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王族の唯一
しおりを挟む聞いた事のない男性の声に、サラは最初は自分が声を掛けられたことに気が付かなかった。ぽけーっと目の前の景色に気を取られていたせいもあったが。
しかし。
「あー、と。ウィントマン伯爵令嬢。」
「はい?」
名を呼ばれ、パッと振り向いた瞬間にサラは固まってしまった。
そこに立っていたのは、数名の騎士を連れたフレデリック第一王子だった。
「......?!」
(王太子...?!?!!?)
サラは座ろうとしていた姿勢を立て直し、慌ててカーテシーをした。あまりの驚きに指先が震えてしまうのを禁じ得ない。
後ろでケリーとハドウィンも跪いているのが目の端に見える。サラは息を吸い込むと、震える声を抑えながらも成る可くゆっくりと向上を述べた。
「...王太子殿下に置かれましては、ご健勝にてご活躍のことと存じ上げます。」
「畏まらないで大丈夫だよ。」
優しい声が上から降ってくる。
いやいやいやいやいやいや。畏まらないことが出来るわけがないですよね?
フレデリック第一王子。この国の唯一無二である。正当なる王位継承権を持ち未来の国王として存在する天上のお方である。王妃に良く似た端整な顔立ちは、凛とした威厳と柔らかな慈愛を併せ持っていた。
陽に透ける金髪とロイヤルブルーの瞳を持ち、頭脳明晰で聡明、戦の世が終わった今後の時代に最も相応しい治世を導くだろうと言われている方である。
緊張せず、震えずにいる方が難しい。
「顔を上げて。ご一緒しても良いかな?」
「...はい。」
全く良くは無いけれど、断れるはずもなく。サラは震える足を何とか誤魔化しながら、席へと着いた。先程までの窓の外の景色は最早見る余裕はない。
何故、殿下はここに居られるのか。
何故、声をかけられたのか。
と言うか、何故サラの名前をご存知なのか。
伯爵家は高位貴族には位置するが、普段王家と関わり合いのある公爵家や軍事を司る侯爵家とは違い、サラの家は宮中伯ではない。
祖先が商人出身で、国の発展に功績を認められて貴族に列せられた。商業のノウハウや人脈を認められ、代々商会を維持してきた家系である。
ウィントマン商会が流通や貿易の中心となり、国内外に高品質な製品を輸出をした結果国の財政が潤い、貿易黒字を生み出した事で伯爵の地位と領地を得た。特に先代の王の時代、戦争や飢饉などの困難な時期にお爺様の時代の商会の輸入網が国民生活を支えていたのは、今でも父が誇り高く教えてくれる事だ。
ガーヴィンの父が今現在治めているランマイヤーの領地の隣が我が領地である。王都であるこの土地とは接していないし、何なら少し離れている。
(そんな普段関わりのない者の名まで、覚えていらっしゃるのかしら...?)
そう思っていた時。
「弟が迷惑をかけてしまっているようだね。」
と、柔らかい響きの声でフレデリック殿下は言った。慌ててサラが視線を上げると、彼は困ったように眉根を下げている。
...こんな事を思っては不敬なのだろうけれど、何だかしょげた表情が大きな犬のようだわ、と少女は考えた。そして同時に、ガーヴィンの事を言っているのだということに気がついた。
「あの子はとても賢くて良い子なんだけど、私の事が好きすぎて時々暴走してしまうんだ。」
「暴走...。」
「兄バカなんだ。」
「......左様でございますか。」
その言葉に成程、と頷きそうになったがサラは耐えた。王族にバカなんて。ダメダメ絶対。
でもそれなら、ガーヴィンが忙しくしている理由も納得出来た。将来の王の為に、その弟が何かしら動いていて、その手足となっているのならば、それはサラに会いに来るのも困難な程の多忙なのだろう。然し納得したのもつかの間、続く言葉にサラは動揺した。
「ちょっとね。今、危ないことになっているんだ。」
なんですと?
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