33 / 72
4章 北天狐
7 帝都の毒
しおりを挟む
春になる頃、クロードの異母兄リド=ベル大公が視察へ訪れるが、場面はクリスサアム帝国の帝都アンティアに移る。
高級ホテルで夜景を楽しむ少女がいた。アメリーである。
このホテルの持ち主である男の融通で良い部屋に泊り、毎日のように豪遊していた。
明日は誰と遊ぼうかなとテーブルに広がる手紙を眺める。
どれもアメリーの若さと美しさに魅了された貴族や金持ちからの招待状である。
夫のノース子爵が遠方へ異動になり、帝都に残ったアメリーはさらに拍車をかけ遊び惚けていた。
ノース子爵の異動に関しては、政治の仕事において大きなミスを犯し皇帝の怒りを買った為である。
爵位剥奪は免れたものの、職場配置を北の役場へと移される。リド=ベル公国国境付近である。貴族からはその名の通りノース子爵になったのだなと揶揄する者もいて、同情する者もいた。
彼がこのように落ちぶれたのはアメリーに原因があった。
アメリーの散財をまかなうよう身を粉にし働き、疲弊しありえないミスを犯してしまったのである。
本来であればアメリーも一緒についていくべきであろう。そう噂する者もあった。
しかし、アメリーは田舎の暮らしを拒否し帝都に残った。
夫のお金などなくても彼女の為にお金をなげうつ男がたくさんいる。
特に彼女の一番の恋人はカイル第三皇子である。何かあれば、彼がアメリーの為に動いてくれる。
そのうちカイル第三皇子の館へ招かれる予定である。
婚約者がいるというが、カイル皇子は乗り気でなくアメリーを望んでいるという。
そのうちノース子爵とは離婚して、カイル皇子と結婚する約束までしている。
皇子妃、いずれは大公妃である。
色々誤算はあったが、ようやく自分に相応しい地位が得られそうで満足していた。
「あら」
アメリーは招待状ではなさそうな手紙を拾う。
以前、アメリーに北天狐の毛皮のコートをプレゼントすると言っていた伯爵である。
中身を確認するとカイル第三皇子へ自分の罪の軽減をお願いしてほしいというものであった。
北天狐密猟者は大量捕縛され、罰則されている。彼らの雇用者を辿ってみると、例の伯爵であった。
北の賢人と呼ばれ狩りを禁止されている北天狐を密猟し、売買していたことが判明し彼の罪が帝都内でも明らかになった。
他にも禁止されていた密猟にも手を出しており、帝国で禁止されている奴隷売買も行っていることが判明した。
貴族であっても罪は免れない。
よくて永久投獄、悪くて死罪である。
逮捕された伯爵は急いでアメリーに手紙を送ったのがこれである。
「あら、残念ねぇ」
アメリーは興味なさげにぽいっと屑箱の中に手紙を置いた。彼がいなくなったとしてもアメリーには何の痛手もない。
むしろ手つきが厭らしくて最近は嫌悪感を抱いていたのだ。
「さぁて、今度はどのパーティーに出ようかな。あ、宮殿でお茶会ね、いいわね」
男を添わせることはないが、宮殿でのお茶会は憧れである。いずれはあそこで住んでみたいと願うが、願いはかなえられなかった。
ヴィンセント皇太子の妃になった気弱な姉の女官になれればと思ったが、姉は良い返事をくれなかった。それどころか最近のアメリーの行動を嗜める文面を送ってくる。
気弱なくせに生意気なことだと怒ったが、カイル第三皇子が館に招き入れてくれると言ってくれてすぐに機嫌を戻した。
「そうね。明日はこっちの男爵様とご飯食べてお茶会用のドレスを買ってもらいましょう。ああ、楽しいわ」
アメリーは髪を指でいじりすっと撫でた。その時にアメリーの耳飾りが怪しく輝いた。
赤いルビーの蝶々を象ったデザインのものである。
灯りの中できらりと輝くが、一瞬だけじわっと黒い影のようなものが現れて薄れて消えていった。
高級ホテルで夜景を楽しむ少女がいた。アメリーである。
このホテルの持ち主である男の融通で良い部屋に泊り、毎日のように豪遊していた。
明日は誰と遊ぼうかなとテーブルに広がる手紙を眺める。
どれもアメリーの若さと美しさに魅了された貴族や金持ちからの招待状である。
夫のノース子爵が遠方へ異動になり、帝都に残ったアメリーはさらに拍車をかけ遊び惚けていた。
ノース子爵の異動に関しては、政治の仕事において大きなミスを犯し皇帝の怒りを買った為である。
爵位剥奪は免れたものの、職場配置を北の役場へと移される。リド=ベル公国国境付近である。貴族からはその名の通りノース子爵になったのだなと揶揄する者もいて、同情する者もいた。
彼がこのように落ちぶれたのはアメリーに原因があった。
アメリーの散財をまかなうよう身を粉にし働き、疲弊しありえないミスを犯してしまったのである。
本来であればアメリーも一緒についていくべきであろう。そう噂する者もあった。
しかし、アメリーは田舎の暮らしを拒否し帝都に残った。
夫のお金などなくても彼女の為にお金をなげうつ男がたくさんいる。
特に彼女の一番の恋人はカイル第三皇子である。何かあれば、彼がアメリーの為に動いてくれる。
そのうちカイル第三皇子の館へ招かれる予定である。
婚約者がいるというが、カイル皇子は乗り気でなくアメリーを望んでいるという。
そのうちノース子爵とは離婚して、カイル皇子と結婚する約束までしている。
皇子妃、いずれは大公妃である。
色々誤算はあったが、ようやく自分に相応しい地位が得られそうで満足していた。
「あら」
アメリーは招待状ではなさそうな手紙を拾う。
以前、アメリーに北天狐の毛皮のコートをプレゼントすると言っていた伯爵である。
中身を確認するとカイル第三皇子へ自分の罪の軽減をお願いしてほしいというものであった。
北天狐密猟者は大量捕縛され、罰則されている。彼らの雇用者を辿ってみると、例の伯爵であった。
北の賢人と呼ばれ狩りを禁止されている北天狐を密猟し、売買していたことが判明し彼の罪が帝都内でも明らかになった。
他にも禁止されていた密猟にも手を出しており、帝国で禁止されている奴隷売買も行っていることが判明した。
貴族であっても罪は免れない。
よくて永久投獄、悪くて死罪である。
逮捕された伯爵は急いでアメリーに手紙を送ったのがこれである。
「あら、残念ねぇ」
アメリーは興味なさげにぽいっと屑箱の中に手紙を置いた。彼がいなくなったとしてもアメリーには何の痛手もない。
むしろ手つきが厭らしくて最近は嫌悪感を抱いていたのだ。
「さぁて、今度はどのパーティーに出ようかな。あ、宮殿でお茶会ね、いいわね」
男を添わせることはないが、宮殿でのお茶会は憧れである。いずれはあそこで住んでみたいと願うが、願いはかなえられなかった。
ヴィンセント皇太子の妃になった気弱な姉の女官になれればと思ったが、姉は良い返事をくれなかった。それどころか最近のアメリーの行動を嗜める文面を送ってくる。
気弱なくせに生意気なことだと怒ったが、カイル第三皇子が館に招き入れてくれると言ってくれてすぐに機嫌を戻した。
「そうね。明日はこっちの男爵様とご飯食べてお茶会用のドレスを買ってもらいましょう。ああ、楽しいわ」
アメリーは髪を指でいじりすっと撫でた。その時にアメリーの耳飾りが怪しく輝いた。
赤いルビーの蝶々を象ったデザインのものである。
灯りの中できらりと輝くが、一瞬だけじわっと黒い影のようなものが現れて薄れて消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる