【完結】ストーカー辞めますね、すみませんでした。伯爵令嬢が全てを思い出した時には出番は終わっていました。

須木 水夏

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第二章

前向きに考えておりますので

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「...不安は、もちろんあります。」 

「どんな不安?」

「言葉は共通語があるので特に不自由はないと思いますが、魔法が使えないわたしが学園で浮いたりしないか、あとは後世の為にどこまで学べるか、ですね。」


 アリアは眉毛を下げて可憐な微笑みを浮かべた。
 もし隣国の学園に通う事が出来るとするなら、今後の道筋を大きく変えられる可能性が出てくる。
 結婚は恐らく今のままではできないだろうし期待もしていない中で、留学は領地の商業をさらに発展させるのに役立てる為に、経済学や法律、社会学を学べる機会になるだろう。もしかしたら新しい出会いもあるのかもしれない。

 そして実は、魔法にも興味がある。

 幼少期に魔力の測定をした際、ほんのわずかだがアリアにも魔力はあった。(大体の人間は多かれ少なかれ魔力を持っているらしい。)  
 残念ながら、生活に役立てる程ではなかった為、特に使う当てもないだろうと学園でも魔法を学ぶことはなかった。けれど、もしも隣国に行く事が出来るのなら、魔法教会で魔力測定をしてみて(使える使えないは別として)、今の魔力量を確認してみるのもありなんじゃないか。アリアはそんな事を思った。


(何だかんだ、ちょっとワクワクしているのです。)

 
 言葉にしなくとも目が輝いているアリアを見て、マテオは切なそうに微笑んだ。


「...君が隣国に行ってしまうと、寂しくなるね。」

「えっ?そ、そ、そうでしょうか?」

(自分をストーカーをしていた相手にいう言葉ではありませんよーーーー?!?)


 ハッと目を見開いてアリアがマテオを見つめると、青年は少女の視線を受けて僅かに身動ぎした後、うっすらと頬を染めて視線を外した。青年の普段見られないその行動に、少女は確信した。


(こんなわたしストーカーにそんなお言葉…。もしかして、マテオ様は結構な寂しがり屋なのでは?
 であれば、やはりリュシアン殿下の留学を勧めるのにマテオ様は適任ですね...!)


 そうであれば、とアリアは意気込んだ。


「マテオ様...!
 リュシアン殿下をこちらの学園へ留学するようにお誘いされてはいかがでしょうか...?!」

「え?」

「きっとマテオ様の気持ちはリュシアン殿下に届きます!」

「え?僕の気持ち?ん?」

「血縁の有る無しではなく、今この素晴らしい時間を気を許せるご友人と一緒に過ごされるのは、きっと生きていく上で宝物になると思います!」

「ちょ、ちょっと待って?」

「マテオ様とリュシアン殿下は、同じ学園へと通い、切磋琢磨し、(主人公との)新しい出会いに期待溢れ、そして幾度となく困難を(主人公と共に)乗り越えて(主人公と)心を通わせて素晴らしい時間を(主人公と)過ごされるのです...!」

「え?え??ま、待って!」


 急に雄弁になり、熱く語り出したアリアの言葉を遮るように声を上げたマテオを、少女はキョトンと見つめた。

「...アリア嬢、落ち着いて…?
 その。昨日の夜、リュシーが留学をしたいとか、そのような話をしたの?」

「いいえ。特にそのようなことは申されておりません。けれど、マテオ様にとってもリュシアン殿下にとっても、とても大切な事であり、そうするべき事なのです...!」

「ええ...?」


 マテオは、アリアが何故そうも熱弁をするのか意味が分からないという困惑した表情をしていた。


(そりゃそうですよね。ただ単純に皆様の行動を物語に沿わせたいだけなんです、なんて言えないですし。)


 リュシアンは速やかに隣国へと戻って留学の手続きをするべきだし、マテオも王都へと戻ってくれるなら、もしかしたらナディアを説得してくれて彼女がこちらに直接来るなんて世迷言は言わなくなるかもしれない。

 アリアはただ望んでいた。だから、その為に出来ることは何でもしようと思った。


「マテオ様。マテオ様のその寂しいというお気持ちをリュシアン殿下に打ち明けられるのが良いかと。お二人は心が通じ合っていると思います...!」





 小説の中の描写でそういうシーンがあるのだ。あれは第二章のそう、大体半ばあたり。めちゃくちゃ良いシーン。






 放課後、マテオとリュシアンの二人が王族と貴族の使える専用ラウンジにて、夕日を見ながら会話をしている箇所があるのだ。
 あの小説、50回以上は読み返しているので登場人物のセリフは大体が暗記出来ている。


 窓の外、どこか遠くを見ながらぽつりと呟くリュシアン。


『...私は良い王になれるだろうか?』

『リュシー...?』

 彼の独り言のような問いかけに、マテオが読んでいた本から顔を上げて彼を見た。夕日に照らされて、リュシアンの銀髪はオレンジ色に染まっている。
 隣国の王太子はいつもの陽気さをしまい込んで、真顔でマテオを振り返った。


『ここに来て改めて思ったよ。王族である事は、ただの飾りではないんだって。
 私には何の力もなくて、生まれてからずっと護られて生きてきた。けれどリーシャの...彼女の誰かの為に一生懸命になれる姿を見ていたら、それでは駄目なのだと思い知らされた。』

『そう...。』

『私には特別な魔法の力はないけれど、幸いにも権力だけはある。それで民を護っていかないとな。』

『リュシー、僕はこの国の貴族で君の国の者ではないけど。小さな頃から君と一緒にいるから、君がどれだけ他人の事を思いやれる人なのかを知っている。君は誰よりも素晴らしい王になると信じてる。』

『マテオ...。』

『それにしてもリーシャに感化されるなんて、君も彼女の事が気になってるんだなあ。』

『も、って。まさかお前も?』





(『ワクワクドキドキ、あれそちらもあの子に片思い?
 あらこちらも??あらあら?
 何だか妬けるし焦るけどお前達なら好敵手だ。でも抜けがけはするなよ?』という、あのふわふわしつつ、お互いに牽制しつつ、好きな子と楽しい学園生活わっしょーい!が待っているのです!!)




 
 
 



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