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勘違いが過ぎます
しおりを挟む「…あの瞬間に運命感じちゃってる時点で、頭の中がお花畑すぎるんですよね…。いえ、でもそれも小説通り…。あーほんとにもう…。」
アリアは庭園のベンチに腰かけてぼそぼそと呟いた。夜会の会場から離れて半刻ほど時間は経っているが、まだ戻る気にはなれない。いっその事全てが終わるまでここで待機して、終わる直前に帰ろう。有難いことに公爵家の庭は寒くも暑くもなく、居心地がとても良い。それがいいそうしよう。
アリアは美しく磨かれた足元のタイルの模様を無意識に視線でなぞりながら、そっとため息をつく。
仮に。仮に小説の世界は関係なかったとして。
百歩譲って男性に免疫がなかったから、コロッと恋に落ちてしまったまでは、まあ分かる。
でもその後がめちゃくちゃ問題なのだ。
彼の名前から住所を特定し、朝早くに門の前まで行って公爵家の馬車が出てくるのを待ち、その後を馬車で追随する。もちろん、帰りも当然のように後ろをついてゆく。
(今思えば御者のボブがいつも何か言いたげにしてました…。)
雇い主の娘の奇行に何か言えるわけでもなく、ひたすらお抱えの御者を混乱させてしまったことをアリアは心の中で深く詫びた。
最初の内アリアは、学園の中でも話しかけるわけでもなく、時間を見つけてはただひたすらに遠くからマテオを見つめていた。
そしてその内、彼の姿を探して学園内をウロウロしてみたり何とか視界に入ろうと傍を彷徨いたり、挙句に彼が落としたり捨てたりした物(ペンや本から始まり、折れてしまったペン先や、肩についていた糸くずや、要らなくなった靴紐など。ああ、そう言えばいつか彼の帰った後に机の上に置きっぱなしになっていたハンカチも盗んだことがあったな…)を拾い集めるようになっていた。
そこまで行くと本当に笑い事ではない。キモいストーカー爆誕である。
おいおい、この主人公ちょっとヤバいんじゃないと思っていたところで、今回の夜会の断罪劇が始まり、あ、この子主人公じゃなかったんだー、良かった…!と読んでた時には心からほっとした。
「うん、ないです…。それはないよりのないです、アリア。」
残念ながら前世の自分の事は、この小説を読んでいた事、自分がまだ若い女性であったこと以外はほとんど覚えていないけれど、このアリアよりは思い込みが激しいタイプではなかった気がする。
今だって冷静にこれまで自分の行ってきた事を思い出しては身悶えしそうなほどに後悔しているのだから。
というか、小説の内容を思い出して冷静になったという方が正しいか。
「物語は始まったばっかりなんですよね…。」
小さく溜息をつき、目の前でサラサラと音を立てる噴水を眺める。先程までの混乱や悲しみ、今まで感じたことの無いほどの羞恥やら何やらでささくれだっていた心が凪いでゆく。それにつれて、何故自分はここに居るのだろうという疑問が生まれた。
ストーリーは何度も読み返したので大体覚えている。
村出身の美少女が王都にて色んな経験をしながら、美麗な男性達と出会い、ゆっくりと成長しながらその方達と初心な恋をする…彼女の心情的にはあくまでも彼らの行動に時折ときめいているだけなのでそれ以上の進展はイマイチなく、恋とまでは言えないのかも知れないけれど、相手側からは明確に愛を囁かれるわけで、まあよくある王道物語だ。
しかしマテオに関しては、主人公に対する王子前とした彼の行動に身悶えしまくったことは覚えているけれど、細かい事は何も覚えていない。要は、見た目も行動もあまりにも正統派の王子様過ぎて見ているこちらが恥ずかしくなってしまい、文字を直視出来なかったのだ。その小説を読んでいた時のアリアの推しは、魔法使いだった。
マテオは全く好みのタイプとは違う人物。その人のストーカーになってしまうなんて、そんな事ありますか。
本物の王子である第一皇太子(小説に出てくる順番でNo.1)は金髪青い目で、ちょっぴりやさぐれ感があるけれど強くて心優しい。
側近の美貌のマテオの他に、前世のアリアの推しの人見知りだけど優秀な翠髪に黒い瞳の魔法使い(No.2)。元気ハツラツ、オレンジ頭に金色の瞳の騎士の息子(No.4)。そしてお色気ムンムンな学園の教師でありながら本当の姿は王の弟(No.6)、と言ったまあまあ王道のヒーロー達だった。
余談だが、彼らの殆どには幼少期に決められた婚約者達がいる。小説の終わりは、その婚約者達も全員主人公のことが好きになり、円満に終わっていた、ハズ。
あとなんだっけ?そうだ、物語の後半でこれもお決まりの隣国の王子様(No.5)も出てくる。確か、銀髪に銀色の瞳のこれまた超絶美形だったはずだ。
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