35 / 39
公爵令嬢ローズエッタ
「ティファーニーナ様は、エルスロッド様と随分仲が宜しいのね。」
昼食をレオンハルトと一緒に中庭で取り(マーサに自室のキッチンで作ったサンドウィッチを運んでもらった。鶏肉とレタスとトマトとチーズのサンドウィッチである。レオンハルトはそれに目を輝かせながらかぶりついていた。)席に戻った時、ローズエッタより掛けられた言葉にティファーニーナは目をキョトンとさせた。
「......そうで、ございましょうか?でも兄ですので。」
「ええ、そうよね。でも兄妹だからといって仲が必ずしも良い訳では無いでしょう?」
「確かに。」
「私と私の弟との関係とは大違いね。」
「ローズエッタ様の弟様......。王家の騎士団に入団していらっしゃるお方でしょうか?」
父が夕食の席で話していたのを耳にした事がある。マテリア公爵家には男の子がいるが、嫡子は長女のローズエッタであり、その理由は弟が騎士になりたいと幼い頃にごねたからだと。公爵に我儘を言い、権力を使って王家の騎士団に入団したのだと。
「あら、良くご存知ね。王都に居なくともやっぱり筒抜けなのね。ええ、その通りよ。」
ローズエッタは困ったように笑いながらそう言うと頷いた。
政務大臣という王国の頭脳である家系にて、彼女の弟のカインは異質な存在であったようだ。
「あの子、単純で真っ直ぐで根は良い子なのだけれど頭があまり良くないの。政務に全く向いていなかったのよ。だから嫡男として産まれたのに家は継げず父の後も継げずで、私が代わりに嫡子として教育を受ける羽目になってしまってるのだもの。
あらそんな顔をしなくても大丈夫よ、其方の方が皆が知っている事だから。」
目を丸くして、なんと言って良いのか分からない表情をしているティファーニーナにローズエッタは軽く首を傾げて言った。
「この国の第二王子が嫁ぐからと言って、嫡子が女なんですもの。長子ではなくても男がいるのよ?他人が不可思議に感じるのも当たり前よね。」
「......。」
何も言えずに、ティファーニーナは口篭った。そのまま流れるように午後の授業が始まってしまいそのまま話は終わってしまった。
(何故、ローズエッタ様はまだ知り合ったばかりの私に話してくださったのかしら......?)
皆が知っている事だと彼女は言っていたことを思い出した。けれど、自分から言う事だろうか。優位性を示そうとした?公爵令嬢が、伯爵令嬢に対して?そんな馬鹿な。けれどメイレン先生は「貴女は注目されている」とティファーニーナに言った。
優秀な父と義理の兄の存在で、ティファーニーナ自身にも価値があると思われた場合に起こりうるのは、囲い込みか仲間外れかのどちらかだろう。
この国は前世に生きていた場所とは違い、社会は完全完璧に男性優位の世界なのだ。
女であれば調理をする為に火をつけることはおろか、学ぶ事も起業をすることも叶わず。
家を継ぐことも奇跡が起こらない限りは出来ない──ティファーニーナの家のように、子どもが女子しか居なければ他所から養子をとる事も当たり前の事だった──のだ。彼女達に許されているのは、社交的なマナーを学ぶ事、美しく着飾ること、そして子を産み育てる事だけだ。そういった正しく古典的な世界であった。
作者が何を意図してこの世界をそのように創造したのか。
考えてみれば単純な事で、ヒロインに独自性を持たせるためなのだろう。この国には無い自由で奔放な魅力的なキャラクターを更に鮮明にさせる。
けれど、実際にその国に生まれて見ると前世と比べてしまい、ティファーニーナはそれが如何に馬鹿げた事であるのかを理解していた。
幼い頃より学べる環境があったかどうかに学力は大きく左右されるが、女子が高等教育を受ける事が出来るようになったのは近年の事なのだ。
だから当たり前に男女の学力には平均的な差がある。そして後継者制度は男性の特権であり、一般的に女性は有していないのである。なんて世界なんだろう。
では何故、ローズエッタにはその権利が与えられたのか。弟の頭が良くないと言う理由だけでは、彼女はその権利を得ることは出来なかっただろう。それは、第二王子の婿入り先として相応しくなるように用意された地位だと誰もが考える。
そして。
(やっぱり、ヒロインとの対比の為かしら。)
第二王子の心を射止めてしまうヒロインと、ヒロインに婚約者を奪われる勝気で男勝りな──守ってあげたくなる、元気をくれるヒロインとは真反対の──公爵令嬢を作り上げる為の設定だったのではないかとティファーニーナは考えていた。
あなたにおすすめの小説
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※月曜にから毎週、月、水曜日の朝8:10、金曜日の夜22:00投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ
⚪︎
恋愛
公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。
待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。
ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……
あなたの隣に私は必要ですか?
らんか
恋愛
政略結婚にて、3年前より婚約し、学園卒業と共に嫁ぐ予定であったアリーシア。
しかし、諸事情により結婚式は延期され、次の結婚式の日取りさえなかなか決められない状況であった。
そんなアリーシアの婚約者ルートヴィッヒは、護衛対象である第三王女ミーアの傍を片時も離れようとしない。
月1回の婚約者同士のお茶会もすぐに切り上げてしまい、夜会へのエスコートすらしてもらった事がない。
そんな状況で、アリーシアは思う。
私はあなたの隣に必要でしょうか? あなたが求めているのは別の人ではないのでしょうかと。
【完結】ハーレム構成員とその婚約者
里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。
彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。
そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。
異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。
わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。
婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。
なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。
周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。
コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。
次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のシャレルは、第二王子のジョーンによって無実の罪で投獄されてしまう。絶望の中彼女を救ってくれたのは、ずっと嫌われていると思っていた相手、婚約者で王太子のダーウィンだった。
逃亡生活を送る中、お互い思い合っていたのにすれ違っていた事に気が付く2人。すれ違った時間を取り戻すかのように、一気に距離を縮めていく。
全てを失い絶望の淵にいたシャレルだったが、ダーウィンとの逃避行の時間は、今まで感じた事のないほど、幸せな時間だった。
新天地マーラル王国で、ダーウィンとの幸せな未来を思い描きながら、逃避行は続く。
そしていよいよ、あと少しでマーラル国というところまで来たある日、彼らの前にジョーンが現れたのだ。
天国から地獄に叩き落されたシャレルは、絶望の中生涯の幕を下ろしたはずだったが…
ひょんなことから、ダーウィンと婚約を結んだ8歳の時に、戻っていた。
2度目の人生は、絶対にダーウィンと幸せになってみせる、そう決意したシャレルだったが、そううまくはいかず、次第に追い詰められていくのだった。
※シャレルとダーウィンが幸せを掴むかでのお話しです。
ご都合主義全開ですが、どうぞよろしくお願いします。
カクヨムでも同時投稿しています。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)