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4章 北天狐
6 北の同盟
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北天狐の隠れ里から宿屋へ戻った後、ライラは普段のドレスへと着替えた。
「借りたものをいつまでも着るわけにはいきませんし」
見事な刺繍が施されている北の民族衣装である。変に汚すと悪い。
「別に使う人間はいないからもらってもいいぞ。長からのお詫びのひとつということで」
ライは特に気にするなと言った。
「ですが、どうしましょう。ブランシュのこともあり今更ですが、さすがに珍しい北天狐まで一緒にいると変な噂になるかもしれない」
心配ご無用とライは荷物からイヤリングを取り出した。木の葉を模したデザインの可愛らしいイヤリングである。
これを耳に取り付け、ライが呪文を唱えるとライの姿が一瞬で変わった。
狐から人間の姿となった。
銀色の髪に金の目の可愛らしい少年であった。
「どうよ。これなら目立たないだろう」
「ええ、可愛いわ」
ライラはライとハイタッチをした。
「それなら私の小間使い、ということにしましょう」
「おう、駄賃を弾んでくれよな」
ライは調子よく頷くが、その後ろにリリーが控えていて。ただならぬ雰囲気にライは警戒した。
「そうですね。奥様の小間使いということは、教育は私が任されても良いのでしょう」
「なっ」
「ええ、お願いできるかしら」
ライの警戒に気づいていないのかライラはリリーを教育係に指名した。
「おまかせください。奥様の小間使いに相応しい立ち居振る舞いを身に付けさせてみせます」
早速リリーはライを連れて仕事を教えることにした。勿論厳しいばかりではないつもりである。リリーのポケットには先ほど準備したクッキーや飴玉を入れてある。きちんとできればご褒美として少しずつ渡すつもりである。
なんだか、芸を仕込まれる動物のようだなとライラは呑気に想像した。
「クロード様の元へ行きましょう」
まだベンチェルたちと話し合いをしているところだろう。ライラとしてもベンチェルの話が気になる。
◆◆◆
ライラが別の部屋で着替えをしている間にクロードはベンチェルたちを別の部屋へ案内した。
彼女が急病の時にしっかりと休ませる為にとった部屋である。ここにクロードの私物が置かれていた。
「このお茶の葉はテンラクのものですね。あそこはお茶の質がとってもいいので私も商売で扱わせていただいております」
チェチェは給仕が持ってきてくれたお茶のかおりを楽しみ、産地を言い当てた。
着替えを済ませたライラは、部屋に入りクロードのとなりへと座る。
「まぁ、奥様。先ほどの衣装姿も素敵でしたが、ドレスも良いですね。他にも色んな衣装を着ていただきたいです」
チェチェは後で民族衣装のカタログをお見せしたいとライラに勧める。ライラも異国の衣装には興味があるので是非と答えてしまった。
「それで、お前たちの目的はなんだ」
「北天狐を観察に来ただけだ。そしたら、アルベル辺境伯もやってきているというから話ができればいいと思った」
そんな話を信じられるかとクロードは警戒した。
確かにとベンチェルは話を続ける。ときどきチェチェの補足を足していく。
ベンチェルはアルティナ帝国の現皇帝の子、ベンチェル・アルティナ第3皇子であった。
母親は政略結婚により結ばれたヴァロ部族の首長の娘である。ヴァロ部族というのは、アルティナの最西の部族であり、クロードが知るハン族の本来の名である。
現在アルティナ帝国の皇帝は各部族の首長の血筋の娘を妃に迎え、子を作りそれぞれの部族の新たな首長とさせようと画策していた。
身近な部族であればそこまでの心配はないが、ヴァロ族のような遠方の部族に対して徹底的にそう仕向けていた。
これによりアルティナ帝国皇帝の血を広い地域に広めていき巨大帝国を作ろうとしていた。
ベンチェルはその考えのもとで生まれた皇子であり、ヴァロ族の首長として育てられていった。
教育係はチェチェの養父である。彼も皇帝の命令でヴァロ部族の娘を妻に迎え、チェチェを産ませた。
将来的にはヴァロ部族の首長、西のハァンとする為に教育を受けていた。
その時、チェチェの乳母が極東の島の商人の家の出だったため、東のこと、西のことを学んでいく。
ベンチェルは成長するにつれて立派な青年に育った。同時に困ったことというべきか、彼の興味は魔物の研究へと向けられた。
アルティナ帝国は騎馬民族の集合国家である。元は草原を駆り、獣や魔物を退治しそれを糧にする民族であった。
彼らは獣だけではなく魔物を食用に変える方法を身に着けていった。
その知識はヴァロ部族にも身につき、アルベルにも流れていった。
元はアルベルの地はハン族が狩猟場であり、その考え方が現地の人に広まった。
そういう話はオズワルドから聞いたことがある。
ハン族の血が少し混じっている者もアルベルにはおり、だからこそ公都からすればアルベルは異国の地にも見え、蛮族の土地にも見えた。
ベンチェルの好奇心は魔物たちの生態系についてであった。その研究内容は白熱し、学者たちが舌を巻くほどである。
新たな魔物たちの有効活用の方法を知ることができるかもしれないとアルティナ帝国皇帝は研究に対して奨励してくれた。
おかげでどんどんベンチェルのおたく度が増していった。
既にアルティナ帝国内では滅亡した魔物がヴァロ部族の領域、アルベル辺境に残っていると聞きベンチェルは部族首長になる日を心待ちにしていた。
ベンチェルがアルティナ帝国からヴァロ部族首長に正式任命されたのは去年の夏の頃であった。
「去年の夏、ということは今年の春……我がアルベルへ押し寄せて来た兵士らはそなたの命令だったということだな」
「話は最後まで聞いてくれよ。せっかちだな」
警戒心を解く気配のないクロードに呆れながらベンチェルは去年起きたことを語った。
ベンチェルはヴァロ部族首長、新たなハァンとして任命された数日後叔父たちに騙されて幽閉された。
ベンチェルの祖父、本来の前首長は毒殺されベンチェルも殺される予定であった。
ベンチェルの首を切る予定であったが、やってきたのは学者風の痩身のなよなよした青年である。
「どうしたんだ」
「命乞いをしたよ。叔父さんの機嫌とって、またぐらくぐって」
叔父らはベンチェルの情けさを嘲笑し、洞窟牢屋に閉じ込めてしまった。いつでも殺せるが、アルティナ帝国に対抗できる力を身に着けて見せしめのように殺してやろうと考えていたようだ。
ベンチェルの代わりに実権をとったのはドルゼという名の叔父であった。
彼はアラ族、ジル族と結託して新しい国家作りを計画していた。
アルベル辺境の領地を手に入れて、またさらに公国全土を占領する。そうすればアルティナ帝国、クリスサアム帝国どちらにも匹敵する巨大帝国を築くことができる。
元々ばらばらであった騎馬民族がアルティナ帝国を築き、隣国ミンシン帝国の脅威になったのだ。
自分たちにもできると思ったのだろう。
計画は進み、今年の春の頃に三部族は結託した。
ジル族の魔術師を使い、調教していた魔物を一斉にアルベル辺境へと放り投げ、新しい戦が始まった。
あっという間にアルベルの砦を奪い、三部族は勢いをつけてさらにアルベルの地へと侵略を始めた。
ここで残されたベンチェルは洞窟に顔を出す小型魔物と交流していた。ヴァロ部族、ハン族の領域に棲む北天狐である。
彼はベンチェルに興味津々であった。ベンチェルは彼の質問に答えると一層仲がよくなる。
彼からは外の様子がどうなっているか聞き出していた。
ベンチェルは、自分の耳飾りを北天狐に渡して同じ耳飾りを持つ者が現れればここに捕えられていることを伝えてほしいと話した。
同じ耳飾りを持つ者は、チェチェの事だ。
彼女はベンチェルの目付け役で同行していたが、到着後には商人としてベンチェルと一度別れた。商人としての見聞きの方がベンチェルに有益な情報をもたらすことができると考えて。
おかげでチェチェだけは幽閉事件に巻き込まれなかった。
チェチェはすぐに荷物をまとめて、ベンチェルの叔父から逃げられていた。
ベンチェルの首を公開されていないのであれば彼がどこかで生きていると信じ、ヴァロ部族の村々を転々としていたのである。
北天狐がチェチェを見つけて、無事二人は再会を果たす。
チェチェは見張りの兵士を商売道具で垂らし込み、ベンチェルの脱獄を成功させた。
そのまま行方をくらませて、ベンチェルはチェチェの弟・ナランと身分を隠して行動することになった。
元々万が一の為にとアルティナ帝国の皇帝に頼み込んで作らせた身分である。
夏が終わる頃のことであった。
戦のどさくさに紛れて、各地を転々として叔父たちが敗走させられたという話を耳にした。
「ここで、迎え撃ってヴァロ部族の首長に返り咲きましょう!」
既に領域内ではベンチェルの仲間を募っている。
数年前の戦でも、今回の戦でも大事な男手を奪われたことで現首長の行動に不満を持つ者が多かった。
英雄クロードの活躍により、無駄に命を散らしたヴァロ部族の戦士は多い。それをわかっていながらの今回の戦は他民族の協力を得たからいっても突然のことでついていけなかった。
彼らへ声をかけ続ければ、ドルゼに対抗する兵力を得られるだろう。
「いや、今はアルベルに行ってみよう」
ベンチェルはチェチェが提案した逆方向への道を示した。
「戦が終わって、身分がしっかりしていればアルベル辺境に入ることができる」
「それでどうするのですか?」
「アルベルの地には、アルサードベアという混血種がいるそうだ。興味深い。それと、母国では絶滅した魔物がわんさかといるらしい」
「今は、魔物研究から離れてください」
チェチェは呆れた。
このままヴァロ部族が勝手なことを繰り返せば、アルティナ帝国は兵士をこちらへ送るように仕向けるだろう。最寄りの部族らが皇帝の命令のもとヴァロ部族を潰しにかかるかもしれない。
「このままお母上の故郷を失っていいのですか?」
「勿論よくない。周りの部族らはあのあたりに生息する獣や魔物の貴重性を理解していない。研究前に狩りつくされる可能性がある」
ヴァロ部族が潰されれば、潰した部族の所有物になるだろう。ベンチェルは避けたいと言った。
「研究ばかりですか」
「クロード・アルベルに会ってみよう」
今ヴァロ部族内で争うと、領土内の防衛がおろそかになっていく。アラ族、ジル族は同盟関係といっても彼らはハン族の領地も虎視眈々と狙っている。他部族らが、領土治安維持できていないと判断して介入してくるおそれもある。
「彼と同盟を組み、協力は無理でもアラ族、ジル族へ睨みをきかせてもらおう。それだけでだいぶ動きやすくなる」
「そんな簡単にうまく会えますかね」
「彼は今年結婚したそうだ。新婚旅行しないままらしいし、夫婦旅行にシャフラへ行く可能性もあるだろう」
ジーヴルよりも遭遇する可能性はありえる。同時にシャフラに生息する北天狐についても気になるので、しばらくそこで滞在しよう。
「私はただここで魔物観察をして過ごしたいだけなのではと思っておりましたが、まさか本当に閣下に出会うとは思いませんでした」
チェチェはギルドでクロードに出会えたことを驚いた。表情を表にださなかったが。
これは好機とベンチェルとの出会いをセッティングしようと動いていたら、ベンチェルが北天狐の隠れ里へと消え、同時にクロードの妻であるライラが失踪してしまった。
「というのが私たちのここまできた事情です」
偽造の身分でアルベルの地に踏み入れたことは謝罪するが、ベンチェルの身分を公にできなかったのはこのためである。
「それで、ベンチェル。お前はハン族の族長、だが今は引き落とされた身ということか」
「ああ、そうだ。今の僕はただのベンチェルだ」
ハァンという大層な尊称を持っているが、今は逃亡の身であり何の意味もなしていない。
「僕としては今の自由きままな魔物観察、研究の日々の方が性に合っている。だけど、このままではヴァロ部族が危ういので、叔父たちを倒して首長の地位を取り戻したい」
ベンチェルはじぃっとクロードを見つめた。
「クロード・アルベル辺境伯、僕と手を組んでほしい」
それは先ほど言っていた通り、ベンチェルが部族内の争いをしている間にアラ族、ジル族へ牽制をしてほしい。
おそらく叔父はベンチェルの動きにあわせて二族の応援を求めるだろう。そうなれば、ヴァロ部族内はさらに渾沌を極め、アルティナ帝国の他部族から介入を受けることになる。
「私のメリットはあるのか?」
「僕がヴァロ部族首長になった暁には、今後アルベル辺境、リド=ベル公国へ侵攻しないことを誓おう。アラ族、ジル族がアルベル辺境へ侵攻した際は君らを支援する」
「そなたはアルベル辺境と南下の土地を欲しているのではないのか?」
「あったらいいなというのはあるけど、いたずらに戦を繰り返すのも消耗にしかならない。この長年の歴史を振り返るとどうにもアルベル辺境を武力で手に入れるのは難しいようだ。アルベルの万年冬状態でも厳しかったのだし、君の登場でさらに難しくなったのは明らかだ。当方としては、男手が定期的に減りヴァロ部族の領域の開墾が進まない問題もあるし……侵略するよりも協力関係を結び堂々と魔物研究をさせてもらう方が得策だと判断した」
結局一番最後の欲が隠しきれていない。
「なんだい。疑うのであれば古の魔法道具の血判書も用意しよう。もし、約束を違えれば血を抜かれてもだえ苦しみ死ぬという契約書を」
物騒なものを所持しているようで、ライラは少し表情をこわばらせた。
魔法の血判書は人権的に問題があるとされ、新しく作られることがなくなった道具だ。
希少なものとして残っているが、使われる時は国への冒涜、重罪を犯した者へ使用される。
「そこまでは必要ないが、普通の契約書は作っておこう。作るにはうちの頭脳に任せたいので時間をもらえるか。契約内容にお互い納得すれば、交渉成立にいよう」
「勿論、構わない」
クロードの前向きな返事を聞けてベンチェルとチェチェはほっと安堵した表情を浮かべた。
「雪が少し落ち着いたところでジーヴルに戻ろう」
ベンチェル、チェチェもそれに合わせて荷造りをするという。ここに来た時ギルド登録をすませてあり、必要にあわせてノース・ギルドへの紹介状も持っている。ジーヴルに到着すればすぐに拠点地を定めるという。
「ライラ、少しジーヴルに戻るから」
「わかりました。荷造りしますね」
ライラはにこりと笑い頷いた。
クロードは少し目を丸くした。
ライラの病気を考えると定期的に症状を和らげる温泉がある町で過ごすのがいいだろう。冬の間、騎士数名を残しライラにここで滞在してもらおうと考えた。
「病のことなら心配しないでください。北天狐の秘湯は長く効果が続く為、一度入っただけで冬を超えることができます」
まだ初期の段階であり、今ジーヴルに戻っても問題ないだろう。
「それに万が一の為にとライを寄越してくれました。ライは対処法をご存じのようなのでクロード様は心配しなくていいです」
「いや、しかし……」
未だに治療が判明していない難病である。これから何が起こるかわからないのに。
クロードの表情がくもる。
「私はクロード様のおそばにいたいです。クロード様が私に離れて欲しいというのであれば、ここに残ります」
「そんなことは言っていない!」
クロードは声を荒げた。この後にクロードは嘘でもそういえば良かったのかもしれないと考えた。それでも、ライラにそのような言葉は言いたくない。
「なら、一緒に帰りましょう」
ライラは笑顔でそういった。クロードの素直な声を聞けてうれしそうに。
このような表情をみると、何もいえなくなる。
クロードはすぐに荷造りをリリーや騎士たちに命じた。
その夜にクロードはライラのいる部屋に入るのを躊躇した。
昼間は特に問題なく過ごせていたが、今になって少し不安になる。
今までライラの病について隠していたのだ。それをクロードからではなく、別の場所で知ることになってライラはどう感じたのだろうか。
「あの、いつまでも外で待っていたら冷えますよ」
がちゃと扉を開けてライラはクロードに声をかけた。
部屋の奥に入ると甘い匂いがした。
「リリーにお願いして、作ってもらいました。お酒が少し入ったホットチョコレートです」
宿屋の冬の名物のデザートだという。一口飲むとあまくて体が温かくなる。
「その、ライラ。すまなかった」
「何がですか?」
突然の謝罪の言葉にライラは質問した。
「雪結晶病のことだ」
「まったくです」
かたんとカップがテーブルに置かれる音がした。その言葉は不満のものであるが、声には不満の色がみあたらない。
クロードはじっと彼女の表情を見つめた。
彼女は困ったように笑った。
「私は政治や戦については詳しくありません。あなたの支えになれない時もあるでしょうし、あなたが私抜きで話を進めるのも仕方ないと思っています。ですが、私に関することは、この病については教えてほしかったです」
まだ確証がとれなかったから、確定診断に至れていなかったからと言い訳を口にしそうだった。
言い訳はあくまで言い訳だろう。
途中でもライラは知りたかっただろう。自分の病について。
「でも、あなたが私のために言えなかったのもわかります」
ライラは悲し気に微笑んだ。
「この病気のことを知って、いつかは命を失うかもしれないと知り怖いです」
ライラはクロードを見つめた。
「だから、あなたの傍にいます」
戦や政治の為に、魔物討伐の為、であればライラも覚悟している。貴族の令嬢であり、アルベルの女主人なのだから。
でも、それ以外は一緒にいたい。
「約束してください。これから私に関することは、隠さないでください。傍においてください」
ライラはクロードの手を握った。ホットチョコのおかげで手が少しぬくい。
クロードはライラの姿を見つめた。その瞳は不安で揺れていた。
ここでクロードがライラの為シャフラに残るようにとまだ言われるかもしれないと不安なのだ。
「ああ、わかった。約束する。どうか、私の傍にいてくれ」
クロードはホットチョコのカップをテーブルに置き、ライラの手を握りしめた。ライラはほっとしてクロードの手を強く握りしめた。
外は雪が降り、町を雪でさらに覆いつくす。きっとジーヴルはさらに雪で覆われていることだろう。
5日間に荷造りを済ませつつ、クロードは例の密猟者について情報をまとめた。捕らえた密猟者の話ではまだ仲間がいるようで、情報を元に残りの者たちの捕縛に成功した。
罪状、罰に関してはシャフラの役場、法律家に任せてある。いざというときはジーヴル城へ相談しても構わないとクロードは言づけてある。
これにより数年姿を消していた北天狐をみることができるだろう。
「借りたものをいつまでも着るわけにはいきませんし」
見事な刺繍が施されている北の民族衣装である。変に汚すと悪い。
「別に使う人間はいないからもらってもいいぞ。長からのお詫びのひとつということで」
ライは特に気にするなと言った。
「ですが、どうしましょう。ブランシュのこともあり今更ですが、さすがに珍しい北天狐まで一緒にいると変な噂になるかもしれない」
心配ご無用とライは荷物からイヤリングを取り出した。木の葉を模したデザインの可愛らしいイヤリングである。
これを耳に取り付け、ライが呪文を唱えるとライの姿が一瞬で変わった。
狐から人間の姿となった。
銀色の髪に金の目の可愛らしい少年であった。
「どうよ。これなら目立たないだろう」
「ええ、可愛いわ」
ライラはライとハイタッチをした。
「それなら私の小間使い、ということにしましょう」
「おう、駄賃を弾んでくれよな」
ライは調子よく頷くが、その後ろにリリーが控えていて。ただならぬ雰囲気にライは警戒した。
「そうですね。奥様の小間使いということは、教育は私が任されても良いのでしょう」
「なっ」
「ええ、お願いできるかしら」
ライの警戒に気づいていないのかライラはリリーを教育係に指名した。
「おまかせください。奥様の小間使いに相応しい立ち居振る舞いを身に付けさせてみせます」
早速リリーはライを連れて仕事を教えることにした。勿論厳しいばかりではないつもりである。リリーのポケットには先ほど準備したクッキーや飴玉を入れてある。きちんとできればご褒美として少しずつ渡すつもりである。
なんだか、芸を仕込まれる動物のようだなとライラは呑気に想像した。
「クロード様の元へ行きましょう」
まだベンチェルたちと話し合いをしているところだろう。ライラとしてもベンチェルの話が気になる。
◆◆◆
ライラが別の部屋で着替えをしている間にクロードはベンチェルたちを別の部屋へ案内した。
彼女が急病の時にしっかりと休ませる為にとった部屋である。ここにクロードの私物が置かれていた。
「このお茶の葉はテンラクのものですね。あそこはお茶の質がとってもいいので私も商売で扱わせていただいております」
チェチェは給仕が持ってきてくれたお茶のかおりを楽しみ、産地を言い当てた。
着替えを済ませたライラは、部屋に入りクロードのとなりへと座る。
「まぁ、奥様。先ほどの衣装姿も素敵でしたが、ドレスも良いですね。他にも色んな衣装を着ていただきたいです」
チェチェは後で民族衣装のカタログをお見せしたいとライラに勧める。ライラも異国の衣装には興味があるので是非と答えてしまった。
「それで、お前たちの目的はなんだ」
「北天狐を観察に来ただけだ。そしたら、アルベル辺境伯もやってきているというから話ができればいいと思った」
そんな話を信じられるかとクロードは警戒した。
確かにとベンチェルは話を続ける。ときどきチェチェの補足を足していく。
ベンチェルはアルティナ帝国の現皇帝の子、ベンチェル・アルティナ第3皇子であった。
母親は政略結婚により結ばれたヴァロ部族の首長の娘である。ヴァロ部族というのは、アルティナの最西の部族であり、クロードが知るハン族の本来の名である。
現在アルティナ帝国の皇帝は各部族の首長の血筋の娘を妃に迎え、子を作りそれぞれの部族の新たな首長とさせようと画策していた。
身近な部族であればそこまでの心配はないが、ヴァロ族のような遠方の部族に対して徹底的にそう仕向けていた。
これによりアルティナ帝国皇帝の血を広い地域に広めていき巨大帝国を作ろうとしていた。
ベンチェルはその考えのもとで生まれた皇子であり、ヴァロ族の首長として育てられていった。
教育係はチェチェの養父である。彼も皇帝の命令でヴァロ部族の娘を妻に迎え、チェチェを産ませた。
将来的にはヴァロ部族の首長、西のハァンとする為に教育を受けていた。
その時、チェチェの乳母が極東の島の商人の家の出だったため、東のこと、西のことを学んでいく。
ベンチェルは成長するにつれて立派な青年に育った。同時に困ったことというべきか、彼の興味は魔物の研究へと向けられた。
アルティナ帝国は騎馬民族の集合国家である。元は草原を駆り、獣や魔物を退治しそれを糧にする民族であった。
彼らは獣だけではなく魔物を食用に変える方法を身に着けていった。
その知識はヴァロ部族にも身につき、アルベルにも流れていった。
元はアルベルの地はハン族が狩猟場であり、その考え方が現地の人に広まった。
そういう話はオズワルドから聞いたことがある。
ハン族の血が少し混じっている者もアルベルにはおり、だからこそ公都からすればアルベルは異国の地にも見え、蛮族の土地にも見えた。
ベンチェルの好奇心は魔物たちの生態系についてであった。その研究内容は白熱し、学者たちが舌を巻くほどである。
新たな魔物たちの有効活用の方法を知ることができるかもしれないとアルティナ帝国皇帝は研究に対して奨励してくれた。
おかげでどんどんベンチェルのおたく度が増していった。
既にアルティナ帝国内では滅亡した魔物がヴァロ部族の領域、アルベル辺境に残っていると聞きベンチェルは部族首長になる日を心待ちにしていた。
ベンチェルがアルティナ帝国からヴァロ部族首長に正式任命されたのは去年の夏の頃であった。
「去年の夏、ということは今年の春……我がアルベルへ押し寄せて来た兵士らはそなたの命令だったということだな」
「話は最後まで聞いてくれよ。せっかちだな」
警戒心を解く気配のないクロードに呆れながらベンチェルは去年起きたことを語った。
ベンチェルはヴァロ部族首長、新たなハァンとして任命された数日後叔父たちに騙されて幽閉された。
ベンチェルの祖父、本来の前首長は毒殺されベンチェルも殺される予定であった。
ベンチェルの首を切る予定であったが、やってきたのは学者風の痩身のなよなよした青年である。
「どうしたんだ」
「命乞いをしたよ。叔父さんの機嫌とって、またぐらくぐって」
叔父らはベンチェルの情けさを嘲笑し、洞窟牢屋に閉じ込めてしまった。いつでも殺せるが、アルティナ帝国に対抗できる力を身に着けて見せしめのように殺してやろうと考えていたようだ。
ベンチェルの代わりに実権をとったのはドルゼという名の叔父であった。
彼はアラ族、ジル族と結託して新しい国家作りを計画していた。
アルベル辺境の領地を手に入れて、またさらに公国全土を占領する。そうすればアルティナ帝国、クリスサアム帝国どちらにも匹敵する巨大帝国を築くことができる。
元々ばらばらであった騎馬民族がアルティナ帝国を築き、隣国ミンシン帝国の脅威になったのだ。
自分たちにもできると思ったのだろう。
計画は進み、今年の春の頃に三部族は結託した。
ジル族の魔術師を使い、調教していた魔物を一斉にアルベル辺境へと放り投げ、新しい戦が始まった。
あっという間にアルベルの砦を奪い、三部族は勢いをつけてさらにアルベルの地へと侵略を始めた。
ここで残されたベンチェルは洞窟に顔を出す小型魔物と交流していた。ヴァロ部族、ハン族の領域に棲む北天狐である。
彼はベンチェルに興味津々であった。ベンチェルは彼の質問に答えると一層仲がよくなる。
彼からは外の様子がどうなっているか聞き出していた。
ベンチェルは、自分の耳飾りを北天狐に渡して同じ耳飾りを持つ者が現れればここに捕えられていることを伝えてほしいと話した。
同じ耳飾りを持つ者は、チェチェの事だ。
彼女はベンチェルの目付け役で同行していたが、到着後には商人としてベンチェルと一度別れた。商人としての見聞きの方がベンチェルに有益な情報をもたらすことができると考えて。
おかげでチェチェだけは幽閉事件に巻き込まれなかった。
チェチェはすぐに荷物をまとめて、ベンチェルの叔父から逃げられていた。
ベンチェルの首を公開されていないのであれば彼がどこかで生きていると信じ、ヴァロ部族の村々を転々としていたのである。
北天狐がチェチェを見つけて、無事二人は再会を果たす。
チェチェは見張りの兵士を商売道具で垂らし込み、ベンチェルの脱獄を成功させた。
そのまま行方をくらませて、ベンチェルはチェチェの弟・ナランと身分を隠して行動することになった。
元々万が一の為にとアルティナ帝国の皇帝に頼み込んで作らせた身分である。
夏が終わる頃のことであった。
戦のどさくさに紛れて、各地を転々として叔父たちが敗走させられたという話を耳にした。
「ここで、迎え撃ってヴァロ部族の首長に返り咲きましょう!」
既に領域内ではベンチェルの仲間を募っている。
数年前の戦でも、今回の戦でも大事な男手を奪われたことで現首長の行動に不満を持つ者が多かった。
英雄クロードの活躍により、無駄に命を散らしたヴァロ部族の戦士は多い。それをわかっていながらの今回の戦は他民族の協力を得たからいっても突然のことでついていけなかった。
彼らへ声をかけ続ければ、ドルゼに対抗する兵力を得られるだろう。
「いや、今はアルベルに行ってみよう」
ベンチェルはチェチェが提案した逆方向への道を示した。
「戦が終わって、身分がしっかりしていればアルベル辺境に入ることができる」
「それでどうするのですか?」
「アルベルの地には、アルサードベアという混血種がいるそうだ。興味深い。それと、母国では絶滅した魔物がわんさかといるらしい」
「今は、魔物研究から離れてください」
チェチェは呆れた。
このままヴァロ部族が勝手なことを繰り返せば、アルティナ帝国は兵士をこちらへ送るように仕向けるだろう。最寄りの部族らが皇帝の命令のもとヴァロ部族を潰しにかかるかもしれない。
「このままお母上の故郷を失っていいのですか?」
「勿論よくない。周りの部族らはあのあたりに生息する獣や魔物の貴重性を理解していない。研究前に狩りつくされる可能性がある」
ヴァロ部族が潰されれば、潰した部族の所有物になるだろう。ベンチェルは避けたいと言った。
「研究ばかりですか」
「クロード・アルベルに会ってみよう」
今ヴァロ部族内で争うと、領土内の防衛がおろそかになっていく。アラ族、ジル族は同盟関係といっても彼らはハン族の領地も虎視眈々と狙っている。他部族らが、領土治安維持できていないと判断して介入してくるおそれもある。
「彼と同盟を組み、協力は無理でもアラ族、ジル族へ睨みをきかせてもらおう。それだけでだいぶ動きやすくなる」
「そんな簡単にうまく会えますかね」
「彼は今年結婚したそうだ。新婚旅行しないままらしいし、夫婦旅行にシャフラへ行く可能性もあるだろう」
ジーヴルよりも遭遇する可能性はありえる。同時にシャフラに生息する北天狐についても気になるので、しばらくそこで滞在しよう。
「私はただここで魔物観察をして過ごしたいだけなのではと思っておりましたが、まさか本当に閣下に出会うとは思いませんでした」
チェチェはギルドでクロードに出会えたことを驚いた。表情を表にださなかったが。
これは好機とベンチェルとの出会いをセッティングしようと動いていたら、ベンチェルが北天狐の隠れ里へと消え、同時にクロードの妻であるライラが失踪してしまった。
「というのが私たちのここまできた事情です」
偽造の身分でアルベルの地に踏み入れたことは謝罪するが、ベンチェルの身分を公にできなかったのはこのためである。
「それで、ベンチェル。お前はハン族の族長、だが今は引き落とされた身ということか」
「ああ、そうだ。今の僕はただのベンチェルだ」
ハァンという大層な尊称を持っているが、今は逃亡の身であり何の意味もなしていない。
「僕としては今の自由きままな魔物観察、研究の日々の方が性に合っている。だけど、このままではヴァロ部族が危ういので、叔父たちを倒して首長の地位を取り戻したい」
ベンチェルはじぃっとクロードを見つめた。
「クロード・アルベル辺境伯、僕と手を組んでほしい」
それは先ほど言っていた通り、ベンチェルが部族内の争いをしている間にアラ族、ジル族へ牽制をしてほしい。
おそらく叔父はベンチェルの動きにあわせて二族の応援を求めるだろう。そうなれば、ヴァロ部族内はさらに渾沌を極め、アルティナ帝国の他部族から介入を受けることになる。
「私のメリットはあるのか?」
「僕がヴァロ部族首長になった暁には、今後アルベル辺境、リド=ベル公国へ侵攻しないことを誓おう。アラ族、ジル族がアルベル辺境へ侵攻した際は君らを支援する」
「そなたはアルベル辺境と南下の土地を欲しているのではないのか?」
「あったらいいなというのはあるけど、いたずらに戦を繰り返すのも消耗にしかならない。この長年の歴史を振り返るとどうにもアルベル辺境を武力で手に入れるのは難しいようだ。アルベルの万年冬状態でも厳しかったのだし、君の登場でさらに難しくなったのは明らかだ。当方としては、男手が定期的に減りヴァロ部族の領域の開墾が進まない問題もあるし……侵略するよりも協力関係を結び堂々と魔物研究をさせてもらう方が得策だと判断した」
結局一番最後の欲が隠しきれていない。
「なんだい。疑うのであれば古の魔法道具の血判書も用意しよう。もし、約束を違えれば血を抜かれてもだえ苦しみ死ぬという契約書を」
物騒なものを所持しているようで、ライラは少し表情をこわばらせた。
魔法の血判書は人権的に問題があるとされ、新しく作られることがなくなった道具だ。
希少なものとして残っているが、使われる時は国への冒涜、重罪を犯した者へ使用される。
「そこまでは必要ないが、普通の契約書は作っておこう。作るにはうちの頭脳に任せたいので時間をもらえるか。契約内容にお互い納得すれば、交渉成立にいよう」
「勿論、構わない」
クロードの前向きな返事を聞けてベンチェルとチェチェはほっと安堵した表情を浮かべた。
「雪が少し落ち着いたところでジーヴルに戻ろう」
ベンチェル、チェチェもそれに合わせて荷造りをするという。ここに来た時ギルド登録をすませてあり、必要にあわせてノース・ギルドへの紹介状も持っている。ジーヴルに到着すればすぐに拠点地を定めるという。
「ライラ、少しジーヴルに戻るから」
「わかりました。荷造りしますね」
ライラはにこりと笑い頷いた。
クロードは少し目を丸くした。
ライラの病気を考えると定期的に症状を和らげる温泉がある町で過ごすのがいいだろう。冬の間、騎士数名を残しライラにここで滞在してもらおうと考えた。
「病のことなら心配しないでください。北天狐の秘湯は長く効果が続く為、一度入っただけで冬を超えることができます」
まだ初期の段階であり、今ジーヴルに戻っても問題ないだろう。
「それに万が一の為にとライを寄越してくれました。ライは対処法をご存じのようなのでクロード様は心配しなくていいです」
「いや、しかし……」
未だに治療が判明していない難病である。これから何が起こるかわからないのに。
クロードの表情がくもる。
「私はクロード様のおそばにいたいです。クロード様が私に離れて欲しいというのであれば、ここに残ります」
「そんなことは言っていない!」
クロードは声を荒げた。この後にクロードは嘘でもそういえば良かったのかもしれないと考えた。それでも、ライラにそのような言葉は言いたくない。
「なら、一緒に帰りましょう」
ライラは笑顔でそういった。クロードの素直な声を聞けてうれしそうに。
このような表情をみると、何もいえなくなる。
クロードはすぐに荷造りをリリーや騎士たちに命じた。
その夜にクロードはライラのいる部屋に入るのを躊躇した。
昼間は特に問題なく過ごせていたが、今になって少し不安になる。
今までライラの病について隠していたのだ。それをクロードからではなく、別の場所で知ることになってライラはどう感じたのだろうか。
「あの、いつまでも外で待っていたら冷えますよ」
がちゃと扉を開けてライラはクロードに声をかけた。
部屋の奥に入ると甘い匂いがした。
「リリーにお願いして、作ってもらいました。お酒が少し入ったホットチョコレートです」
宿屋の冬の名物のデザートだという。一口飲むとあまくて体が温かくなる。
「その、ライラ。すまなかった」
「何がですか?」
突然の謝罪の言葉にライラは質問した。
「雪結晶病のことだ」
「まったくです」
かたんとカップがテーブルに置かれる音がした。その言葉は不満のものであるが、声には不満の色がみあたらない。
クロードはじっと彼女の表情を見つめた。
彼女は困ったように笑った。
「私は政治や戦については詳しくありません。あなたの支えになれない時もあるでしょうし、あなたが私抜きで話を進めるのも仕方ないと思っています。ですが、私に関することは、この病については教えてほしかったです」
まだ確証がとれなかったから、確定診断に至れていなかったからと言い訳を口にしそうだった。
言い訳はあくまで言い訳だろう。
途中でもライラは知りたかっただろう。自分の病について。
「でも、あなたが私のために言えなかったのもわかります」
ライラは悲し気に微笑んだ。
「この病気のことを知って、いつかは命を失うかもしれないと知り怖いです」
ライラはクロードを見つめた。
「だから、あなたの傍にいます」
戦や政治の為に、魔物討伐の為、であればライラも覚悟している。貴族の令嬢であり、アルベルの女主人なのだから。
でも、それ以外は一緒にいたい。
「約束してください。これから私に関することは、隠さないでください。傍においてください」
ライラはクロードの手を握った。ホットチョコのおかげで手が少しぬくい。
クロードはライラの姿を見つめた。その瞳は不安で揺れていた。
ここでクロードがライラの為シャフラに残るようにとまだ言われるかもしれないと不安なのだ。
「ああ、わかった。約束する。どうか、私の傍にいてくれ」
クロードはホットチョコのカップをテーブルに置き、ライラの手を握りしめた。ライラはほっとしてクロードの手を強く握りしめた。
外は雪が降り、町を雪でさらに覆いつくす。きっとジーヴルはさらに雪で覆われていることだろう。
5日間に荷造りを済ませつつ、クロードは例の密猟者について情報をまとめた。捕らえた密猟者の話ではまだ仲間がいるようで、情報を元に残りの者たちの捕縛に成功した。
罪状、罰に関してはシャフラの役場、法律家に任せてある。いざというときはジーヴル城へ相談しても構わないとクロードは言づけてある。
これにより数年姿を消していた北天狐をみることができるだろう。
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