身体の弱い美少女なんて見た事ありませんが【8/31日完結】

須木 水夏

文字の大きさ
22 / 27

子供の頃に見えていたもの

しおりを挟む






「…という、ね。夢よ。」


ピピピッピーッ

 鳥の囀る声の聞こえてくるカフェテラスで、三人はしばらくの間黙りこくっていたが、不意にクリステルは、過去のネイフィアの名前を呼んだ。



「…ラピ。」

「…なに?サフィア姉さま。」

「…うーん、何だか…とっても微妙な気持ちになるわ~。」

「私だってそうよ!」



 首を傾げて唸るクリステルに、急に恥ずかしくなって頬を真っ赤に染めたネイフィアは、ペシペシとテーブルのへりを片手で叩く。そして、大きくため息をついた。


「…こんな夢の話、誰かにするなんて思っていなかったわ。クリスが話したくれなかったら、ずっと誰にも言うことはなかっでしょうね。」

「…もしかしたら、子どもの頃から私達は女達と大翼竜の話を聞いていたから、ただ見ただけなのかも、とかね~。そう思ってたのよ。まさかネイフィが私が死んだ後の夢を見てるなんて思ってもみなかったわ~。」

「まあ、そうね。私もそう思ってたから誰にも言わなかったんだと思うわ。」

「……いいなあ。」

「「ん?」」


 それまで黙りこくって話を聞いていただけだったノエリアの声に、話し込んでいた二人は、少女へと視線を向けた。



「…私も夢、みたい!」

「え?」

「今から帰って寝る!」

「え?!今から?」


 水色の髪を大きく揺らして、ノエリアは頷いた。頬がバラ色に色づき、気分が高揚しているのか目がキラキラしている。


「だって!テルテルもネルネルも見てるなら私も見たい!」

「いやだからその呼び方。」

「ずるーい!二人だけで同じ夢ずるい!」

「そう言われても…。」


 苦笑いをするクリステルとネイフィアに、頬をふくらませながらもふと、ノエリアは呟いた。



「でも私…大翼竜は見た事あるかも。」

「「へ?」」


「前にも言ったことあるんだけど、子どもの頃、水の中にいるみたいな感覚だったって話したことあるでしょ?」

「うんうん、聞いた事ある~。魔力が大きすぎて器から溢れて、ノンの身体を覆ってしまっていた状態のことよね~?」

「その時にね。」

 


 ノエリアは自分の見ていた世界を二人に伝え始めた。










 ノエリアの幼少期は、何もかもがぼんやりとした視界や聴力の中に生きていた。刺激のほとんどない世界の中で、時々はっきりと声が聞こえたり情景が見えることがあった。


 それが初めて見えたのは、三歳の頃。ぼんやりと滲んだ姿の侍女が通り過ぎた後ろを、白い毛玉のような小さな生き物がぴょこぴょこ歩いている。そしてソファーに座るノエリアの目前で不意に止まると、こちらへと視線を向けてきた。
 触ればふわふわとしていそうな柔らかの毛並みも、ピンと立った三角の両耳も、大きく輝くも、いつも見えている世界とは違い鮮やかにはっきりと見えて、ノエリアは大きく目を見開いた。


「あれ、なあに?」

『?ノエリア様、いかがされましたか?』

「あそこに、小さいしろいのがいるの」

『白いの、でございますか?』


 輪郭ははっきりと分からないけれど、ノエリアの声を聞きつけた侍女が、隔てられた音の向こう側から返事をし、少女が見つめている方向をきょろきょろと見回している気配は伝わってきた。
 白いモコモコは相変わらずノエリアの目の前にいる。その辺を侍女はずっと見ているのだが。


『…申し訳ございません、お嬢様。そのような物はどこにもないようなのですが…。』

「でも、そこに……。ううん、何でもない」


 自分の目の前にいる侍女の顔はボヤけてしまってほぼ見えていなかったが、少女の発言に彼女が少し怯えているのが、ノエリアに魔力として伝わってきた。少女は周りに薄い膜が張っている分、神経を尖らせていたためか、周りの機微にとても敏感だった。

 周りの人には見えていないのだ。幼いノエリアはそう理解すると、次にはっきり見えない世界の方には、ふんわりだけど触ることが出来るのに、はっきり見える景色や物には触れないことに気がついた。

 目の前に花が咲いていたりする。花弁が多く葉は小さく、可憐な青い色の花が綺麗で、思わず手を伸ばしてみるが、ノエリアの小さな手は空を切るばかりでそれを掴むことはできなかった。
 そもそもそこは自室だ。花など生えているはずがないのだが、まだ幼い少女はそれが何故なのか理解できない。

 目の前にあるのに、触れない花、綺麗な水の流れる滝、動物、青々とした葉の生い茂る枝、そしてゴツゴツとしていそうな岩肌。

 触れないことがもどかしく、ノエリアは不満で良く泣いた。けれど、しばらくするとそれもそういうものなのだと慣れた。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

卒業パーティでようやく分かった? 残念、もう手遅れです。

ファンタジー
貴族の伝統が根づく由緒正しい学園、ヴァルクレスト学院。 そんな中、初の平民かつ特待生の身分で入学したフィナは卒業パーティの片隅で静かにグラスを傾けていた。 すると隣国クロニア帝国の王太子ノアディス・アウレストが会場へとやってきて……。

留学してたら、愚昧がやらかした件。

庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。 R−15は基本です。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

姑に嫁いびりされている姿を見た夫に、離縁を突きつけられました

碧井 汐桜香
ファンタジー
姑に嫁いびりされている姿を見た夫が、嬉しそうに便乗してきます。 学園進学と同時に婚約を公表し、卒業と同時に結婚したわたくしたち。 昔から憧れていた姑を「お義母様」と呼べる新生活に胸躍らせていると、いろいろと想定外ですわ。

処理中です...