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第十四章 イーストン解放編

幕間71話 ある狐幼女の絵日記。②

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    私はネル。八歳の女の子です。

    昨日、旅の司祭様が今住んでいるテント村にきて、病気や怪我をしていた人達を全員治して下さったの。
    しかも、治して回った家には、お金も渡してくれて、昨日は久々にお腹いっぱい食べることが出来たよ。今日も朝ご飯を食べられて嬉しかったな。この後お母さんと一緒に教会へお礼の挨拶と、渡されたお手紙を持って行く予定なんだ。あの司祭様は居るかな。お会いしたらキチンとお礼を言わないとね。

「すみません。少し宜しいでしょうか?」

    お母さんが、教会の前を掃除している綺麗なお姉ちゃんに話しかけると、微笑みながらこっちを向いたの。

「はい、何でしょうか?」
「実は、昨日旅の司祭様が来られまして、治療して頂きまして、その時にこの手紙を教会に見せなさいと言われまして。」

    お母さんが懐から貰った手紙をお姉ちゃんに見せると、お姉ちゃんは、ニッコリ笑うと 優しく話しかけてくれた。

「あの方に救われた方ですね。どうぞこちらに。司祭様に会って貰います。」

そう言うと、教会の扉を開けて中に案内してくれました。

    司祭様と言うので、てっきりあのお兄ちゃんかと思っていたら、白いお髭のお爺さんだったよ。お兄ちゃんはどうしたのかな?
お母さんも気になったようで、お爺さんの司祭様に聞いてました。

「司祭様、お礼を言いたいので、昨日私達を治して下さった旅の司祭様はいらっしゃいますか?」
「あのお方は、今朝早くに、次の街を目指して旅立たれましたよ。」
「そうなんですか。命を救われ、その上生活費までお渡しくださり、私達母子はあの方に言い尽くせぬご恩を頂きました。改めてお礼をお伝えしたかったのですが・・・。」
「昨日、あの方から何か言われませんでしたか?」
「はい、命が助かったのは、この子をしっかりと育て上げる様に、神様がお情けを下さったのだと言われました。」
「その通りですよ。あの方が望むのは、助けた者が精一杯その後を正しく生きていくことです。その為にあの方は弱い者を助けて回っているのです。貴女もその子をしっかりと育て上げなさい。あの方が望むのは只それだけです。」
「そうですね。分かりました。精一杯この子を育てていきます。」
「それで、この手紙についてですが、承知しました。あの方からの紹介であれば、お約束通り致しましょう。お母さん、まず貴女にお仕事を紹介します。病み上がりの身ですので、あまり重労働ではなく、働ける仕事にしましょう。仕事中は娘さんは教会でやっている、孤児院や養護院で預かりましょう。仕事が終わった後に引き取りに来て下さい。また、公営の仕事に着くと、公営の借家をタダで借りられますよ。詳しくは、この手紙を持って役場の民政部に申し出なさい。詳しい仕事の内容や住まいについての説明をうけられます。ここの領主様は弱い者の味方です。安心して相談をしなさい。」
「判りました。ありがとうございます。早速行ってみます。」

お母さんは、お礼を言って次に役場のある建物に向かったの。

「こんにちは。ご用件は何でしょうか。」
「はい、教会の司祭様から紹介されてこれを渡されました。」

そう言って、先程渡された手紙と、旅の司祭様から渡された手紙を出して渡す。

「まあ、これは。少しお待ち下さい。担当者を呼んで参りますから。」

そう言って受付のお姉ちゃんは、奥に行ったかと思うと代わりにおじちゃんを連れて来た。

「お待たせしました。私が担当のアルトリンゲン・バイザーです。」
「宜しくお願いします。」
私もお母さんと一緒に頭を下げた。

「お手紙を確認しました。まずお仕事ですが、最近まで病に臥せっていたとありましたが、もうお体は大丈夫なのですか?」
「はい、体自体はもう治りました。旅の司祭様に治して頂きました。」
「成る程。了解しました。いまご紹介出来る公営の職場は三つありますが、女性ですし、伯爵家直営の農園でのお仕事はどうでしょうか?お給料は月金貨一枚です。朝の八時半から夕方の四時半までのお仕事で、昼の休憩は十二時から午後の一時までの一時間です。如何でしょうか?」
「そんなにお給料が良いなんて、本当に嘘ではないのですか?」
「ええ、間違い有りませんよ。税金にしたって、給金から毎月人頭税で金貨一枚の中から、銀貨十枚を徴収しますが、それ以外は一切かかりません。農園で働いて貰っている内は、借家の家賃も無料ですから。実質毎月銀貨九十枚は確定して受け取れますので安心してください。他にご質問は?」
「この町はなんでここまで私達の面倒を見てくださるのですか?」
「はい。それは、この町のご領主のオオガミ伯爵様がその様に取り計らえと言われております。伯爵はスラムなんかに落ち着いて、有るか無いかの収入で、家族を養いながら、生きていくのは大変に困難である事。それなら、キチンと働いてもらい、しっかりとしたお給料を貰って、生活をしてもらった方が、町の為になるし、本人たちの生活の為にもなるから。そう言われています。」
「そうなんですね。以前住んでいた土地のご領主様とはすごく違いますのね。助かります。宜しくお願いします。」

お母さんが、おじさんに頭を下げていました。

「では、お母さん。仕事場の農園へは、この後お連れしますが、まずは戸籍登録と雇用契約書を作りましょう。それから農園へ案内して、その後に公営の借家にご案内します。家の鍵はその場でお渡ししますね。では、こちらの書類を確認して欲しいのですが、字は読めますか?」
「はい。読みはできますが書けないのですけど。」
「判りました。私が代筆させて頂きますが、宜しいですか?」
「お願い致します。」

    おじさんから渡された、紙をお母さんはしっかり読んでいましたが、『間違い有りません』て言って、おじさんに、名前を書いてもらいました。
お母さんは、久々にニコニコしていて、私も嬉しいです。


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