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第 九章 町政と商会の始動そして海賊退治。

幕間34話 とある新人騎士達の狂想曲。②

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    俺の名前はアーサルト・オグマ。十八歳だ。最近、士官学校騎士科騎兵部を卒業したばかりの新人騎士だ。

    今日は魔物狩りに王都の北に広がる『魔の森』へ向かう。
 門を出て一時間程森へ走らせると、目的の森に辿り着いた。

    閣下を見ると、俯いて何かぶつぶつと言っている。何をしているのかな?
    馬を離れた場所に繋いで、我々は森の近くまで行く。

    「レナード、魔物の数がかなりいる様だけど、今の騎士団の力で何匹までならやれる?」

閣下が団長に聞いている。

「まずは、一人一匹で頼みます。新人もおりますので。」
「うーん、レナードは甘いなぁ。〈マルチロック〉〈フラッシュ〉。」
「閣下、何匹呼び寄せたので?」
「うん?少ないよ。ゴブリン三十匹だから。」
(げぇ、三十匹かよ。どこが少ないんだよ。)

慌てて剣を抜いて待つと、森からギャイギャイ言いながら、ゴブリン達が集団で出てきた。

「よーし、拔剣用意。敵に向かってかかれー!」

    先輩達は平気な顔をして、ゴブリンに向かって行った。スティンガーも〈ファイアブリッド〉の魔法を撃っている。俺が一匹を倒した時には、ゴブリンは全滅していた。速いな皆んな。

「よーし、次いくぞ。〈マルチロック〉〈フラッシュ〉。」
「閣下、今度は何ですか?」

団長が平気な顔で聞く。

「オークだな。肉と魔石を売るとそれなりに美味しいぞ。ざっと三十匹だ。」
「ええー!マジっすか?」

思わず叫んでいた。

「集中しろよ。さもないと怪我をするぞ。」

森からワラワラとオークが出てきた。

「おや、すまん。トレインしているみたいで、予定より多いみたいだな。数を調整するから。」

そう言うと、攻撃魔法を使い始めた。

「〈エアシックル〉〈エアシックル〉〈ウォーターニードル〉〈ウォーターニードル〉〈ファイアアロー〉。」

魔法を五回唱えると、五匹のオークが倒れる。

「す、凄い。一撃必殺かよ。オリジナル魔法かな。教えてほしいな。」

    スティンガーが後ろで言っている。数が減っても一人二匹は相手にしないといけない。正直一対一なら勝つ自信はあるが、一度に二匹相手は初めてだ。

「新人達、目の前の敵にばかり集中するなよ。乱戦では背中にも気を配れよ。自分の周囲を常に感じとれ。」

閣下が俺達に向かっていう。

「スティンガー、魔法使いは、攻撃だけが仕事じゃないぞ。付与魔法を味方に唱えることで、戦力の底上げをするのも仕事だぞ。こんな風にな。〈エンチャントファイア〉〈エンチャントウィンド〉。」

俺に閣下から魔法がかけられた。

(お、力と速さが上がったぞ。これならいける。)

走り寄りながら、眼前のオークに斬りかかる。足を切りつけると、痛みにオークの動きが止まり、その隙に首を斬りつけた。
かん高い声を発して、オークは倒れた。ほっとした所を後ろから別のオークに斬りつけられる。
マズイと思ったが既に手遅れで、切られると思い、身を固くした。

「〈スタン〉。馬鹿者、なに戦いの場で気を抜いている。入団試験でも回りに気を配れと言っただろうが。」

閣下が俺を叱りつける。オークは俺の後ろで、麻痺して動けなくなっている。

「何をぼうっとしている。さっさととどめをさせ。敵はまだいるんだぞ。」

ハッとして、慌てて倒れているオークにとどめをさす。
何度目かのレベルが上がる音をききながら、昼飯の時間まで夢中で戦いつづけた。

「よし、一旦止め。閣下収納を頼みます。」
「ああ、いいよ。」

何の事かと見ていると、何十匹ものオークの死体を閣下がマジックボックスに納めていく。あれだけの数が全て納められてしまった。
スティンガーは目を見開いて驚いているし、俺も唖然とした。先輩達は全員平気な顔をしている。慣れているのかな。

    「ハンリーさん、あんなに入るものなんですか?」
「閣下だからね。驚くことじゃないよ。」

と軽く言われた。

    飯の後も夕方近くまで魔物狩りをした。今日だけで、身体レベルと職業レベルが倍以上になった。職業レベルはもう少しで剣士が限界になりそうだ。
最後の方は、フラつきながらもオークを斬り続けた。

    「よーし、撤収だ。」

団長の号令で各自〈クリーン〉をかけて、馬に乗る。
フラフラだが王都まで、なんとか落馬せずに戻れたよ。
今日も、飯食って即寝落ちしたのは言うまでもない。

    今日は早くに目が覚めた。身体レベルが上がったお陰か、体の痛みは軽くなっていた。
余程に深い眠りだったのか、すっかり目が覚めてしまった。朝飯前に軽く体を動かしておこうと思い、ベッドから起き上がった。
    模擬剣をもって、屋敷裏の訓練場にむかう。
何故か人影が見えたので、近寄るとなんとレナード団長だった。

「団長、お早うございます。」

型の練習をしていたのを止めて、俺の方に振り返って笑いながら言う。

「おう、早いな。お前も朝練習か?感心だな。」
「昨日早く寝たせいか、目が覚めてしまいまして、体を動かそうと思いまして。」
「そうか。良い心がけだな。」

丁度良いや。周りには人はいないし、前から思っていたことを聞いてみよう。

「団長、一つお聞きして宜しいですか?」
「ん、何かな?答えられる事なら良いが。」
「閣下の事なんですが、あの年で何であんなにお強いのでしょうか。」

俺の質問を聞くと、ピクッとしてから、少しして答えた。

「閣下だからとしか、答えられないな。アーサルト、お前の質問はドラゴンが何故強いかと聞いているのと同じだ。ドラゴンだからとしか答えようがないな。あの方はある意味神様に祝福された方だ。この意味はいつかお前にもわかるだろう。今は人の事よりも己を磨け。あの方の剣や盾になるということは、並大抵ではないぞ。何故ならあの方は我らなどいなくても、お一人で一万の敵を倒せる方なのだからな。」
「一万の敵ってそんなバカな出来る訳がない。」
「嘘ではない。先のクロイセン帝国との戦いは、閣下一人と帝国兵二万五千の戦いだった。国軍は閣下が倒した敵に止めを刺して回ったたけだったからな。しかも敵の将軍が何も出来ずに首を飛ばされたていたからな。それでもあの方にしてみれば、誇ることではなく、必要なことを片付けただけといった感じだった。震えたな。魂の底からな。君にもいつかわかるだろう。さ、私は上がるが、練習を続けなさい。時間がもったいないぞ。」

そう言って、屋敷の方に戻っていった。

    俺は教えられた型の練習をはじめる。その中で入団試験の時の事を思い出していた。

    「それぞれの理由は分かった。閣下と相談してくるので、暫く待つように。」

団長のレナード様がそう言って、一旦部屋を出ていき、戻って来たときには黒髪の少年を連れていた。
入団試験の模擬戦をするから、ついてこいと言われて後につづく。

    初めは、少年が審判で団長から頼まれたのかなと思ったが、なんと模擬戦の相手だという。
舐められたと思い、カッとしたが、模擬戦の結果は惨敗だった。始めの声と共に少年の姿を見失い、いつの間にか後ろを取られて、首に剣を突き付けられていた。
少年からアドバイスされたが、正直全く耳に入ってきていなかったな。
少年が次の人と言ったときに、思わずまだやれると言った途端に、何か有無を言わさない威圧を感じ鳥肌がたち、体が動けなくなった所に少年から言われた言葉に何も言えなくなった。

「学生のお兄さん。負けず嫌いは良いけど、さっき言ったろう。死者に語る権利はないと。黙ってそこで、次の人の試合を見ていな。ここはね、命のやり取りをする人間の集まる場所なんだよ。何度でもトライ出来るなんて、『学生気分』でいて良い場所じゃないんだよ。」

    それまで笑顔を見せていた少年が、まるで別人の様に近寄りがたい人に感じ、ただ黙って引き下がった。    
    その後、スティンガーが少年を伯爵本人だと見破った。

    その存在で相手を動けなくさせる程の威風を見せつけられていたので、その事実はすんなりと納得できた。
これ程の人なら納得出来る。その場で入団をお願いした。

    模擬剣を振りながら、そんな事を思い出していたら、スティンガーが朝飯だと呼びに来てくれた。

さて、今日の飯は何かな?

 
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