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晴れて憧れの美容専門学校に入学した私は、母の保険金だけではやっていけないと思い、学校が提供する奨学金制度を利用し、深夜の短時間でも働けるコンビニでバイトを始めた。
教材費は含まれているものの、練習するウィッグや小物はいくらあっても足りない。
メイクも百均がほとんどで、デパコスなんて到底手が出ない。モヤシと鶏胸肉、時々こっそり廃棄弁当を持ち帰る日々で、周りの溌剌さと斬新なセンスに気後れした。
絶対に馴染めないと思ったので、グループ実習以外は一人で行動し、社会人生活で会得したそつなく当たり障りのない付き合いでやり過ごしたが、あちらも特に私に興味などなく、(それでもなかには意地の悪いからかいを囁く人もいたけれど)特に問題のない日々を過ごした。私自身特筆に値する事柄(グランプリを取ったとか)はなかったけれど、年に三度のコンテストやショーなどのイベント、海外研修旅行でパリに行けたのは、とてもいい経験になった。
国家試験も終わり、卒業を間近に控えた三月、初めて飲み会に誘われた。
いつもならやんわり断っていたのだけれど、珍しく最後だからという理由で食い下がられ、せっかくなので参加することにした。正直、何を話せばいいのかわからない同級生たち(というのが正しいのかわからないけれど)とつるむより、ウィッグと向き合う時間がはるかに多かった。でも、最後だし、せっかくだから、と少し浮き立った気持ちを誤魔化しきれない。
切りそろえた重めの前髪、襟足とサイドは長めに、毛先を梳いた。左サイドにひと房、ワインレッドのメッシュを入れた(一度やってみたかった)ヘアスタイルに、太めに目尻に向かって鋭くアイラインを引き、マットの赤リップも塗った。
オフショルのオーバーサイズの黒ニットにバロックパールのネックレス、スキニータイプのレギンスとストラップヒール、そして母の形見であるチェーンショルダーバッグを合わせた。
鏡に向かって何度も全体を眺め、これはきっと当たり障りないと自分に言い聞かせる。
そして、待ち合わせの居酒屋に行くと、すでに八人ほどの人が集まっていた。そのうち女の子が五人もいる。そして、今どきのオーバーサイズ感を上手く着こなした子たちに気後れしてしまった。メッシュなんか入れてこなければよかった。くすみラベンダーカラーやベージュ系ピンクの髪色の子もいる。パステルカラーやネオンカラーの使い方が今時で、黒色多めの私は明らかに浮いている。
「井上さん、やっぱオトナって感じですねー」
そう声をかけてくれたのは、コンテストで同じ班だった原田|未来(みくる)ちゃん。今回彼女が誘ってくれたのだ。鮮やかでジューシーな赤リップで大きく微笑む。
「そ、そんなこと……」
「すごい尖ってますねー。年代? 年季? 違うってかんじでかっこいー」
と黒髪ワンレンの女の子が横から入ってきた。私を美魔女と呼び、他の女の子と男の子たちは示し合わせたようにくすくすと笑い、目配せ合う。明らかに歓迎されていないのが伝わってくる。
「あ……あ、あはは……」
こんな時、どうしていいのかわからない。引きつった愛想笑いをしながら、胸が苦しくなった。
「やー、悪ぃ! お待たせー」
後ろから聞こえてきた溌剌とした声に思わず肩が竦んだ。二十歳と二十四歳になろうかという私じゃ、いや、どの年代でも人と付き合う経験の乏しい私が上手くやれるはずがない。
やっぱり来なければよかった。場違いも甚だしい。ちょっと飲んですぐ帰ろう。いや、もう帰りたい。
「あっ。井上さん来てくれたんだ」
と、後ろから私を覗き込んだのは、長めのスパイラルパーマと鼻と唇が印象的だったあの男の子――、小野塚淳くんだった。
教材費は含まれているものの、練習するウィッグや小物はいくらあっても足りない。
メイクも百均がほとんどで、デパコスなんて到底手が出ない。モヤシと鶏胸肉、時々こっそり廃棄弁当を持ち帰る日々で、周りの溌剌さと斬新なセンスに気後れした。
絶対に馴染めないと思ったので、グループ実習以外は一人で行動し、社会人生活で会得したそつなく当たり障りのない付き合いでやり過ごしたが、あちらも特に私に興味などなく、(それでもなかには意地の悪いからかいを囁く人もいたけれど)特に問題のない日々を過ごした。私自身特筆に値する事柄(グランプリを取ったとか)はなかったけれど、年に三度のコンテストやショーなどのイベント、海外研修旅行でパリに行けたのは、とてもいい経験になった。
国家試験も終わり、卒業を間近に控えた三月、初めて飲み会に誘われた。
いつもならやんわり断っていたのだけれど、珍しく最後だからという理由で食い下がられ、せっかくなので参加することにした。正直、何を話せばいいのかわからない同級生たち(というのが正しいのかわからないけれど)とつるむより、ウィッグと向き合う時間がはるかに多かった。でも、最後だし、せっかくだから、と少し浮き立った気持ちを誤魔化しきれない。
切りそろえた重めの前髪、襟足とサイドは長めに、毛先を梳いた。左サイドにひと房、ワインレッドのメッシュを入れた(一度やってみたかった)ヘアスタイルに、太めに目尻に向かって鋭くアイラインを引き、マットの赤リップも塗った。
オフショルのオーバーサイズの黒ニットにバロックパールのネックレス、スキニータイプのレギンスとストラップヒール、そして母の形見であるチェーンショルダーバッグを合わせた。
鏡に向かって何度も全体を眺め、これはきっと当たり障りないと自分に言い聞かせる。
そして、待ち合わせの居酒屋に行くと、すでに八人ほどの人が集まっていた。そのうち女の子が五人もいる。そして、今どきのオーバーサイズ感を上手く着こなした子たちに気後れしてしまった。メッシュなんか入れてこなければよかった。くすみラベンダーカラーやベージュ系ピンクの髪色の子もいる。パステルカラーやネオンカラーの使い方が今時で、黒色多めの私は明らかに浮いている。
「井上さん、やっぱオトナって感じですねー」
そう声をかけてくれたのは、コンテストで同じ班だった原田|未来(みくる)ちゃん。今回彼女が誘ってくれたのだ。鮮やかでジューシーな赤リップで大きく微笑む。
「そ、そんなこと……」
「すごい尖ってますねー。年代? 年季? 違うってかんじでかっこいー」
と黒髪ワンレンの女の子が横から入ってきた。私を美魔女と呼び、他の女の子と男の子たちは示し合わせたようにくすくすと笑い、目配せ合う。明らかに歓迎されていないのが伝わってくる。
「あ……あ、あはは……」
こんな時、どうしていいのかわからない。引きつった愛想笑いをしながら、胸が苦しくなった。
「やー、悪ぃ! お待たせー」
後ろから聞こえてきた溌剌とした声に思わず肩が竦んだ。二十歳と二十四歳になろうかという私じゃ、いや、どの年代でも人と付き合う経験の乏しい私が上手くやれるはずがない。
やっぱり来なければよかった。場違いも甚だしい。ちょっと飲んですぐ帰ろう。いや、もう帰りたい。
「あっ。井上さん来てくれたんだ」
と、後ろから私を覗き込んだのは、長めのスパイラルパーマと鼻と唇が印象的だったあの男の子――、小野塚淳くんだった。
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