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第二章

姉妹の修行3

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「覚悟……」

「はははは、腹をくくったか。あきらめたか?ほらよ、お前もアイツと一緒にくたばりなっ」

 縛り上げた黒猫をたまずさの方にほおり投げる。

「ぐっ!!……王都の魔道士が、こんな!こんなことして、」

 黒猫が涙ながらに叫ぶ。

「ははっ、そうだ。俺たちに正義がある。俺たちは区長会で決まった存在。王都ではあの杖職人を捕まえるために、魔法少女と魔道士の隊が編成されてる。運良く俺が詰所にいた時にタレコミがあったからな。魔道士連中を連れてきたのさ。王都に飛んだなら、向こうで待機してる連中に言えばいい。あのイケすかねー女区長と魔法少女たちに手柄を譲る気はねーよ」
「……『千変』」

 たまずさは血溜まりができた地面に杖を突き立て、魔法を唱える。流れた血を媒介にいつもより、強力な魔法を。

「はっはー!これが、『千変』。No.50の魔法。すげぇな」

 地面が蠢き、土で出来た怪物を生み出す。高さ3メートルほどのそれは、たまずさを守るように彼女と魔道士達の間に立ち塞がる。

「あなた、名前を聞かせてもらえる」
「No.50の魔女を討ち取った『千変殺し』とでも名乗ろうか。俺はゴルゴン」

「……随分強気な魔道士さん、ね。魔道士と魔法少女の力の差はご存知ないの?」

「知ってるさ。十分な。『爆発射線(エクスプロード)』」

 魔道士が懐から小型の弓をだして構える。弓矢はない。
「……?何を」
 と、土人形の頭が爆ぜて、音をだして崩れる。

「お前こそ知らねーんだな。」
「……まさか」

「射抜いたものに様々な影響を起こす杖『射手座・狩人(サジタリウス)』……奴の手放した杖の争奪戦はすでに始まってるんだよ」

 弓を弾くと、土人形の腕が轟音とともに落ちた。

「こいつら殺して、さっさと杖職人捕まえにいくぞ、構えろ」

 周りを取り囲む魔道士たちも、魔法を放つ準備をする。

「さぁ、サヨナラだ。旧時代の魔法少女よ……放て」

「……くっ」
「くそぅ!くそぅ!くそぅ!」

 だが彼女らを襲った魔法はあらぬ方向に飛んでいった。

「な、なんだ!」
「?」
 当たりを見渡すと、魔道士たちが野犬に襲われている。

「ぐっはなせ!どこから湧いたこいつら」

 戦場がパニックになっていると、魔法少女の2人足元から生首があらわれた。影の中からあらわれたそれは低い声で2人に話しかけた。目つきの鋭い女性だった。首にはトゲトゲしたチョーカーをつけ、くわえタバコをしていた。

「…ずらかるぞ」
「く、黒犬さん?!どうして」
「蜥蜴のやつが、珍しく慌ててきてな。まさか、こんなことになってるなんてな。まさか、お前がいるとはなぁ、カラスウリ」
「はぁ、はぁ、」
「積もる話もしてーが今は無理だな……さて、と。「黒犬戦団(ワンだフル)」……」
 彼女の影からずるりと大きな犬が出てくる。真っ黒い影でできた犬。何匹も何匹も。
「……話は後だ。カラスウリがやべぇ。猫、身体を支えてやれ。影転移(ブラックロード)」
 影に3人は潜っていく。大量の血を残し、3人は黒犬のアジトへ飛んだ。

 影の犬たちは主の転移を見届けるとたちどころに消えていった。
「ち、逃がしたか」
「いかがしましょう」
「王都にもどるぞ。「千変」「黒猫」共に王への反逆の意思あり、特権の返上と指名手配を進言しろ。どうせあの傷じゃあ。しばらく動けまい。」
 部下がさり、男は自分の手にある杖を眺め、ほくそ笑む。
「……本物だ。こいつは、早くほかの杖も手に入れねば。あの方が言ってたように。」



 俺が転移魔法によって飛ばされた場所は、転移駅(ワープステーション)という場所だった。
 王都の近くに駅は建てられていて、王都に入るには、少し歩かなければならないようだ。
 自分と同じようにどこからか来た人たちが次々に現れる。床に当たる部分はマシュマロのようにふかふかしていて、現れる人々は駅員の格好をした姿の魔道士たちに受け止められ、起こされていた。
 部屋の中央には大きな魔道石が浮いていて、そこが転移する際の目印になっているらしい。王都を目指した転移は全てこのような駅に引っ張られるらしく、直接王都の中に転移することはできないらしい。

「ここが王都」
 転移駅の大きな扉を通り過ぎると、明るさに一瞬目が眩んだ。
「すげぇ……」
 圧巻だった。向こう側まで何メートルあろうかと言う道を人々が次々に通り過ぎている。ただ、日本の都会とは違うのは、上空の人通りも多いことだ。箒に乗ったり、空中を歩いたり、人々の活気にあふれていた。
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