低かった。気が強そうで、ハッキリとものをいう。

女性用の服やアクセサリーを身に着けていても、女装という訳ではなく、自然に似合っている。それが自己表現なのだろう。

少女のような部分と、少年のような部分とを両方あわせ持つ、不思議な魅力に、塚本はとても惹かれるものを感じていた。

並んで座って、塚本はウィスキーのロックを、エディはコーラを飲んでいる。

初めて会った時より、ずっと打ち解けて話せていることに、お互い気付いていた。いつの間にかくだけた口調になっていた。

テーブルの上に置かれたエディの指に、塚本の視線が留まった。

白い大きな指輪を、左手の薬指に嵌めている。繊細な薔薇の花の彫刻を施した、凝ったデザインだった。
十代の男の子が、自分で選んだとは思えない。

「きれいな指輪だね」

「ああ、これ?最近気に入ってるんだ」

「それ、象牙だろう?いい物なんじゃない」

「わからない。ママにもらった。よくくれるんだ、ブローチとかも」

「へえー」

エディは自慢そうに指を広げて見せた。

「よく似合ってるね・・・」

それに引き寄せられるように、つーっと塚本の手が伸びて、薬指の指輪の嵌められているあたりを、すっと撫でた。

指はそのまま離れず、エディの手の甲を小さく往復した。エディの背中に電気のようなものが走り、体が小さく震えた。
『ん・・・』
声にならない声が出る。
一瞬目を閉じて、それをこらえようとしたのを塚本は見逃さなかった。

その表情が塚本を刺激した・・・


「僕そろそろ帰らないと━━」
エディが帰ろうとすると、塚本が送ると言って、二人一緒に席を立った。

入口は一階なので、階段を下りなければいけない。ちょうど上がってくる客がいて、それをエディがよけようとして、うしろの塚本に体が触れた。

エディの髪が顔を擦り、細い肩が自分の胸に飛び込んで来た時、とっさに塚本はエディを抱き寄せていた。

そしてすかさずその顔を上向かせると、唇を重ねていた。一瞬のキスだった。
さっき触れた指の感触を思い出し、衝動が止められなかったのだ。
塚本は自分でも大胆さに驚いた。

エディは誰かに見られなかったかと、驚いて体を離した。胸がドキドキしていた。

二人はそのまま寄り添うようになり、店を出た。出掛けに塚本はエディを食事に誘った。

「トスカナってレストラン知ってる?」

「知ってる!すごく有名だもの。でもまだ行ったことなくて」

「今度一緒に行こう。また京都に行くから、来週帰ったら電話するよ。君の電話番号教えて」

エディが電話番号を書いたメモを渡すと、また指先が触れ合った。
さっき触れたエディの指━━抱き締めた時に逃げなかった細い肩━━そして唇。それぞれの感触が、また塚本の中に蘇って、気持ちをかき乱した。


ペガサスのメンバーと高橋マネージャーは、全員同じマンションのワンフロアに、別々の部屋を借りて住んでいた。
タクシーがそのマンションに着いたとき、塚本が驚きの声をあげた。

「君達ここに住んでたの?僕のマンションの真向かいじゃないか」

車を降りて、見上げながら塚本が言う。エディ達のマンションは、川沿いに建っていたが、その川にかかった小さい橋を渡ったすぐ向かい側が、塚本の住んでいるマンションなのだと説明した。

「知らなかった━━こんな近くに住んでたなんて」

エディも驚きを隠せない。

「よかった、来週電話して迎えに来るよ。待ってて」

「待ってる━━」

二人はそこで別れた。
深夜だったが、エディは回りに誰もいない事を確かめてマンションに入った。

エディも、もっと塚本のことを知りたいと思いはじめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...