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「……ごめん」
シャンプー剤を洗い流していた時、吉沢さんの寝ぼけ半分の声がした。
「私、挽回できました?」
「……うん……」
「お疲れなんですね。吉沢さん」
「いや、歳かな」
「まだ早くないですか?」
「井上と十くらい違うだろ、俺」
「私、二十七です」
「俺、三十六だもん」
「十もないじゃないですか」
「誤差じゃないか」
シャンプー剤をすっかり洗い流して、タオルドライをする。
「評判通りだ。スカルプマッサージ効いたな。おかげで目が冴えた」
冗談混じりかと思ったけれど、吉沢さんは深夜まで練習に付き合ってくれた。
練習が終わったのは午前一時。ウィッグでのカット&ブローをみっちり教えてもらい、痩せすぎと心配され、深夜もやっているチェーンの定食屋に行くことになった。
「次はカットモデルでやってみるか?」
注文をしたあと、吉沢さんに言われ、目の前が明るくなった。
「本当ですか?」
「俺は出来てきたなと思うよ。ただウイッグと実際の人間じゃ全然違う。本当に十人十色、生え方やつむじの位置でシザーの入れ方が変わってくる。切り始めの位置やレイヤーの入れ方、ウイッグでイメージできていたのが、実際のモデルを使うと全く出来なくなることもある。こればっかりは場数を踏んでいくしかない。基本はしっかり出来てるんだから、大丈夫だ」
「ありがとうございます」
思わず胸が熱くなった。次のステップだ。店長のテストを受けて合格しなければならないという関門はあるけれど、吉沢さんが推薦してくれるという。テストを受ける資格が貰えたのだ。
帰りは車で送ってもらい、寮とは名ばかりの古いアパートに戻ったのは、三時前だった。七時には出勤して朝練もある。シャワーを浴びて、メイクを落とすのが精一杯で、オールインワンの保湿剤を塗り、ベッドマットに倒れ込んだ。
こんな調子だからか、同い年のスタイリストや年下の先輩がいて、時々やりづらさはあるものの、やることが多すぎて悩んでいる暇もない。
一日も早くスタイリストになりたい。
誰かの、ささやかな非日常やご褒美、コンプレックス解消、自己表現等など大小様々な思いの手助けをしたい。
そして、人生にときめく瞬間を持ってもらいたい。
笑顔でお礼を言ってもらえる美容師になりたい。
そうなる日が来れば、今までの日々のカタルシスを感じられる気がする。
心底独りぼっちが好きなわけじゃない。他人を求めないわけじゃない。だけど、求め方がわからない。
またあの時みたいに萎えられたりでもしたら、もうすでに恋愛不振症なのに、二度と立ち直れなくなる。
恋愛どころか、気の置けない友人もいない。同じアシスタント同士、飯田さんとはよく練習をするけれど、友達なわけじゃないので、プライベートで会ったこともない。久しぶりに誰かと一緒に食事をしたせいだろうか。無性に人恋しい。
真っ暗な部屋で、うっすら浮かぶ天井を眺めていると、不安で落ち着かなくなる。
雑念を消そうと目を閉じる。瞼に浮かんだのは、小野塚くんのまっすぐ私を見つめる黒い瞳。即、目を開いた。
なんで、今、小野塚くん? 写真とはいえ久しぶりに見たから?
思わず左胸に手を当てる。ビックリしたせいか、鼓動が早い。
もっと、別のあったでしょ、私。
カットでステップアップしましたとかさ。なんで小野塚くんなのよ。
両手でほぼを挟むように叩いてもう一度目をつぶる。
あーもう、寝よ寝よ。ギュッと目を瞑る。
案外すんなり眠りに落ちた。
シャンプー剤を洗い流していた時、吉沢さんの寝ぼけ半分の声がした。
「私、挽回できました?」
「……うん……」
「お疲れなんですね。吉沢さん」
「いや、歳かな」
「まだ早くないですか?」
「井上と十くらい違うだろ、俺」
「私、二十七です」
「俺、三十六だもん」
「十もないじゃないですか」
「誤差じゃないか」
シャンプー剤をすっかり洗い流して、タオルドライをする。
「評判通りだ。スカルプマッサージ効いたな。おかげで目が冴えた」
冗談混じりかと思ったけれど、吉沢さんは深夜まで練習に付き合ってくれた。
練習が終わったのは午前一時。ウィッグでのカット&ブローをみっちり教えてもらい、痩せすぎと心配され、深夜もやっているチェーンの定食屋に行くことになった。
「次はカットモデルでやってみるか?」
注文をしたあと、吉沢さんに言われ、目の前が明るくなった。
「本当ですか?」
「俺は出来てきたなと思うよ。ただウイッグと実際の人間じゃ全然違う。本当に十人十色、生え方やつむじの位置でシザーの入れ方が変わってくる。切り始めの位置やレイヤーの入れ方、ウイッグでイメージできていたのが、実際のモデルを使うと全く出来なくなることもある。こればっかりは場数を踏んでいくしかない。基本はしっかり出来てるんだから、大丈夫だ」
「ありがとうございます」
思わず胸が熱くなった。次のステップだ。店長のテストを受けて合格しなければならないという関門はあるけれど、吉沢さんが推薦してくれるという。テストを受ける資格が貰えたのだ。
帰りは車で送ってもらい、寮とは名ばかりの古いアパートに戻ったのは、三時前だった。七時には出勤して朝練もある。シャワーを浴びて、メイクを落とすのが精一杯で、オールインワンの保湿剤を塗り、ベッドマットに倒れ込んだ。
こんな調子だからか、同い年のスタイリストや年下の先輩がいて、時々やりづらさはあるものの、やることが多すぎて悩んでいる暇もない。
一日も早くスタイリストになりたい。
誰かの、ささやかな非日常やご褒美、コンプレックス解消、自己表現等など大小様々な思いの手助けをしたい。
そして、人生にときめく瞬間を持ってもらいたい。
笑顔でお礼を言ってもらえる美容師になりたい。
そうなる日が来れば、今までの日々のカタルシスを感じられる気がする。
心底独りぼっちが好きなわけじゃない。他人を求めないわけじゃない。だけど、求め方がわからない。
またあの時みたいに萎えられたりでもしたら、もうすでに恋愛不振症なのに、二度と立ち直れなくなる。
恋愛どころか、気の置けない友人もいない。同じアシスタント同士、飯田さんとはよく練習をするけれど、友達なわけじゃないので、プライベートで会ったこともない。久しぶりに誰かと一緒に食事をしたせいだろうか。無性に人恋しい。
真っ暗な部屋で、うっすら浮かぶ天井を眺めていると、不安で落ち着かなくなる。
雑念を消そうと目を閉じる。瞼に浮かんだのは、小野塚くんのまっすぐ私を見つめる黒い瞳。即、目を開いた。
なんで、今、小野塚くん? 写真とはいえ久しぶりに見たから?
思わず左胸に手を当てる。ビックリしたせいか、鼓動が早い。
もっと、別のあったでしょ、私。
カットでステップアップしましたとかさ。なんで小野塚くんなのよ。
両手でほぼを挟むように叩いてもう一度目をつぶる。
あーもう、寝よ寝よ。ギュッと目を瞑る。
案外すんなり眠りに落ちた。
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