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第 五章 王都と陰謀と武闘大会

幕間17話 ある兄妹の転換点⑨。

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    オオガミ様が剣を血糊を振り払いながら鞘に納めながら本陣に戻ってくると辺りはシンと静まり返っています。

「侯爵、騎馬隊からの報告は?」
「・・・・相変わらず、落ち着いているねぇ。報告はあったよ。無事に攻撃に成功したと。後は、残敵掃討に移るとの事だ。」
「・・・深追いだけはしない様にとだけ、伝えて下さい。」
「分かった。伝令!」

    オオガミ様は一騎討ちなど無かったかの様に侯爵様とお話をしています。兄は呆然としたまま固まっています。戦場では、まだ生き残っていた帝国兵は、皆急いで持っていた武器を捨てて両膝をつき、頭の後ろに両腕を組んで王国兵の武装解除を大人しく受け入れています。

    捕虜となった者は、順次王国軍本陣の後方に幾つかの集団に分けて隔離されています。誰も騒ごうとか暴れる者は居らず、誰も彼も顔を青くして静かにしています。そして時折、オオガミ様の方を見ています。
    
    オオガミ様がちょっと捕虜の見廻りに行くと言われて歩いていかれました。
本陣では、オオガミ様がいなくなると途端にホーッと息をつき、ざわめきが広がりました。まるで今まで鋭利な刃物を突き付けられていたのから解放されたように。侯爵様が、ポツリと呟いています。

「以前にオオガミ君の戦う姿を見たけれど、あれもまだ本気じゃ無かったんだねぇ。今回もどこまで本気だったのか分からないけど、少なくともうちの王国には彼に勝てる者はいないだろうね。そうは思わないかい?レナード君?」

    侯爵に声をかけられた、先程まて驚きに固まっていた兄が、とても嬉しそうに誇らしげに頷いている。やはり兄も武人なので、魔法より剣の強い相手に対しては無条件に受け入れやすいのでしょう。自分が仕える主が誰よりも強いということが、ただ誇らしく嬉しいのだ。

    私は剣の腕前も勿論驚いたのですが、あの戦いの最中に白く輝いているお姿は正に聖なる者、神の使徒を体現しているようで、今も目に焼き付いています。あれは何だったのでしょうか?

    オオガミ様が用事を済ませ侯爵様のいる本陣に戻ると、丁度攻撃に出ていた騎馬隊が戻ってきました。皆笑顔で帰って来ました。

    王国軍全体の損害は死者は十人程で殆どがザラ将軍による被害だ。他に何人かが怪我をした程度でした。逆に帝国側は三万の内、死者一万八千人程で捕虜が一万程、無事に逃げ帰ったのは二千人いるかどうかだそうです。正に一方的な圧勝だといえます。侯爵様も戦闘が終わってホッとしたらしく笑顔でした。

    「オオガミ君、どこに行ってたのかな?」
「はい、捕虜の様子を見に。」
「君は殊勲者なんだから、本陣で休んでいればいいのだよ。細かい事は人にやらせなさい。今の所、陛下の軍が来るまで、捕虜の管理と戦場掃除以外にすることは無いからね。」
「侯爵、敵味方のケガ人の治療をしたいのですが、良いですか?」
「何も君がやらなくも良いだろう。」
「侯爵閣下、私にやらせてください。」
「君はオオガミ君の冒険者仲間のシーラ嬢だったね。貴方が行うと。」
「はい、閣下。戦闘は終わりました。今生きている者は、生き残る義務があります。是非手伝わせて下さい。」
「良いだろう。宜しくたのむよ。」
「レナードさんも、彼女の護衛で助けてやって下さい。」
「承知しました。」

    私は戦闘が終われば敵だった者でも、治療しようとするオオガミ様の言葉がうれしかったのです。戦いの中では敵は殲滅しろと言い切る強さと冷徹さ。戦いが終われば敵といえども怪我を癒そうとする優しさも持ち合わせている方だと知り、ますます尊敬しました。
早速、お力になりたくて申し出ました。

    無事に夜が明けて、昼前に王様の率いる援軍が合流しました。早速、侯爵様のいる天幕で戦いの報告会となりました。

    天幕には、国王陛下と近衛騎士団長様と侯爵様とラルフ様とリムルンド辺境伯爵様と辺境伯爵家の騎士団長らしい方と私達三人が同席をしていました。

    リムルンド辺境伯爵様は、オオガミ様に対して以前の様な態度ではなくなりました。一騎討ちが効いているみたいです。何しろ兄から兵達がオオガミ様のことを強いと『雷光』の様だと褒め称えている一方でその余りの強さに恐れられてもいると、オオガミ様にお伝えしたからです。それを聞いたオオガミ様は顔をしかめていましたが。何故顔をしかめたのでしょうか?大勢から誉められるのは、嬉しいはずなのに?

    今後は陛下の連れてきた兵士一万人を、リーラの町郊外に駐屯させて、三ヶ月間国境を監視させる事になりました。
私達は捕虜を連れて王都に帰還します。

    侯爵様から今回の戦いのあらましを聞き、陛下が被害も少なく良くやってくれたと、オオガミ様を誉めてくれました。リルムンド辺境伯爵様がオオガミ様に以前は失礼をしたと、謝罪をしていました。オオガミ様が認められて嬉しく思います。

    私達は捕虜を連れて、王都に帰還することになります。援軍に来た一万はリムルンド辺境伯爵を指揮官にして国境監視を行うため残る事になりました。

    会議が終わり天幕から出ますと、リムルンド辺境伯爵がオオガミ様に自分に仕官しないかと言ってきました。
オオガミ様は以前侯爵様にも誘われたが、お断りしたのでご勘弁下さいとこれを断わられました。

    兄が後で、何故仕官しないのかとお聞きすると、宮仕えは面倒臭いから嫌だと答えられ、兄は勿体ないと言ってました。翌日朝、王都へ向けて出発しました。

    今回の戦いで王国兵の死者が本当に少なくて良かったです。神様感謝します。

(いや、ワシャ何もしとらんよ。)

あら、風の音かしら。声が聞こえたような。

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