貴方は私のお兄様?

須木 水夏

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公爵令嬢ローズエッタ

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「ティファーニーナ様は、エルスロッド様と随分仲が宜しいのね。」



 昼食をレオンハルトと一緒に中庭で取り(マーサに自室のキッチンで作ったサンドウィッチを運んでもらった。鶏肉とレタスとトマトとチーズのサンドウィッチである。レオンハルトはそれに目を輝かせながらかぶりついていた。)席に戻った時、ローズエッタより掛けられた言葉にティファーニーナは目をキョトンとさせた。



「......そうで、ございましょうか?でも兄ですので。」
「ええ、そうよね。でも兄妹だからといって仲が必ずしも良い訳では無いでしょう?」
「確かに。」
「私と私の弟との関係とは大違いね。」
「ローズエッタ様の弟様......。王家の騎士団に入団していらっしゃるお方でしょうか?」


 父が夕食の席で話していたのを耳にした事がある。マテリア公爵家には男の子がいるが、嫡子は長女のローズエッタであり、その理由は弟が騎士になりたいと幼い頃にごねたからだと。公爵に我儘を言い、権力を使って王家の騎士団に入団したのだと。



「あら、良くご存知ね。王都に居なくともやっぱり筒抜けなのね。ええ、その通りよ。」



 ローズエッタは困ったように笑いながらそう言うと頷いた。
 政務大臣という王国の頭脳である家系にて、彼女の弟のカインは異質な存在であったようだ。



「あの子、単純で真っ直ぐで根は良い子なのだけれど頭があまり良くないの。政務に全く向いていなかったのよ。だから嫡男として産まれたのに家は継げず父の後も継げずで、私が代わりに嫡子として教育を受ける羽目になってしまってるのだもの。
 あらそんな顔をしなくても大丈夫よ、其方の方が皆が知っている事だから。」



 目を丸くして、なんと言って良いのか分からない表情をしているティファーニーナにローズエッタは軽く首を傾げて言った。



「この国の第二王子が嫁ぐからと言って、嫡子が女なんですもの。長子ではなくても男がいるのよ?他人が不可思議に感じるのも当たり前よね。」
「......。」


 何も言えずに、ティファーニーナは口篭った。そのまま流れるように午後の授業が始まってしまいそのまま話は終わってしまった。



(何故、ローズエッタ様はまだ知り合ったばかりの私に話してくださったのかしら......?)



 皆が知っている事だと彼女は言っていたことを思い出した。けれど、自分から言う事だろうか。を示そうとした?公爵令嬢が、伯爵令嬢に対して?そんな馬鹿な。けれどメイレン先生は「貴女は注目されている」とティファーニーナに言った。
 優秀な父と義理の兄の存在で、ティファーニーナ自身にも価値があると思われた場合に起こりうるのは、囲い込みか仲間外れかのどちらかだろう。


 この国は前世に生きていた場所とは違い、社会は完全完璧に男性優位の世界なのだ。

 女であれば調理をする為に火をつけることはおろか、学ぶ事も起業をすることも叶わず。
 家を継ぐことも奇跡が起こらない限りは出来ない──ティファーニーナの家のように、子どもが女子しか居なければ他所から養子をとる事も当たり前の事だった──のだ。彼女達に許されているのは、社交的なマナーを学ぶ事、美しく着飾ること、そして子を産み育てる事だけだ。そういった正しく古典的な世界であった。

 作者が何を意図してこの世界をそのように創造したのか。

 考えてみれば単純な事で、ヒロインに独自性を持たせるためなのだろう。この国には無い自由で奔放な魅力的なキャラクターを更に鮮明にさせる。
 けれど、実際にその国に生まれて見ると前世と比べてしまい、ティファーニーナはそれが如何に馬鹿げた事であるのかを理解していた。

 幼い頃より学べる環境があったかどうかに学力は大きく左右されるが、女子が高等教育を受ける事が出来るようになったのは近年の事なのだ。
 だから当たり前に男女の学力には平均的な差がある。そして後継者制度は男性の特権であり、一般的に女性は有していないのである。なんて世界なんだろう。

 では何故、ローズエッタにはその権利が与えられたのか。弟の頭が良くないと言う理由だけでは、彼女はその権利を得ることは出来なかっただろう。それは、第二王子の婿入り先として相応しくなるように用意された地位だと誰もが考える。
 そして。



(やっぱり、ヒロインとの対比の為かしら。)
 


 第二王子の心を射止めてしまうヒロインと、ヒロインに婚約者を奪われる勝気で男勝りな──守ってあげたくなる、元気をくれるヒロインとは真反対の──公爵令嬢を作り上げる為の設定だったのではないかとティファーニーナは考えていた。
 








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