一度私が振ったらしい美形の歳下ワンコくんが溺愛してきます。

森野きの子

文字の大きさ
2 / 50

2

しおりを挟む
 晴れて憧れの美容専門学校に入学した私は、母の保険金だけではやっていけないと思い、学校が提供する奨学金制度を利用し、深夜の短時間でも働けるコンビニでバイトを始めた。
 教材費は含まれているものの、練習するウィッグや小物はいくらあっても足りない。
 メイクも百均がほとんどで、デパコスなんて到底手が出ない。モヤシと鶏胸肉、時々こっそり廃棄弁当を持ち帰る日々で、周りの溌剌さと斬新なセンスに気後れした。
 絶対に馴染めないと思ったので、グループ実習以外は一人で行動し、社会人生活で会得したそつなく当たり障りのない付き合いでやり過ごしたが、あちらも特に私に興味などなく、(それでもなかには意地の悪いからかいを囁く人もいたけれど)特に問題のない日々を過ごした。私自身特筆に値する事柄(グランプリを取ったとか)はなかったけれど、年に三度のコンテストやショーなどのイベント、海外研修旅行でパリに行けたのは、とてもいい経験になった。

 国家試験も終わり、卒業を間近に控えた三月、初めて飲み会に誘われた。
 いつもならやんわり断っていたのだけれど、珍しく最後だからという理由で食い下がられ、せっかくなので参加することにした。正直、何を話せばいいのかわからない同級生たち(というのが正しいのかわからないけれど)とつるむより、ウィッグと向き合う時間がはるかに多かった。でも、最後だし、せっかくだから、と少し浮き立った気持ちを誤魔化しきれない。

 切りそろえた重めの前髪、襟足とサイドは長めに、毛先を梳いた。左サイドにひと房、ワインレッドのメッシュを入れた(一度やってみたかった)ヘアスタイルに、太めに目尻に向かって鋭くアイラインを引き、マットの赤リップも塗った。
 オフショルのオーバーサイズの黒ニットにバロックパールのネックレス、スキニータイプのレギンスとストラップヒール、そして母の形見であるチェーンショルダーバッグを合わせた。

 鏡に向かって何度も全体を眺め、これはきっと当たり障りないと自分に言い聞かせる。
 そして、待ち合わせの居酒屋に行くと、すでに八人ほどの人が集まっていた。そのうち女の子が五人もいる。そして、今どきのオーバーサイズ感を上手く着こなした子たちに気後れしてしまった。メッシュなんか入れてこなければよかった。くすみラベンダーカラーやベージュ系ピンクの髪色の子もいる。パステルカラーやネオンカラーの使い方が今時で、黒色多めの私は明らかに浮いている。
「井上さん、やっぱオトナって感じですねー」
 そう声をかけてくれたのは、コンテストで同じ班だった原田|未来(みくる)ちゃん。今回彼女が誘ってくれたのだ。鮮やかでジューシーな赤リップで大きく微笑む。
「そ、そんなこと……」
「すごい尖ってますねー。年代? 年季? 違うってかんじでかっこいー」
 と黒髪ワンレンの女の子が横から入ってきた。私を美魔女と呼び、他の女の子と男の子たちは示し合わせたようにくすくすと笑い、目配せ合う。明らかに歓迎されていないのが伝わってくる。
「あ……あ、あはは……」
 こんな時、どうしていいのかわからない。引きつった愛想笑いをしながら、胸が苦しくなった。
「やー、悪ぃ! お待たせー」
 後ろから聞こえてきた溌剌とした声に思わず肩が竦んだ。二十歳と二十四歳になろうかという私じゃ、いや、どの年代でも人と付き合う経験の乏しい私が上手くやれるはずがない。
 やっぱり来なければよかった。場違いも甚だしい。ちょっと飲んですぐ帰ろう。いや、もう帰りたい。
「あっ。井上さん来てくれたんだ」
 と、後ろから私を覗き込んだのは、長めのスパイラルパーマと鼻と唇が印象的だったあの男の子――、小野塚淳くんだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...